矛盾 12
エスポワール戦隊とジャ・アークにとって、忘れられない日から一夜が明けた。
彼らが殺し合いを行おうが、リンチしようが自分達には関係がないと信じて疑わなかった人々の考えは、容易く崩れ去った。
「うわぁああああああああ!!」
制裁に対する報復は直接的な物だけに留まらず、エスポワール戦隊が守ってきた『平和』その物に向けられていた。
学校、あるいは職場、幼稚園など。人々が集まる場所に同時多発的に怪人が出現し、人々を捕食していた。彼らは決まって襲撃をした後、SNSや動画サイトなどを使って犯行声明を残していた。
「俺達はよぉ! 今まで、窃盗とかの犯罪をしてぶちこまれていたけれどよぉ、人を殺したことは無かった! だが、悪人が殺されるって言うんなら! 俺達も生き残る為に強くならなきゃいけねぇ! だから、今後も食われてくれや!」
彼らの主張は概ね稚拙で幼稚な物だった。自分は悪人だったが、人殺しをするつもりは無かった。しかし、エスポワール戦隊を始めとした人々に追い込まれた結果、ここまでする必要が出て来たと言った。
怪人達に憤りの声を上げる者達も居た。だが、同時にエスポワール戦隊に抗議する者達もいた。お前達が、奴らを追い込んだ故だと。
「警察や軍隊は!?」
「アイツらが何の役に立つんだよ! 餌になるだけだろ!」
皇の平和憲法により、変身ガジェットを公の装備にすることが出来ない弊害が出ていた。
せめて、対怪人用の武器を配備できないかという試みも行われていたが、怪人達も脅威を見逃す訳もなく。また、人々も対抗手段が無い訳ではなかった。
「エスポワール戦隊! 参上! やはり、来たか! ジャ・アークめ!」
「構わねぇ! 勝てば、俺達の糧だ! やれ!」
皇各地でエスポワール戦隊とジャ・アークの衝突が発生していた。一度は平和を勝ち取ったはずの戦いが、再開されていた。
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「皮肉な物ね。かつて、自分達を不要と追いやった皇に、再びヒーローが必要な時代が来るだなんて」
「あるいは、こうなることを見越して活動していたのかもしれませんね」
自分達のアパートから必要な物だけを持って来た桜井達は、ジャ・アークの本拠地に『捕虜』として身を寄せていた。見張りには剣狼も付いていたが行動制限はされていなかった。
「いや、アイツはそんな小賢しいことをする人間じゃない。ピンク、お前が一番よく知っている事だろう」
「……そうね。リーダーは何時でも真っすぐな人だったから」
自分達の価値を再認識させる為だとかではなく、現役時代と同じく悪を挫く為に動き続けた結果なのだろう。皮肉なことに、ヒーローが最も必要とされる争いと混沌の世界がやって来てしまった訳だが。
「剣狼さん。ジャ・アークの方では制動は利かないんですか?」
「中田の兄貴達も抗議しているみたいだが、フェルナンドは止める気はないらしい。元より、アイツはレッドや皇憎しでやっているからな」
フェルナンドの過去について、多少は聞いた。犯罪組織で活動していたことを含めても気の毒だとは思うが、だからと言って彼の復讐まで認める気は無かった。
「どうすれば、彼を止められるんだろう」
「以前と同じ様に倒せばいいだろう」
「無理。私じゃ勝てない」
本人の能力だけではなく、組織力と言う面でも圧倒的に劣っている。以前の様にサポートを受けられる環境も無く、仲間もいない。となれば、勝てる道理がある訳も無かった。
「そんなに強いんですか?」
「そもそもの話。私、あんまり強くないのよ。エスポワール戦隊の主力って、殆どリーダーだったし」
「大坊さんですよね。あの人、どれだけ強いんですか?」
「無茶苦茶だ。常識外にいる強さだ」
直接対峙したことのある剣狼が答えた。注視すれば、腕組みしている彼の手に力が籠っているのが分かる。
「だとしたら、分からないですね。そんな強い人を路頭に迷わせたら、ロクでも無いことが起きるだろうに。どうして、国は保護をしなかったんでしょうか?」
「シュー・アクの根回しがあったと聞いた。左派や工作員を使えば、アイツらみたいな武力になり得る人間を追い込むのは簡単だからな」
「もしかして、私が路頭に迷ったのも……」
「当然、俺達の工作があったからだ」
平和になった様に見えて、水面下では戦いは続いていた。採石場で殴り合う戦い方ではなく、もっと陰湿で雁字搦めで理不尽な方法を取って来た。
非暴力でありながら、権力を用いた追い込み方がどれだけ残酷か。戦う構えを見せない相手を殴り掛かることはできない。自分達は平和の使者であるのだから。……そう言った前提ごと打ち砕いたのがレッドだった。
「ひどい話もあったもんですね!」
「気のせいかな。美樹の憤りが棒読みに聞こえるんだけれど?」
「そんなことはありません」
返事まで棒読みだった。自分は保護してくれる人間に出会えたが、当初の予定では大坊をどのように扱うつもりだったかは気になる所だが、策謀を巡らせていた張本人は、もうこの世にはいない。
「シュー・アクは私達をどうするつもりだったのかしら」
「聞いた話だと、職の斡旋などをして囲い込むつもりだったらしい。ゴク・アクが近いことをやっていたと聞いたが」
「う……」
富良野が苦い顔をした。丁度、ゴク・アクの指示で慰問に来た議員を殺害していた時の現場に出くわしたことを思い出していた。
「もしも、彼がリーダーを最後まで信じていたらと思うと。ゾッとするわね」
『ジャ・アーク』に皇が乗っ取られていたかもしれない。どういう形であれ、防いだのは間違いなくレッドだった。
「私達と似たような関係になれていた可能性もあったかもしれないんですね」
「ふむ。気になっていたんだが、お前達はどういう関係なんだ? 友人にしては、やや距離が近い気がするが」
「聞かなくていいから」
「聞きたいですか? しょうがないですねぇ。アレは私が学生の頃の話でした」
桜井の抵抗も空しく、剣狼と言う男は非常に律義に富良野の話をしっかりと傾聴していた。即ち、過分に妄想の混じった惚気話を聞かされることになったのだが、赤面していたのは桜井一人と言う珍妙な空間になっていた。
……本当に捕虜として監禁されているかどうかも怪しい位に暢気な面々であったが、外の世界。即ち、皇国内は戦禍に蝕まれつつあった。




