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矛盾 9


「ギャッ!!」


 カラードの1人が斃れた。リチャード達の装備は、エスポワール戦隊の物よりも遥かに高性能だった。アーマー内に内蔵された高周波ブレードは容易く人体を切断し、放たれる銃撃はカラード達をボロ雑巾の様に引き裂いていた。


「リーダー。装備の性能が違いすぎる。このままでは全滅する」


 形成の不利を悟り、逃げ出そうとした者も居たが、固く閉ざされた扉を突破することが出来ずに、体中に風穴を空けられた。

 七海と大坊は物陰に隠れていたが、発見されるのも時間の問題だった。仲間が1人、また1人と倒れて行く。沸々と忘れていた感情が沸き上がる。


「……忘れていた。そうだ、俺はきっと慣れてしまっていたんだ」


 フェイス部分が覆われていて表情は読めないにしても、彼らが今際に何を思っていたかは分かった。まるで、突き動かされる様にして立ち上がっていた。


「リーダー?」


 ゆらりと物陰から姿を現す。恰好の的と言わんばかりに、銃弾を浴びせられるが、彼を貫くことは出来なかった。周囲が陽炎の様に揺らめき、斃れているカラード達が融解して、大坊の中に吸い込まれて行く。

 銃撃が有効打にならないと判断すると、各員が近接用の装備を展開して肉薄する。カラード達のガジェットが、アーマーに対して有効打にならないのは先程の交戦で分かっていた。ハズだった。


「邪魔だ!!」


 大坊の全身からは、斃れたカラード達のガジェットが生えていた。両肩は砲門になっており、腕部は刀剣に置き換わっていた。顔全体を覆うマスクは、口元に切れ込みが走っていた。人体の稼働領域を遥かに超えた開き方をすると、紫色の煙が噴き出した。


「ガボ。ゴボッ」


 至近距離でガスを受けた兵士は、のた打ち回ると動かなくなった。大坊の反撃は終わらない。カラード達の意思を引き継いだように、彼は常軌を逸した動きで次々とリチャードが引き連れて来た精鋭達を葬っていた。

 腕を振るえばアーマーご人体を真っ二つにした。肩部の砲撃は人体をゴミクズの様に吹き飛ばした。ハンマーの様に硬質化した脚部での蹴撃は、アルミ缶の様に相手を圧縮した。


「ビューティフル! 素晴らしいです。これぞ、私が憧れ崇拝したヒーローです!」

「……忘れていたよ。俺が、何の為にヒーローになったのか」


 戦力を失い、自身の命も危険に晒されていると言うのに、リチャードは満面の笑みを浮かべていた。対する大坊の表情は能面の様に無表情だった。


「一体、何故ですか?」

「声が、俺を突き動かすんだ。助けてくれと、許せないと。俺は、皆の怒りに応える為にヒーローになったんだ」


 思考が透き通って行くような気がした。今まで、抱いて来た煩雑とした考えが全て余計な物だと思えた。皆の期待に応えることが、あるいは平和な世を満たす為に動くべきかと考えて行く内に、動きは鈍って行った。あまつさえ、他人の未来や生活に思いを馳せるなど。まるで、ちっぽけな人間ではないか。

 自分を突き動かすのは、この世界に満ちる怒りだ。ジャ・アークを、悪人を、悪事を、理不尽を。その全てを許さぬためにヒーローをしていたのではなかったのか。


「ならば! その決意を! 私に見せなさい!」


 リチャードが歓喜と殺意を込めて大坊に襲い掛かるが、相手になる訳が無かった。彼の全身から生えたガジェットが、一斉に襲い掛かった。

 腕部の刀剣を振るって、五体をバラバラにした。ハンマーの様に硬質化した足で臓器を執拗に叩いた、最後に毒ガスを吐きかけた。遺言すら残せず、リチャードは息絶えた。


「リー……ダー……?」


 七海からの呼びかけにも答えず、大坊は奥の方へと進んで行く。暫くすると、彼はスーツケースを手に帰って来た。


「七海。行くぞ」

「何処へ?」

「弔い合戦だ。ジャ・アークを潰す、世界に満ちる理不尽を潰す。敵を倒してこそのヒーローだからな」


 ゾワリと背中に悪寒が走った。目の前にいる男は、自分が知っている人間なのだろうか? 二人以外、誰も生きている者はいなかった。

 固く閉ざされていた扉を蹴破り、悠々と表に向かって歩いて行く。外に出ても死体が転がっていた。生き残った隊員達に対して、大坊は高らかに宣言した。


「皆! 多くの犠牲を払ったが、俺達は裏切り者であるリチャードを倒した! 奴はジャ・アークと手を組み、俺達を陥れた!」

「許すな! 連中を許すな!」


 隊員の一人が叫んだ。呼応するようにして、周囲に怒りが伝播していく。死闘を終えたばかりで、少なくはない疲労が蓄積しているはずだと言うのに、皆が叫んでいた。


「俺達はヒーローだ。悪を……許すな!!」


~~


 大坊によって肉体を引き裂かれるまでの一瞬に、リチャードの中では走馬灯が巡っていた。自分がどうして、ここまで来たのか。

 生まれは裕福な物だった。エリート社員でありながらも傲慢さとは無縁であった父。教養、知性、慈しみに溢れていた母。両親の寵愛を受けて育った彼もまた、両親に恥じぬ子として成長していった。


「(これは、私の人生の)」


 有名大学に入り、学友達と交友を育み、勉学や研究にも励んだ。ボランティア等にも積極的に参加し、受け継いだ優しさと誠実さを発揮し、やがて伴侶となる女性と出会い、結婚をして子宝を授かった。

 幸福が崩れ去ったのは、たった1日の出来事だった。自宅に帰って来た時、愛する妻と子は血を流して倒れていた。犯人は黒人の青年だった。

駆けつけてやって来た警察官により、犯人は射殺された。司法解剖の結果、薬物中毒であったことが分かった。だが、そんな事はどうでもよかった。


「(理不尽は誰にでもやって来る)」


 何故、自分達がこの様な目に遭わなければならなかったのか。税金も納め、犯罪等とは無縁な人生を送って来た。両家の両親がやって来て必死に彼を慰めてくれたが、どうでもよかった。

 広くなったマイホームを引き払い、家族の為に貯めていた貯金を使い、彼は行動を起こした。自分達の人生を狂わせた麻薬カルテルを許さなかった。


「ガイ・アークが殺害された?」

「はい。皇から来た犯罪者の手で」


 南米に巣食っていた強大な麻薬組織は、国ですら手を焼く存在だった。リチャードも対処を考えている中、たった一人の人間が巨悪を滅ぼしたという話を聞いた時は、映画でも見ている様な気分だった。

 後始末ならば自分でも出来る。彼は生き残った構成員達を次々と消して回っていた。自分達から幸福を奪った人間達を赦すつもりは無かった。


「か、えして……」

「先に奪ったのは貴方達です」


 自分達が行っていることが、かつての悲劇を再生産することだと分かっていても止める気は無かった。


「幸せに……なり、た、かった」

「今度は生まれてくる場所を間違えないでください。それと」

「まだすることが?」

「腹の中の子供だけは助けて上げなさい」


 僅かながらの感傷が一つの命を救い上げていたが、何の慰めにもならなかった。彼の魔の手から生き延びたのは、フェルナンドを始めとして数人だけだった。

 これ以上の探索は労力に合わないこと。もっと、大きな野望を成就できる可能性あること。一旦、復讐を止めた彼は皇へと向かった。


「お困りですか。Mr.大坊」

「何者だ!」

「私は敵ではありません。貴方のファンです」

「ファンだと?」

「その子を。助けたいのでしょう? 迷っている暇はありません」


 全ては、世界の不幸を飲み込む為。悪と、認めぬと、否定した相手を問答無用で打ち砕き、拍手喝采を浴びる主人公(ヒーロー)と言う最強の理不尽を手に入れる為。故に、他者への共感は必要ない。

 敵対者の不幸、無念、経緯などに理解を示す必要はない。ただ、世界に蔓延る哀しみを消す為。誰よりも、大坊がヒーローでなくては成らなかった。


「(今の貴方は。敵対する者すべてを打ち砕く。最高の)」


 臓器が踏み均されて行く。自分を襲った以上の不幸を巻き散らしてきたリチャードは、妻も子も迎えてくれることは無く。今まで、踏みにじって来た悪党達と同じく惨めな最期を遂げた。


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