ビッグ・ブラザー 1
エスポワール戦隊、ジャ・アーク、政府。3つの勢力の思惑が錯綜している中、今まで抗争に関わって来なかった市民達も選択を迫られていた。
「ママ。怖いよ」
「大丈夫。パパも付いているから」
「お前達のことは、俺が守るからな」
体育館を始めとした避難所には市民達が詰めかけていた。戦いの余波に巻き込まれない様に、肩を寄せ合いながら震えていた。
表では、自衛隊員や政府から派遣されたユーステッドの軍人達が警備に当たっていた。彼らは避難して来る人々を何重にもチェックしていた。
「リングやベルトの持ち込みは無し。免許証、戸籍謄本確認。SNSや過去の発言に問題も無し。通せ」
持ち物。本人の犯罪歴。SNSの書き込みなど。清廉潔白な人間だけが通過していた。一方、どれか一つでも引っ掛かった者は容赦なく弾かれていた。
「待ってくれ! ガキの頃に万引きしただけだろ!?」
「転売は犯罪じゃないだろ!? お前達、国民を守る軍人だろ!? 瑕疵がある奴は人間じゃねぇってのか!」
「黙れ。お前達がいると、他の者達にも危害が及ぶ」
「でしたら! この子をお願いします! 私はどうなっても構いませんから! この子だけは! この子は何の罪も犯していません!」
「……分かった。その子だけは預かります」
弾かれた者達の恐怖が木霊する。中には自棄になった者が、リングを起動させて道連れを測るも、強化外骨格を着用した軍人達から一斉砲火を浴びて、肉片となり果てていた。
保護して貰えなかった者達は逃げ惑う。あるいは、徒党を組んで生き延びようと企てるも。
「待て。避難所に逃げ込めていないということは、お前達は悪人だな」
「ち、違う! 俺達はただ避難し遅れただけで……」
「嘘は止めろ。お前達には『悪人』の証が刻まれているぞ」
「クッ。やるしかねぇ!!」
皇と戦う決意をした隊員達は全員がカラードとなっていた。実戦経験も人食いも行っていない怪人達はなす術もなく一方的に蹂躙されるだけだった。
「もう、良い。お前だけでも逃げてくれ」
「バカ言わないで! だって、私達。来月には結婚するって……」
「エスポワール戦隊だ! そこの男! お前は、過去に珍走団にて近隣住民達に騒音と恐怖と言う苦痛を与えた! お前の様な屑が生きて良い筈がない! さぁ、お嬢さん。離れなさい」
「嫌! この人を殺すなら、私も殺」
躊躇わずにクロスボウ型のガジェットの引き金を引いた。放たれた矢は、立ちふさがった女性の眉間を撃ち抜いていた。男は激昂し、リングを起動させようとしたが、バット型のガジェットで頭を打ち砕かれた。
「全く。悪人を庇おうという心持ちが理解できん!」
「ベゴニアさん! 次に行きましょう!」
いつもの様に勝利のポーズを決めることも無く、彼らは去って行った。後には2つの死体が残されていた。
~~
全国のハト教の警備に当たっていた者達もまたカラードであった。人里から、少し離れた場所にあるだけに避難して来る者は少なかったが、いない訳ではなかった。
「な、なぁ。ここの施設に入れば殺されずに済むんだろ? 俺、真面目に改心するから、頼む。入れてくれ!」
男は涙を浮かべながら懇願していたが、向けられる視線は侮蔑に満ちた物であり、年配の信者は頭を掻きながら言った。
「こうなるまで、反省しないという時点で手遅れなのですよ。ここに入信する者達は、どんな小さな罪でも自覚してやって来ているのです」
「……え?」
「要するに。貴方を受け入れる気はないということです」
年配信者は、銃剣型のガジェットの引き金を引いた。放たれた銃弾は男の眉間を撃ち抜いていた。隊員達に引きずられて、死体は何処かへと運ばれた。
「本当に、これでいいんでしょうか?」
「稚内君。このハト教内には、君のお母さんもいるのです。一度罪を犯した人間は、次も何をするか分かりません。これも皆の為です」
「……分かりました」
この施設を作ってくれた大坊には感謝しているし、母親の面倒を見てくれていた桜井にも頭が上がらない。同時に、播磨の陰謀を打ち砕いてくれた中田にも恩義を感じている。
過去に悪事を犯した者でも更生することもあれば、誰かを助けることもある。だが、エスポワール戦隊は一切の可能性を否定する。これがおかしいということは、彼にも分かっていた。
「(もしも、基地が襲撃されたり、怪人達が狂暴化することが無かったら。こんなことにはなっていなかったのかな)」
しかし、同時に怪人や悪の組織を許容することのできない気持ちもあった。桜井達の送迎を担当した後、本当に擦れ違いで基地が襲撃を受け、多くの同胞が亡くなったことも知った。
「(すまねぇ。桜井さん、中田さん。俺は身近な人を守るので手一杯だ)」
稚内はコバルトブルー色になった強化外骨格を一撫でした後、見張りを続けていた。今度やって来たのは、若い男女の集団だった。
「さぁ、稚内君。準備をしなさい。彼らには悪人の証が浮かんでいます」
「……了解」
今の自分を知れば、優しかった母親や桜井達は何と言うだろうかと言う考えが過ったが、首元に電流が走った瞬間。迷いは晴れ、手にしていたボール型のガジェットを構えた。
~~
「リーダー。この戦いの終わりは何処にあるの?」
「国会議事堂を占拠して、政府の関係者を人質に取る。そして、俺達に政権を渡して貰う。奴らが逃亡できない様に手は打っている」
「もしも、この皇を取り戻したとして。リーダーはどんな国にしたいんですか?」
「そうだな。まず、国民達の状況を知ることが出来る様に監視カメラの数をもっと増やす。一人一人の能力に合った仕事を国が手配し、作業場にもヒーロー達を置くだろう。それから……」
貧困に喘ぐ人間が出現しない為にも、国民の財産を均一にすること。SNSや情報発信は必ず検閲を通すこと等。また、思想教育により自由が唾棄すべき物だということを根付かせるということ。
「最後に。国民はヒーローベルトの着用を義務付けることだ。介護や肉体労働なんかのサポートもしてくれるし、通信機能と変身機能も付いているから生活をより豊かにしてくれるだろう」
「逸脱した思考や犯罪を起こさない為に、盗撮、盗聴、思考操作の電流を適宜流せる仕組みも入れるんですよね?」
「勿論だとも。これも皆を守る為だ」
管理社会を目指そうとしている。リーダーが抱く未来を薄々と予想していた者達が集まっていることもあり、反対する者は誰も居なかった。
「それが。リーダーの考えた理想?」
「そうだ。頭が悪いから、お金が無いから、能力が無いから。人々の間に差があるから、悪は発生してしまうんだ。だから、俺達が皆を導かなければならない。ヒーローは皆の兄貴分の様なんだ」
「ビッグ・ブラザーって所ですかね?」
「良い響きだ。だが、これは通過点に過ぎない。皇の次はユーステッドを、全世界を。この世に存在するありとあらゆる悪と不幸を絶つ」
既に思考に常識は介在しない。あるのは、誰かを救うべきだという善意。悪を倒すべきだという敵意。揺るがぬ決意を前に、不可能であるかどうかは関係が無い。動き出した彼らは止まらない。
「何処までも付いて行きますよ。リーダー」
「ビリジアン、皆。行くぞ。本当の戦いはこれからだ」
国会議事堂前はありとあらゆる戦力が集結していた。中には、怪人の姿も混ざっていた。全員が戦意を高める様にして、ポーズを取った。
「俺達は! エスポワール戦隊!!」
「撃て!!」
名乗り向上を上げた瞬間。彼らに対して、殺意の塊が叩き込まれた。奇しくも、彼ら演出する様にして巨大な爆発を起こしていたが、誰一人として散った様子はなく。怒号と悲鳴と必殺技が跋扈する戦場が発生した。




