矛盾 11
エスポワール戦隊の基地を襲撃した帰り道での話。怪人化した構成員達は、自らの内に沸き上がる力を感じていた。
「槍蜂よ。なんで、今まで教えんかった? 早々に知っていれば、ワシらの仲間がやられる事も無かったろうに!」
「早めに教えていたとして。やっていました?」
「そうじゃな! ここにおる奴ら位。タマァ据わっとる連中じゃなきゃ、無理に決まっとぅ!」
人を食らえば強くなる。法律以前の禁忌であり、もしも早々に教えていたとしても従う者はいなかっただろうと予想した。金剛が回答に納得して笑い声を上げている中、豊島が青筋を浮かべながら、詰め寄る。
「引き返せねぇ所まで来るのを待っていたってのか?」
「そういう事です。今はハト教なんて物も出来て、怖気付いたら逃げることが出来ちゃうじゃないですか。だから、腹ァ決めて貰う為にも、今回の事態は丁度良かったんですよ」
未だに納得できないが、他の構成員達は笑みを絶やさない。勝利の味を占め、文字通り人を食い物にすることを覚えた。
「……これからは全部が俺達の敵になるぞ」
「どうでしょうね? 被害者になりたくないからって、加害者になろうとする奴らも出てくるかもしれませんよ?」
「皇がヒーローと怪人だらけになっちまうぞ」
「愉快でしょ?」
我慢できずに豊島は渾身の力を込めて殴った。しかし、槍蜂は頬の一部を瞬時に甲殻化させた為、殴った手から出血していた。
「親を殺られた同士、共感していたつもりだったけれどよ。やっぱり、テメェらはバケモンだ」
「だったら、どうします? エスポワール戦隊に寝返りますか?」
彼の提案が現実的でないことは、豊島も理解していた。既に彼自身も、エスポワール戦隊のメンバーを手に掛けている以上、寝返ること等出来るはずもない。
だが、自分が所属するには、ジャ・アークという組織は1日で様変わりを起こしてしまった。仲間を殺された憎悪と報復されるという恐怖に従った結果、自分達は人間であることの尊厳を捨てた。
「クソッタレ!」
もしも、この場に染井組長が居たら何と言っていたか。いや、あの時。戦意を喪失して逃げて来た相手にトドメを刺すような真似もしなかったのではないか?
人を食らってはいないだけで、自分もここにいる者達と何ら変わりない。既に起きてしまったことを無かったことにすることはできない。人間だった者達の耳障りな会話も入って来ない程に、豊島の思考はかき乱されていた。
~~
別の車に分乗した中田達は無言だった。沈黙に耐えかねたのか、中田がポツリと話し出した。
「黒田。おめぇ、何処までハト教の生活を知っている?」
「大体は見て来た。お前が、連中と仲良くしている様子も」
反町からもたらされた情報については、ジャ・アークの構成員達は概ね共有していた。暫くの間、エスポワール戦隊と過ごして来た中田にとっては今回の出来事はショックだった。
「そうか。俺達はよ、ヒーローとか悪人って立場だけで判断しているけれど、個人で話をすれば、ひょっとして和解とかもあるかもしれないってよ……」
「中田。お前が望むなら、ここで降りればいい。今ならまだ、お前はハト教での英雄として、連中に保護されるかもしれねぇんだ」
「だけど、お前や豊島の兄貴。ケン達を見捨てるって事だろ? ハト教での交流も大事だ。でも、お前達との付き合いも長ぇんだ。自分だけが逃げ出せるかよ」
「お前なら、そう言うと思っていた」
「問題はこれからだな。ジャ・アークもエスポワール戦隊もどうなるんだか……」
これまで以上に殺し合いが過激化するだろう未来を予想しながら、彼らの車は本部へと辿り着いた。……が、帰還している構成員が少ない。
途中で襲撃されたのかと気になったが、先に帰還報告を済ませる為に会議室へと向かうと、フェルナンドが居た。
「ご苦労様。中田、ハト教での任務。ご苦労だった」
「あ、どうもっす。……じゃなくて、一体。ジャ・アークで何が起きてんですか!?」
「詳しい話は全員が集まった後にする。今は下がれ」
納得いかない様子の中田を引き下がらせながら、黒田は人差し指を立てた。
「代わりに一つだけ教えてください。構成員達の姿を見かけませんが、途中で襲撃されたんですか?」
「……いや、襲撃された訳じゃない。むしろ、襲撃しているというべきか」
「どういうことですか?」
これ以上説明をするつもりはないと言わんばかりに、押し黙った。黒田も追及する真似は避けて退出しようとしたが、中田が声を張り上げた。
「あんな光景見せられて黙っていられる訳無ぇだろうが! ここまでやる必要はあったのかよ!?」
今まで黙っていたフェルナンドがピタリと動きを止めた。シャレコウベからの覗く青い炎が赤味を帯びる。彼は中田に詰め寄ると、胸倉を掴んだ。
「俺達、悪人は殴られっぱなしでいろってのか? 俺達が味わった痛みを、理不尽を、アイツらにも課してやらねぇと気が済まねぇんだよ。お前に分かるか? 目の前で、この間まで一緒に飯食って酒飲んでいた奴らがゴミクズみたいに殺された怒りと無念が!!」
周囲の温度が冷え込んでいく。直に掴まれている中田の顔が青ざめて行くのを見て、黒田は彼を殴り飛ばした。フェルナンドの拘束から抜けて、近くの椅子を巻き込みながら吹っ飛んだ。
「すいません。助かったばかりで、興奮しているんです。俺が良く言い聞かせておきます」
「そうしてくれ」
「黒田。テメェ……」
吹き飛ばされた中田に手を差し出したが、その手を払い除けて会議室から出て行った。残された黒田も頭を下げた。
「出過ぎた真似をしました」
「いや、良い判断だった。すまんな」
短く返すと、黒田も部屋を後にした。暫くは、誰とも顔を合わせたくなかったので、1人で拠点内をブラブラしていた。
~~
エスポワール戦隊の基地は壊滅状態にあった。機材や施設なども破壊され、残して来た隊員達の殆どは行方不明になっており、僅かながらの生き残りから何があったかを知った。
「怪人どもが一斉に攻めて来て、仲間達の遺体を食らっていたと」
「は、はい。カラードの人達が、ぼ、僕達を逃がしてくれて」
嗚咽を漏らしながら語るのは、あの時の恐怖を思い出しているが故か。怒りに打ち震える段階を超え、大坊の表情には何も浮かんでいなかった。
「そうか。怖かっただろう。生き残ってくれて本当に良かった」
「うぅ、うぅ……」
「仇は必ず取る。俺達はアイツらを絶対に許さない。動ける者は基地の機能回復を。ビリジアン、リチャードの本拠地から回収したスーツケースの中身を調べてくれ。必ず、何かの手掛かりがあるはずだ」
「分かりました。おい! 機能修繕の為に動け!」
隊員達は破壊された基地の機能を修復する為に一斉に動き出した。その中で、大坊は数名のカラード達を呼び出した。
「俺達が動けない間に連中は好き勝手にやるだろう。だが、そうはさせない。俺達だけでも街の見回りに行くぞ。見つけ次第、殺せ」
「了解」
伝播した怒りは、彼らに無限の活力を与えているのか。リチャードとの戦いでの疲労など見せずして、直ぐに街中へと出た。
「リーダー。私も」
「七海、お前はビリジアン達と一緒に基地の機能の回復に当たってくれ」
「……分かった」
七海を基地に残して、レッドは専用のバイクに跨って街を目指す。ヒーローが悪に負けるなど、あってはならないことだ。リチャードと対峙したことで、自らの考えの正しさは補強されていた。
「待っていろ。必ずや、お前達を滅ぼしてやる」
大坊の双眸には炎が宿っていた。正義か、善か、怒りか、憎しみか。何を焼べているのかは、本人ですら分からないまま。口角だけがつり上がっていた。




