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善意と言う怪物 7


「さぁ、紳士淑女の皆さま! お待たせいたしました!」


 リングを覆う様にして鉄格子が降ろされた。舞台の上には老若男女様々な人間と、強化外骨格(スーツ)を装着した隊員が拳を鳴らしていた。

 床の上にはナイフやバットなどが転がされており、観客席からは歓声が上がっていた。場を盛り上げる為にマイクを手にした隊員は朗々と喋る。


「今宵! リングで行われるのは、両者の願望を叶える戦いだ! 人気の処刑隊員の前に立ちはだかるのは、『死刑になりたかった。誰でもよかった』と宣った犯罪人達! さぁ、床に転がる武器を使え! もしも、目の前の隊員を殺せれば、大量の賞金と共に明るい未来が待っている!」


 隊員と対峙する者達は、いずれもニュースや新聞を騒がせた犯人達であり、収監されているはずだが、この場に立っていた。落ちている凶器は、ヒーローを前にしては頼りない。


「ま、待ってくれ! こんなのリンチだ! 皇は法治国家だろ!?」


 眼鏡の男性が叫んだが、観客席から一斉にブーイングが飛んだ。抗議も空しく、ゴングが鳴らされた。包丁を拾い上げ、腰だめに構えて隊員を刺しに行く。突き出した刃は深々と処刑人に刺さった。


「うぐっ!」

「おぉっと!? 凶刃が処刑人を襲った!? まさか、倒されてしまうのか!?」


 観客席から悲鳴と困惑が溢れ出す。ひょっとして、自分はここから出られるのではないか? 淡い希望が胸中を満たしたが、処刑人は立ち上がった。


「こうやって、お前は金町さんを殺したのか! 職場の皆にも慕われ、家族が帰りを待っていた金町さんを!」

「ひぃ!?」


 強化外骨格(スーツ)が傷口を塞いでいく。処刑人が立ち上がり、男性の顔面を殴打した。鼻骨が折れ、鼻血が噴き出し、尻餅を着く。

 だが、それでは終わらない。マウントを取り、何度も何度も拳を打ち据える。歯が折れ、血が噴き出し、青痣が浮かび、顔がはれ上がり、肉を打つ音が水っぽい音に変わるまで殴り続ける。


「形勢逆転だ! そう! ヒーローは負けません! どんな理不尽! 困難があろうとも! 毅然と立ち向かい、討ち滅ぼします!」


 観客が沸き上がる中。一方的な蹂躙劇を見せられている服役囚達は狂乱に陥っていた。逃げ出そうとして、リングに連れ戻される者。同じ様にバットなどの凶器を手にして返り討ちに会う者。


「お前ら! 全員狂っている! 狂っている!」

「うるせー! 死刑になりたくて、人を殺したんだろ! 良かったじゃねぇか! さっさと死ねや! 地獄の苦しみの中でな!!」


 観客を罵倒した服役囚が処刑人に捕まる。一思いに殺す等と言う真似はしない。長時間、丹念に体の各所を破壊し、痛みを長引かせながら、地獄の苦痛の中でゴミの様に殺す。

 サディストだけではなく、善良な市民も歓声を上げている様子を、大坊は司会席から眺めていた。


「この催しは人気なのか?」

「はい。大人気ですよ! 入場料にグッズ販売。ネット上の収入も含めて、エスポワール戦隊の貴重な活動資金になっていますから!」


 この空間には笑顔が溢れている。処刑対象の絶望と悲鳴が、人々を笑顔にしていた。何も間違ったことはしていない。


「これからも頼むぞ」

「はい! 任せて下さい!」


 リングの上で瀕死になった服役囚達が運び出されて行く。次の入場者達を前に、処刑人はマイクパフォーマンスを行っていた。


「俺は! お前達が言う『誰でもよかった』の対象となる者だ! さぁ! 俺を殺せば自由になれるぞ! 輝かしい未来が待っているぞ!」


 観客は心の底から楽しんでいる。日々、自分達を襲う理不尽や憤りの対象に、何百倍もの暴力と不条理が返って来ることを楽しんでいた。


~~


 大坊から渡されたHDDにはエスポワール戦隊の情報が収められていた。

 桜井達の個人的な情報から、教育方針。世論や企業への対応も書かれていたが、いずれも眉間に皺を寄せる様な内容だった。


「諸外国への対応として、エスポワール戦隊の再雇用や斡旋は行わない。また、個人事業などを始めても圧力を掛ける算段と。ここら辺は俺達も知っていた情報ですけれど」

「マスコミへの圧力の掛け方も酷いな。関わって来た議員達のリストだが」


 いずれの名前も、エスポワール戦隊に制裁された者達ばかりだった。だが、桜井の目を引いたのは教育方針だった。


「隊員達への教育は以下のことを徹底すること。『ヒーローは正しい存在である』『人を助けることは、素晴らしいことである』『自由と平和は何よりも尊い』。現状に疑問を持たせないこと。か」

「洗脳だな」


教官の力強い言葉を思い出していた。あの時は、本当に正しいと信じていた。全てが終われば、輝かしい未来が待っているのだと思っていた。


「他にも。将来的には桜井達の強化外骨格(スーツ)を改良して、皇での軍事利用も想定していた様だな」

「怪人に対抗できるだけの力を、他に使わないのは勿体ないからな。濫用されたら、どうなるかって言うのは皇の現状で分かるが」


 人間を遥かに超えた膂力を持つ怪人達にも対等に渡り合えるだけの力を与える強化外骨格(スーツ)とガジェット。使用し続ければ、カラードと呼ばれる存在へと進化する可能性まである。


「なぁ、軍蟻。ベルトの情報ってのはねぇのか?」

「今。見ている」


 設計図や機能などが記載されたページが開かれるが、あまりにも情報量が多い為。桜井達が見てもサッパリ分からなかった。一方で、フェルナンドと軍蟻は頻りに頷いていた。


「何か分かったの?」

「うん。前に、構造的に似ていると言ったけれど、設計思想は似通っている。収集した怪人達のデータを使って、表面に装着させた人工筋肉に電流を流して疑似的に怪人の力を再現している」

「じゃあ、アイツらも怪人ってことか?」

「違う。スーツを怪人化させているだけ。中の人はパイロットみたいな物」

「何となくイメージできたかも」


 自分達と違って、セーフティの様な物を噛ませているということは理解できた。だが、一つ疑問が生じた。


「なんで、そんな回りくどいことをするんだ?」

「いや、流石に公側の人間が怪物になる訳には行かないでしょう。それに、スーツだったら色々と後付けも出来るでしょうしね」

「彼らのスーツには、怯えや恐怖を打ち消す為の機構も備えている」

「俺達が天然で、向こうが養殖みたいなモンだな」

「そっか。じゃあ、私も言ってみれば怪人みたいな物なのかな」


 スーツの力で疑似的に怪人の力を再現しているとは言うが、自分の体に癒着しているということは、すなわち殆ど怪人と同じ様な物ではないか。

 感慨に浸った時。大坊から預かった例のクリスタルを思い出し、使用しても大丈夫なのかと軍蟻に尋ねると頷いた。


「大丈夫。予定外のトラブルが無ければ、お姉さんとベルトは分離できると思う。……ただ」

「ただ?」

「ベルトもお姉さんの一部。共生していた相手を剥がしたら、何が起きるかは分からない。そのベルトに助けられていたことも沢山あると思う。だから、もっと考えて」


 言われて、少し考えた。ベルトを分離したら日常に戻れるのだろうか? この荒れた皇で? 平和になった後にベルトを分離したとして。その時、自分には何が残るのだろうか。


「大体、こんな所か。お前ら、ご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」


 フェルナンドに命令されて、各自部屋に戻って行く。桜井も部屋に戻る最中に考えていた。果たして、日常に戻るということはどういうことなのか。大坊がどの様な世界を齎そうとしているのか? ……そして、彼が遠くへと言ってしまったこと。胸が締め付けられるような気がした。


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