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普通 14


 中田の治療も兼ねて、彼は拘束されていた。ハト教の危機を救った英雄だとしても、エスポワール戦隊の敷地内という事もあっての措置だった。

 桜井と稚内が立会人として同席したのは、中田へ危害を加えるのは防ぐ為でもあったが、一同は緊張していた。


「俺が怪人だと分かったら、直ぐに殺しに来るような真似はしねぇよな?」

「私が証言をするけれど、リーダーが何を考えているかは分からないから」

「隊員である俺も証言します」


 気丈には振舞っていたが、稚内の手も震えていた。一秒が永遠にも感じられる中、大広間には強化外骨格(スーツ)を解いた大坊が、七海を連れて現れた。

 周囲に控えていた隊員達を下がらせ、得物であるレッドソードもベルト内に収めて、腰を下ろした。


「中田だったか。まず、先に礼を言わせて貰う。播磨の暴走を阻止し、多数の命を救ってくれたこと。感謝する」

「別にお前の為にやった訳じゃない。礼なら、後ろの二人に言いな」


 身内を引き合いに出されると弱いのか、気勢が削がれた。稚内も口籠っていたのを見て、桜井が声を上げた。


「リーダー。私、貴方のやることに口は出さないつもりでいた。でも、このままだと。また、播磨の様に『正しさ』の為なら誰かを平然と犠牲にする奴が現れるよ」

「なら、どうしろって言うんだ? 今更、俺達に活動を止めろと言うのか?」

「やり方を変えるべきだと思う。ハト教みたいな形を作れたのは、リーダーが自分達の在り方を考えたからでしょ? 折角、こんなに良い場所を作れたのに、また暴力で誰かを黙らせる集団に戻って欲しくないの」


 もしも、今までの彼女ならば大坊に凄まれた時点で口を閉ざしていただろう。だが、先の出来事でヒーローとしての矜持を取り戻していたのか、毅然と言い返していた。


「じゃあ、どうやり方を変えれば良いんだ? 悪人1人1人捕まえて対話でもしろと言うのか?」

「そうじゃない。暴力で誰かを排除しようとするのが良くないんだよ」

「桜井。俺達は昔から、この手段を使って『ジャ・アーク』を倒して来ただろ? 大人達が何か言って来たか? 唐沢司令が注意したか? 違うだろ! レッドソードの使い方を! 必殺技の使い方を! 悪を倒せと! そう教えて来られて! 今更、違っているなんて言われて、納得できるか!!」


 仮にでも整えていた体裁を崩してまで否定した所を見て、桜井は哀れだと思った。彼は、エスポワール戦隊以外の生き方を見つけられなかったのだと。黙っていた中田が口を開く。


「で、お前さんはコレからも悪人を見つけて殺し続ける訳か?」

「そうだ。まずは、播磨に破砕塵を渡した奴らを倒す。背後関係を洗って、戦隊内の規律と指針の再教育を施す」

「まず、このハト教をどうにかしようって考えはねぇのか?」


 大坊は表情を強張らせた。誰かを助けるよりも、倒すことを優先した上での考えを見透かされていた。


「ここに来るまでに、隊員から地下についての話は聞いたよ。安楽死の是非なんて当事者同士で決めりゃ良い。播磨がビジネスにしていたことを責めるなら、ソレを利用していた奴はどうするつもりだ?」

「許されないことだ。処罰とまではいかないが、警告はする」

「ソイツらが介護問題で苦労していたことを無視してもか?」


 言葉に詰まる。ビリジアンが取材して来た映像から、理屈は理解できていた。だが、それ以上に許せないという気持ちが大きかった。自分を育ててくれた親の死を願うこと等、あって良い筈がない。


「苦境に立たされていた奴らにとっちゃ、エスポワール戦隊より播磨の方が救いのヒーローだっただろうよ」

「何が言いたい?」

「今よ、俺はすげぇムカついているんだ。親っさんが殺されたとき、俺はお前達を滅茶苦茶憎んだ。ぶっ殺してやりたいと思った! だが、このハト教で稚内や信者の皆と話をして、本当に世の中を良くしたいと思っているなら! 俺も割り切れると思った! だが、肝心のお前がそんなんじゃ、死んだ親っさんや皆が報われねぇよ!! お前は考えるのが面倒だからって、バカでも振るえる暴力に頼っているだけだ! 俺達と何が違う!?」

「バカだと? 言わせておけば!」

「入って来て!!」


 一触即発の空気になった所で、七海が叫んだ。大広間四方の障子が開き、隊員達が両者を取り押さえた。変身を済ませた桜井に対し、七海が手で制した。


「中田君をどうするつもり?」

「彼が怪人であることが分かった以上は、見逃す訳には行かない。今回の功績を考えて、エスポワール戦隊の本部で丁重に保護する」

「テメェ!!」


 複数人の拘束を振り解こうとしている大坊を諫めながら、七海達は引き下がって行った。隊員達に取り押さえられている中田はリングを取り上げられた後、身柄を拘束された。稚内が叫ぶ。


「待って下さい! 中田さんは、オフクロや皆を救ってくれたんです! この扱いは、あんまりです!」

「他の信者の安全の為でもあり、彼の身柄の安全を保護するためでもある。稚内君、分かってくれ」

「だったら! 俺も連れて行って下さい!」

「……分かった」


 中田を連れて行く隊員の中に稚内が加わり、何処かへと移送されて行く。桜井も付いて行こうとしたが『我々の問題なので』と断られた。

 1人残された彼女は、暫く呆然としていた。リーダーの抱える信念、中田の様な人間もいること。誰もが英雄になる瞬間があるが、ヒーローで居続けることはできない。ガサっと、背後の障子が揺れた。


「誰!?」

「ひゃあ!?」

「驚かせて、すみません。彼女に貴方が何処にいるかを聞かれたので」


 ペタンと。背後では富良野が尻餅を着いていた。隣には、彼女を案内して来た橘と七海と同じ年頃の少女がいた。


「あの、先輩? 何があったんですか?」

「色々とありすぎてね。ちょっと、整理がてらに話してもいい?」

「私達は席を外した方が良いですか?」

「……いいえ、橘さん。リーダーと一緒の時間を過ごした事がある、貴方にも聞いて欲しいの」


 自分の考えを整理する様にして、彼女は先程までの出来事を話した。播磨を処分したこと、頑として自らの信念を曲げない大坊のこと、彼に対して考えることを止めて暴力にだけ傾倒していると指摘したこと。


「中田さんの言っている事の方が真っ当じゃ?」

「いえ、これは難しい問題だと思います。私には大坊さんが全て間違っているとも思えませんから」

「どうして、そう思うんですか?」

「だって、大坊さんは私にとってのヒーローだから」


 今まで、口を開こうとしなかった少女がポツリと呟いた。言及を避ける為に、橘の背後に隠れた。


「彼女は佳織ちゃんと言います。両親に虐待されていた所、大坊さん達が保護をしました」


 両親の末路については尋ねる必要もないだろう。大坊の行っている行為が暴力に頼った物であるとしても、救われた人間もいるはずだ。


「警察に……」

「通報した所で無駄だった。というニュースを知らない訳ではないでしょう?」


 行政が干渉できる範囲には限界がある。通報や相談があったとしても、無駄に終わったケースも少なくは無い。


「暴力はいけないことだとは思います。ですが、人権や言動の自由がある限り、暴力に頼らなければ解決できない問題と言うのもあります」

「橘さんはリーダーに賛同するんですか?」

「……賛同と言う訳ではないんですけれど。彼自身が善意で動いているのが分かっているから、どうにかして報われて欲しいと思っているだけですよ。その為に、私はハト教の提携に手を貸したのですから」


 結果は暗澹たる物となってしまった。播磨の所業がバレたら、糾弾は免れないだろう。


「これから、どうなるんですか?」

「内密に処理したい所ですが、信者以外の人達も巻き込まれた手前。ある程度は、外に出てしまうでしょうね。桜井さん達にはご迷惑をお掛けしますが」


 自分達の生活にとっても無関係ではない。再び、職場が無くなるかもしれない危険性があるのだ。だが、自分達に出来ることは無い。

途方に暮れている彼女らを、暗がりの部屋の隅にいるネズミがジィッと眺めていた。


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