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善意と言う怪物 5


「あの鍵。レッドの部屋に隠されていたのは偶然じゃないですよね?」

「何かしらのメッセージ性を含んだ物だとは思う」


 態々、エスポワール戦隊のメンバーが使っていた部屋に立ち寄り、物色する者なんて限られている。


「余程、レッドに関心がある奴だろうな」

「例えば、この施設に入れるような。元関係者に向けて……とかな」

「それに、本当に知られたくない物なら持ち出しているはずですしね」


 つまり、知られても問題がない物なのだろうか。色々な想定が過る中、桜井はピタリと足を止めた。


「ここは?」

「研究室。作戦が終えた後、必ず私達が立ち寄っていた場所。普段は、一切の立ち入りが禁止されていた」

「怪しいじゃねぇか。例の鍵、使えるのか?」


 恐る恐る、鍵穴に差し込んだ。クルリと回り、解錠された。入る前に一度深呼吸をして、慎重に扉を開けた。他の部屋と同じく機材の殆どは持ち出されており、もぬけの殻だった。


「……アレ?」

「なんだよ。期待外れか」


 中田が溜息を吐く中。剣狼は頻りに鼻を動かし、周囲を探っていた。また、槍蜂も同じく周辺を見回している。


「二人共。どうしたの?」

「そんなに昔じゃない。人が通った形跡がある」

「えぇ。かなり、中止すれば分かるんですけれど。一部、埃が無い箇所があるんですよ。まるで、誰かが触れたみたいにね」


 緊張が走った。暫く、二人に任せていると掃除用具が入っていたロッカーの前で止まった。無造作にドアを開くと、古ぼけたブラシ等が出て来た。


「ケン。この掃除用具が何か?」

「ロッカー内には何もないか。アニキ、移動させるのを手伝ってくれ」


 掃除用具を全て外に出した後。ロッカー自体を移動させると、壁面に鍵穴が出現した。まさかと思い、入り口でも使った鍵を差し込んだ。すると床の一部がスライドして、地下へと続く階段が出現した。


「おいおい、マジかよ。本当に秘密基地みたいなギミックだな」

「いや、私。こんなの知らなかったんだけれど……」

「となると、先に何があるのか。増々気になる所ですね」

「俺が先頭に立つ」


 剣狼を先頭にして、地下へと続く階段を下りて行く。足元を照らす僅かな明かりを頼りに進んで行くと、開けた場所に出た。

 無数の培養ポッドが並んでいた。緑色の液体に満たされた中に浮かんでいる物を見て、槍蜂は思わず言葉を漏らした。


「先に、向こうの方がやっていたって訳すか」


 ポッドの中に浮かんでいたのは怪人の遺骸だった。桜井達が現役だった頃に撃破された者から、最近倒された者達まで様々だった。その内の一つを見た時、剣狼が足を止めた。


「染井組長」

「……え?」


 中田も足を止めた。培養ポッドの中には、ボロボロに引き裂かれた鳳凰型の怪人の遺骸が浮かんでいた。ガン、と拳を打ち付けていたがビクともしなかった。


「アイツら。人の死まで弄びやがって!」

「怪人達の死体を集めて何をしているのか。……想像は付きますが」


奥へと進んで行くと一際巨大な培養ポッドが鎮座していた。浮かんでいる怪人が誰なのか。中田以外の全員が分かっていた。


「シュー・アク……」

「ゴク・アク様もいますね。フェルナンドさんは、ガイ・アーク様の遺体からデータを解析してリングを作ったって言ってましたね」

「じゃあ、何か? ここは、ヒーロー達のベルト生産工場って事なのか?」


 具体的に此処で何が行われているかは分からないが、ジャ・アークがリングを作る際にガイ・アークの遺体を使っていたことから、似たようなことが行われていることは察しが付いた。


「似た様な物だな」

「!!」


 聞き慣れた声の方を見れば、大坊が居た。真っ赤な強化外骨格(スーツ)の各所には装甲板が追加されており、全身の至る場所に武器を搭載していた。桜井以外の3人は臨戦態勢に移る。


「やめておけ。お前達じゃ、俺には勝てない」

「やってみなきゃ、分からねぇぞ!」

 中田は啖呵を切るが、剣狼と槍蜂の額には脂汗が浮かんでいた。歴戦の勇士である彼らには、戦力の差が理解できてしまっていたからだ。一触即発の状況の中、桜井が歩み出た。


「リーダー。態々、自分の部屋に鍵を隠していたって事は、私がここに来るように誘導したのよね? 何の意図が?」

「お前がここに足を運ぶことがあれば、見せたい物があってな。余計な物まで付いて来たようだが」

「アンタらが補足できていないって事で、安心して付いて来たんですがね」

「俺達がここを使わない訳が無いだろう。このまま踵を返すなら今回ばかりは見逃してやる」


 桜井以外に関心が無い様子だった。全員の視線が彼女に集まった所で、意を決した様に口を開いた。


「……中田君だけ同行させて」

「ふん、良いだろう。ソイツが居た所で大したことは出来ないだろうからな」

「テメェ」

「中田さん。行って下さい。脱出路は俺達が確保しておきますんで」


 侮蔑の混じった視線を受けながら、中田は桜井と共に大坊の後を付いて行く。ポッドが敷き詰められた部屋の更に奥まで進んで行く。


「リーダー。ここって、どういう施設なの?」

「リチャードと呼ばれる男と共同で使用していた場所だ。見ての通り、怪人達を収集分析するのが主な役目だ」

「分析したデータは?」

「ベルトの作成に使われる。この程度は、予想出来る事だろう。俺が見せたいのはここから先だ」


 施設の奥へ奥へと進んで行くと、プロトタイプと思しきベルトが展示されていたり、研究結果や連絡事項等が掲示されていた。


「この先に何があんだ?」

「なぁ、ヒーローって何だと思う?」

「何って、言われると難しいけれど。もしも、私達がエスポワール戦隊の頃の教えのままであるならば、強きを挫き弱者を助ける存在。になるのかしら」

「そうだな、俺もそうであってほしかった」

「……どういうこと?」

「今のエスポワール戦隊と現役時代。比べて、何か疑問に思うことは無いか?」


 突然言われて、思い浮かぶことは無かった。しかし、何も答えないのは具合が悪いと思って、必死にひねり出した。


「今のエスポワール戦隊は、カラフルだね」

「そうだ。カラフルなんだ。五色だけじゃないんだ」

「……・うん? ちょっと待てよ。思ったんだけれどよ、桜井が現役だった頃もエスポワール戦隊って5人しかいなかったのか?」


 指摘されてはじめて気づいた。どうして、皇を守るヒーローが5人しかいなかったのか。もっと数が多くいれば、幅広く動けたし、不測の事態に備えることもできた。何よりも戦力的にも心強い。


「答えたのがお前だと言うのが気に食わんが、そうだ。俺達は5人で戦いを強いられていた。当時から疑問に思っていたんだ。何故、もっと数多くの仲間がいなかったんだろうかと」

「当時はベルトの開発費用が高かったとか?」

「近いな。いや、当時のベルトは今ほどの汎用品ではなかったと言うのが回答か。その答えが、この部屋にあるんだ」


部屋の前に立ち止まった瞬間。桜井と中田は、本能が警鐘を鳴らしていることに気付いた。この先を見てはいけないと。


「何があるの?」

「見せてやる。これが、俺達ヒーローを支えていた物だ」


 扉を開ける。先程の空間にあった物よりも小型の培養ポッドが並んでいた。ただし、浮かんでいた物は先程と比べ物にならない程に悍ましい物だった。

 身長から察するに小学生~高校生位の被験者が居たのだろう。彼らは一様にして腹部からベルトが浮かんでいたが、強化外骨格(スーツ)に身を包まれてはいなかった。

体の一部がめくれ上がり、筋組織が怪人の様に灰色になった者、首だけが怪人化して無茶な動きに付き合わされたのか壊れた人形のようになった遺体。浮かんでいる遺骸達には、人間らしい尊厳は残っていなかった。


「狂ってやがる」

「どうにかして、死に物狂いで怪人を捕まえた手前。奴らの力を使おうと考えたんだろうな。勇気ある子供達を集めてな」


 ひょっとしたら、自分もあの培養ポッドの中に浮かぶ研究対象になっていたかもしれないと思うと、強烈に不快感がこみ上げて来た。


「じゃあ、5人しかいなかったのって」

「適応したのが、俺達5人だけだったんだろうな。……なぁ、思うんだよ。自分達が助かる為に、年端も行かない子供達を人体実験に突き出した挙句、少年兵として運用して、用済みになったら放り出す、この皇って国は―――とんでもない悪じゃないのか?」


 ゾッとした。同時に、大坊が剣狼達に興味が無さそうにしていた理由が分かった。既に、彼の戦うべき相手は別の物になっていたんだから。


「おい、アンタら。ヒーローなんだろ? 国や人々を守るっていう」

「その国や人々が間違っている場合。俺達ヒーローはどうするべきだ? 決まっている。間違っている物を倒せばいい。桜井、俺達が最初から戦うべき相手は、この国だったんだよ」


 あまりに恐ろしい発言だった。今の大坊は白血病の様な物だと思った。自己免疫機能が暴走しすぎて、皇その物を打ち倒そうとしている。決意に満ちた発言を前に、桜井達は口を開けずにいた。


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