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「お前の怪人としての能力が、偵察を放つ物だという事は分かったが、今話したことは本当なのか?」

「えぇ。ハト教で中田さんが施設の爆破を防いだ後、エスポワール戦隊に連れ去られました。木乃伊取りがミイラになりましたね」


 ハト教で騒ぎがあった日の深夜。反町は『ジャ・アーク』の幹部達に、偵察から得た情報を話していた。会議室内のスクリーンには、発生した事件の映像が事細かに映し出されていた。

 介護施設内の地下で蠢く陰惨な光景。証拠隠滅の為に設置された爆弾。戸惑う目標物に、覚悟を決めて危険を打破しようとする中田。まるで、映画のワンシーンを切り抜いたようだった。


「ガッハッハ! あのチャラ男。意外と根性が据わっとるのぅ!!」


 彼の勇壮な活躍を見て金剛が大声で笑った。愉快そうにしているのは彼だけではなく、他の者達も同じだった。


「痛快とはこの事ですね。まピンクさんを拉致する所か、助けたのは意外でしたが、これはネタ的にも美味しいですよ」

「エスポワール戦隊の評判を落としつつ、我々の正当性を主張する。記事を打ち出す準備は出来ていますか?」

「勿論ですよ」


 金木が反町に段取りを問うている中、事情説明を受けていた黒田は眉を顰めていた。傍にいた豊島が声を掛けた。


「何か気になる所があるのか?」

「いえ、中田はどうなるのかと思いまして」

「黒田さん。むしろ、この事実を広く市民に広げる方が彼を助ける事にもなるんです。皆を救った英雄を拉致して、殺害した。となれば、彼らは本物の悪党になります。丁重に扱わざるを得ないはずです」


 道理だと考えた。反町の言う通り、彼らがヒーローとして大義名分を立てて活動している以上、看板を守る立ち振る舞いは強要される所だ。

 スクリーンには中田と大坊が言い争う様子まで記録されていた。彼失くしては、これだけの情報を得ることはできなかっただろう。一通り見終えた後、フェルナンドは指示を飛ばした。


「反町。ネットと雑誌、両面から記事を出して行け。具体的な方法は任せる。ただし、夜明けまでにやれ」

「了解。それじゃあ、私は一足先に作業に移らせて貰います」


 急を要することもあり、反町は急ぎ足で会議室を去った。他の幹部達も退室していく中、フェルナンドと黒田だけは中田と大坊の言い争う様子を見ていた。

 ハト教の中で感化され変わって行った彼の言葉だからこそ、悪を倒し続ける存在に響いたのだろう。


「黒田。大事な人間が殺された怒りとかって割り切れる物だと思うか?」

「割り切れる。と言うよりも、しょうがない。と諦める形になると思います。ましてや、相手がエスポワール戦隊……ヒーローであるなら」


 復讐が正しくない。報復殺人や敵討ちが法律で禁止されているのは言うまでもない。ましてや、相手は正しさの象徴であり倫理的、肉体的暴力の化身。抱いた怒りは諦観ともに霧散するのを待つしかない。


「ヒーローが悪役(ヴィラン)をやっつけたら喜ぶよな。俺達がどんな思いを抱いていたかなんて知る気もない奴らはな」

「今でも憎んでいますか?」

「……ボスが殺され、妻が殺された日から。俺の生は怒りと共にあった。ヒーローだけじゃない。俺達の不幸を嘲笑っている善良な市民共にだ」


 固く握られた拳は震えていた。黒田にも覚えが無い訳ではない。SNS等では犯罪者や悪人。憎悪の対象となった者の不幸を喜ぶ者達は少なくは無い。

 勧善懲悪と言う言葉がある様に。悪を懲らしめ、善を勧めることが美徳とされている皇では、悪の不幸は歓迎される物となっていた。斃された悪が何を思っていたかなど知る必要もなく。


「俺にはまだ、豊島の兄貴を始めとした皆や中田の様に、支え合える人間がいたから違ったのかもしれません」

「支え合える人間がいるなら、居た方が良いに決まっている。独りは心を蝕むからな」


 続いて再生し始めたのは事件と関係の無い、中田達の日常的な光景だった。ヒーローも悪人も関係なく、共に支え合いながら働いていた。

もしも、最初にヒーローと悪人達の在り方がこの様であれば、皇はまた違っていたのだろうかと言う、あり得ない想像ばかりをしていた。


~~


 色々ありすぎて泥の様に眠った。今日は休みとなり、隊員達だけで施設を回すそうだが、今後がどうなるのかが気になった。

再び職場を追われるのか、あるいは再開するのか。自分達がどうすることも出来ないので、突如湧いた休日を謳歌する為にもテレビを付けた。


「ハト教のニュースは流れていないか」


 アレだけ騒ぎがあったのに、ハト教に関するニュースは流れていなかった。新聞にも載っていなかったが、ネット上は違っていた。昨日の様子が動画サイトに張られていたらしく、グロテスクな映像が規制も無く流されていた。

 運営側も削除しているようだが、エスポワール戦隊の処刑動画と同じく、消せば増えると言った具合に拡散され続けていた。


「……誰が?」


 中田にそんなことが出来るとは思えない。無責任な憶測やデマが飛び交う中、特に話題になっていたのは介護施設の地下だった。


『あそこにいた老人達は一体何だったのか?』

『ニュースサイトによれば、認知症などを患っていたらしく。家族に安楽死を依頼された者達らしい』

『自分の身内を殺すなんて人間の屑じゃねぇか。そういう薄情な連中はエスポワール戦隊に倒されてしまえば良い』

『じゃあ、お前は自分の両親が夜中に起き出して大声を上げたり、徘徊して周囲に迷惑かけても最期まで面倒見ろよ?』


 賛否両論。善良さと常識を振りかざして善人ぶる者も居れば、実際の介護の苦労を知っているのか。施設の是非を問う考えなどもあった。

 一方で議論が沸き上がることも少なく、賞賛の声が溢れていたのは中田の行動だった。戸惑う桜井を前に、過去を振り切り身を呈す様相に好感を持つ者は大勢いた。


『怪人になったってことは、アイツも『ジャ・アーク』の一員ってこと?』

『ヒーローの施設で殺人が行われていた所、悪人が皆を助けたとか。どんな皮肉だよ』

『ひょっとしたら、エスポワール戦隊が制裁して来た人達の中には、こんな人達も居たんじゃないかな?』

『大切なのは背負っている看板じゃなくて、ソイツが何をするかだよな』


 ネットでよくある話題の様に浪費されるのか。それとも、エスポワール戦隊にまで届くかは桜井も分からなかった。

 朝からネットで時間を浪費するのは健全と言い難い。何をしようかと考えた時、ふと昨日のことを思い出した。久々にヒーローらしいことをした余熱が蘇って来たのか、活力がみなぎっているような気がした。


「よし」


 二度寝をする事も無く。彼女はジャージに着替えて、アパートの周りをランニングし始めた。共に走る人間は居なくても、朝の風を浴びていると懐かしい気持ちがほんの少しだけ蘇って来た。


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