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矛盾 13

 ヒーローと怪人が戦いを繰り広げている中。市井の人々は不安に怯えていた。

 人口が密集する場所は襲撃されやすく、公共交通機関の使用は控えられ、学校や職場もリモートが主となっていた。


「政府は、相次ぐ怪人テロに対しての法案を……」


 国会は紛糾する。怪人達の脅威に対して、ヒーローベルトやガジェットを警察や軍隊に留まらず、民間の警備会社等とも連携して配備するべきだと。しかし、野党は平和憲法に接する恐れがあると難色を示していた。


「政府は、国民の命が脅かされても良いのか! 今すぐ、ヒーローガジェットを民間に解放しろ!!」


 議事堂前でのデモ活動も頻繁に行われていた。怪人の襲撃を防ぐ為に、周囲はエスポワール戦隊の隊員が配備されている。

 また、この現状に面白がって飛びついたのはマスコミだった。人々の不安や憎悪を煽り立てる記事がウケるのは変わらない。以前までは、エスポワール戦隊の制裁を恐れていた面々も自棄になったのか、制動が利かないレベルで好き勝手に書いていた。


「野党が法案の可決に対して消極的なのは、隣国への忖度があるから。ですって。まぁ、一度通っちまえば皇の軍事力が飛躍的に強化されちまいますからね。軍人全員ヒーローになっちまうんですから」

「下らないゴシップ記事にかまけている暇はないぞ。今、皇には俺達が必要とされている。人々が希望(ヒーロー)を求めているんだ」


 修復された基地にて、大坊は活力に満ちていた。長年のパートナーに裏切られ、仲間達が大勢殺され、かつての盟友も拉致された。脅威が存在していた時代に戻って来た。

 だからこそ、彼の中の希望は燦然と輝いていた。理不尽に立ち向かう自分が誇らしく思えた。モニタにホワイトの姿が映し出された。


「ヒヒヒヒ。リーダー! 君が持って帰って来たお土産の解析が済んだよ!」

「どうだった?」

「喜んでよ! 中にあったのはね! 量産型スーツを強化する設計図に、君のスーツを特化させるクリスタルも一緒に入っていたよ!」


 これ見よがしに、赤い光を放つクリスタルを見せつけた。何故、自分達と敵対したリチャードが、そんな物を遺したか。きっと、悪を殲滅する為だと納得した。


「分かった。全員のガジェットに強化を適用させてくれ」

「はーい! お任せ下さい!」


 これから、戦いは激化していく。敵は人を食らうという手段で強くなっていくのだから、自分達も強くならねばならない。


「今の、俺達は皇の希望なんだ。ジャ・アークめ。俺達がいる限り、皇で好き勝手にはさせないぞ」


 クリスタルを受け取る為に席を立った大坊を見送りながら、沈黙を貫いていた七海はモニタの方に目を向けた。

エスポワール戦隊と怪人が交戦を繰り広げる物もあれば、間に合わずに蹂躙される物もあったが、一際目に付いたのがヒーローも怪人も居ないと言うのに人々が傷つけあっている光景だった。


~~


「俺が何をしたって言うんだよ!?」


 アパートの一室。乱雑に物が散らかされた部屋に、男達が押し入っていた。いずれも手にはバットや包丁が握られていて、穏やかな雰囲気ではない。


「お、お前。このアパートで頻繁にトラブルを起こしていたよな。し、知っているんだぞ。怪人達はお前みたいな世間から拒絶された奴らを仲間に引き込んでいるんだって……」

「は!? 知らねぇよ!?」

「お前、怪人になったら俺達の事を殺しに来るんだろ!? そうはさせねぇぞ!」

「うわぁああああ!!」


 かねてより不和や蟠りを抱えていた者達は、先んじてリンチを掛ける場合もあった。エスポワール戦隊でも怪人でもない人々まで制裁に乗り出していた。

 バットで殴られ、包丁で刺され、死の間際に瀕した男の手には何時の間にかリングの様な物が握られていた。掌に針が突き刺さり、全身を打つような衝撃が走ったかと思えば、今まで受けた傷が癒え、全身が灰色の毛並みに覆われていた。部屋の鏡に映った自分は、狸の様な怪人になっていた。


「ヒッ」

「先にやって来たのはテメェらだからな!!」


 凶悪に生え揃った牙で、首元に噛みついた。歯の隙間から血が溢れ、全身に力が漲る。近隣住民とトラブルを起こしながら過ごしていた日々では、得られることはない快楽に打ち震えた。

 逃げ出す男達を捉えて、1人、また1人と喰らっていく。かつてない程の全能感に満たされ、往来を駆けていた男であったが。


「死ね」

「あ?」


 投擲された球体型のガジェットに頭部を粉砕されて、膝から崩れ落ちた。

 誰もが争いに巻き込まれて、自分の身を守りたいが為に立場を強要されていた。嫌われ者として怪人になるか、自分は善人であることを強調してヒーローになるか。守るべき平和の輪郭は破壊され尽くしていた。


~~


「どうして?」

「はい?」

「今まで、私達は平和な世界を手に入れる為に、困っている人を助ける為に活動し続けて来たのに。どうして?」


 悪を排除し続ければ平和がやって来ると信じていた。自分はリーダーに救われ方ら、同じ様に誰かを救いたくて活動に従事して来た。

 だと言うのに、今の皇は平和とは程遠かった。七海も悪人を倒して来た。虐待をする親やイジメの主犯格、諸々の犯罪など。悪を倒せば、自分と同じ様に誰かが救えるはずだと信じて来た。実際に救えた人間もいた。


「倒された奴は救われなかったから。じゃないですかね?」

「え?」

「皆、救われずに倒されてきた奴を見て来ましたからね。怪人や悪人を倒してスッキリ! なんて言うのは映画だけですよ。んで、許されないと分かったんなら潔く罪を受ける連中でもないですしね。誰にも守って貰えないなら、そりゃ誰の事も気にしませんよ」


 エスポワール戦隊と同じ様に。悪は悪だと叫び続けた結果、改心さえ許されないなら死に物狂いで抵抗するのは当然だ。自分達を許さない社会を、許さないのもまた当然だった。


「じゃあ。私達がやって来たのは、彼らを追い詰めていただけ?」

「皆が望んだことですから、気にしなくても良いですよ。誰だって不快で目障りな奴には消えて欲しいと思っているんですから。ただ、ソイツらが抵抗して面倒になっているだけなんですよ」


 悪は許さない。許されなかった悪は、全てを許さない。皇を覆う現状は、自分達ヒーローが平和を願った結果生み出されたというのなら。


「私達は、何の為に?」


 自分達がやってきたことは、理想と大きく矛盾しているのではないか? だが、どうすれば良かったかなど分からない。彼女の葛藤を置き去り、モニタには皇の現状が映し出されるばかりだった。


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