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善意と言う怪物 6


「リーダー。皇を倒すって、何をするつもりなの?」

「よくぞ聞いてくれた。まず、手始めに『ジャ・アーク』を再度叩き潰すだろう? 犯罪者の制裁は続けて行くにしてだ。次は、市民に気付かれない様に搾取構造を築き上げている富裕層。関連して、奴らに与する議員や権力者を……」


 自分が描く未来図に興味を持ってくれたのが嬉しく思ったのか、大坊は饒舌に語った。内容は聞くに堪えない稚拙な物であったが、彼は本気で信じていた。


「他にも。皇に分断工作を仕掛ける、工作員達もだ。最近は、電子戦の分野も強化しているんだ。将来的には、外国にも支部を作って活動範囲を広げて行こうと思うんだ」

「なぁ、お前。自分が何言ってんのか、分かっているのか?」

「当たり前だ。この皇で、皆が笑顔になる未来を求めている」


 大坊の顔には満面の笑みが浮かんでいた。中田と桜井は後退りしていた。

 以前までの大坊は、悪人を許さないという単純明快なスタンスだった。根底にあるのは、自分達でも理解できる善意からだと分かっていたから、言葉を掛けることも出来た。


「だったら! 現実を見ろよ! お前達の行いで、誰が笑顔になった!? 俺達みたいなクズは自分が殺されない為に、外道を突き進むしかなくなった! 普通に過ごしていた奴らは、自分が襲われるんじゃない、ヒーローに裁かれるんじゃないかって怯えている! そんな現状を顧みても、同じこと言えるのかよ!?」

「言えるとも。皇は確実に良くなっている」


 ブン。という起動音と共に周囲の壁面のモニタに映像が映し出されていた。街中には、ヒーロー達が闊歩する光景が映し出されており、SNSは柔らかい言葉や、可愛らしい動物の画像が貼られるだけの穏やかな場所になっていた。


「どうだ。美しいだろう? 皆が規律を守り、言論の場でも相手を傷つけない心遣いに満ちた会話が交わされる。理想的な世界だ」

「お前らが、理想に沿わない人間を排除したからな」

「俺達じゃない。皆が望んだ世界だ」


 話は依然として平行線を辿るばかりだった。大坊と中田の視線が、桜井に集まる。彼女の意思次第で、この状況は動く。


「ねぇ、リーダー。本当に、これが皆の望んだことなの? リーダーにとってのヒーローって言うのは、こんな物だったの?」

「じゃあ、桜井。お前は今まで、司令官や皇から与えられていたヒーローという役割が正しいと思うのか?」

「それは……」


 自分達の輝かしかった過去を否定したくはない。だが、この研究所にある物を見せられれば、信念も揺らいでしまう。

仲間になっていたかもしれない者達の残骸を見せつけられて、正しかったと頷ける程、彼女は強くもない。閉口せざるを得なかった。


「考えてもみてくれ。そもそも、俺達が本当にヒーローと言う人々を救う存在だったら、怪人を倒すよりも先にすることがあるだろう? 国内の貧困問題は? 老人介護問題は? 利権絡みで被害を受ける人々の問題は? ネット上に蔓延る暴言やデマゴーグは?」

「いや、私達はジャ・アークに対抗するために結成したのであって……」

「じゃあ、ヒーローなんて物はただの特殊部隊じゃないか。違うだろ!? ヒーローって言うのは皆の希望の象徴なんだ! 怪獣や悪の秘密結社の出現を座して待っているだけなら、ヒーローやめちまえ!!」


 映像内の光景が変わる。平和な街中で痴呆老人が騒ぎ立てていた。ヒーローがやって来て、彼を拉致してワゴンに詰め込んだ。

 SNSでは捨て垢を使って暴言と工作をする者が現れた。10分ほどすると、彼らの発言はピタリとやんだ。裏で何が起きたかは想像に容易かった。


「下らねぇな。要するに、お前は自分がヒーローやりたくて、他所に口出ししているってことだろ?」

「俺はお前の様に、他者の痛みに無関心にはなれないからな。俺達は、この皇を変える。政府様の脚本で操られるヒーローじゃない。俺達自身の意思でヒーローをする。……だから、桜井。何も心配するな」


 大坊はポケットから取り出した何かを、中田達に向かって投擲した。拾い上げた物は、何時かに見たクリスタル状の物と小型のHDDだった。


「これは?」

「俺達が装備している、初期プロットのベルトの癒着を解除する物だ。リチャードから、ヒーローに耐えられなくなった時に使えと言われたが、俺には必要ない」

「本当かよ。使ったら、死ぬとかじゃねぇよな? てか、こっちのHDDは何だよ。何が入っているんだ?」

「そっちの解析班にでも調べて貰えば良い」


 話すことを話して満足したのか、大坊は踵を返した。

 何かを言わなくては。と、桜井の中でグルグルと思考が錯綜するが形にならない。この別離が、今生の物になる気がした。だと言うのに、掛ける言葉が見つからない。


「リーダー……」

「悪かった。お前の日常を守ってやれなくて」


 どうして、最後の最後でヒーローではない人間の大坊として接して来るのか。本当は、自分も人間に戻りたかったのでは無いのか。

 堪らず駆け出し、彼の腕を引こうとした所で突き飛ばされた。見れば、強化外骨格(スーツ)のステルス機能で潜伏していた隊員が居た。


「リーダーこそ、この皇を変える真のヒーローだ」

「邪魔立てをするな」

「オイオイ、マジかよ!?」


 次々とステルス機能を解除した隊員達が出現する。彼らは威嚇するばかりで決して攻撃を仕掛けようとはせず、大坊の後ろ姿が完全に消えたことを確認すると。同じ様に、彼らも去って行った。


「どうして」

「桜井、一旦戻ろうぜ。剣狼達を待たせている」


 茫然自失の桜井の腕を引きながら、中田は来た道を戻った。戻って来た二人を見て、槍蜂と剣狼は尋ねる。


「何があった?」

「色々とな。それと、アイツから意味ありげな物を受け取った。一旦、基地に戻って軍蟻に調べて貰いたい」

「分かりました。桜井さんの事も心配ですし、一旦戻りましょうか。大丈夫ですか? 歩けますか?」

「うん、平気」


 どう見てもやせ我慢だったが、あまりに心配しすぎても逆効果かと思った。

 表に停めてある車へと戻り、車中で大坊とのやり取りを説明した。説明を受けた二人は、顔をしかめていた。


「連中が5人しかいなかったのには、そう言う理由があったんですね」

「元はと言えば、お前らが攻め込んで来なければ、こんな事にもならなかったんだけれどな!」

「耳が痛いですね。だけど、チャンスかもですよ? この皇を打倒するのが目的なら、手を組めるかもしれませんし」

「冗談にしちゃ面白くねぇな。今更、アイツらが俺達と手を組むとでも思ってんのか?」

「あり得ないですね」

「既に、アイツの眼中には俺達のことなど映っていないということか」


 この情報が有益であるかどうかは、中田も判断しかねる所だった。加えて、彼から渡されたクリスタルとHDDも気になる。

 暫く、車を走らせて妨害も追跡も無いことを確認して基地へと帰還した。軍蟻にHDDを持ち込むと、直ぐに中身が分かった。


「特にプロテクトも掛かっていなかったけれど、中身はエスポワール戦隊のデータだね」

「お。ベルトの解析データとかか?」

「そうじゃない。どういう経緯でエスポワール戦隊が設立されたとか、管理部門や……協力した企業への優遇措置とかね」

「ほぅ。ちょっと見せてくれや」


 フェルナンドも同席して、エスポワール戦隊がどの様な組織であったかということを見て行く内に、彼らの顔は曇って行った。

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