普通 13
駆けつけた大坊は自らの目を疑っていた。空へと怪人が昇って行ったかと思えば、宙で爆発した。だが、落ちて行く人間を掴んでいたガジェットは見間違えるはずもなかった。
「アレは。ピンクウィップか?」
「な、何が!?」
困惑する門番を押しのけて、騒ぎの中心部へと急ぐ。訪れた現場に広がる光景を見て言葉を失っていた。
桜井を含めた隊員達が一人の男を看病していた。焼け焦げた信者服の腕からは、怪人化のリングが見えていた。
「ピンク。一体何が起きたんだ? その姿は……」
「リーダー、事情を説明したいの。付いて来て」
何かに縋るような、誰かに凭れ掛かる様な頼りなさは無い。かつて、共にジャ・アークと戦っていた時の勇気に満ちた姿があった。
案内された介護施設内の奥へ奥へと進んで行く。部屋に設置されていたギミックを作動させて、地下へ降りる。隊員達も口元を覆うような、酸鼻を極める光景が広がっていた。
「これは何だ」
「リーダーは何も聞いていないの?」
「聞いていないし。許す訳も無いだろう。ホワイト! 彼らの治療に当たれ!」
「ウィヒヒ。偶々、付いて来た甲斐があったモンですね!」
粗末な寝台に寝かされている患者達が保護・治療されて行く傍ら、レッドは隊員から報告を受けていた。
「リーダー。この施設内を調査した結果、大型のガジェットを幾度も起動させた後がありました。……使用用途は、主に対象の火葬に使っていた物だと思われます」
マスク越しでも声が震えているのが分かった。彼らが人を殺傷しても動揺しないのは、相手を完全に悪と認定しているが故である。
ここで働いていた隊員達は、施設を利用していた入居者達は病気こそ患っていたが、悪人でないことを知っていた。彼らの処分の片棒を担がされていたかもしれないという、罪悪感に襲われているのだろう。
「分かった。調査、ご苦労だった」
受け取ったレポートに目を通していく。どれもが許し難い所業であり、これがエスポワール戦隊の名の下で行われていたと思うと、全身が煮え立つ程の怒りが沸き上がっていた。
「リーダー。妨害電波の発生装置も止めたって」
「七海。今直ぐ、播磨達の居場所を調べさせろ!!」
桜井と共に表に出て来た大坊の視界に、稚内達から看病を受けている中田の姿が入って来た。腕に装着されたリングから、彼が怪人であることは分かる。説明を求める様に桜井の方を振り向いた。
「中田君は、この施設内にあった破砕塵を皆から遠ざける為に怪人化したの」
「何故、コイツがそんなことを?」
「分からない。でも、変身する前に色々と言っていた」
稚内の母親を労わったこと。ピンクの身を案じたこと。自分の正体がバレることも厭わず、皆を助ける為に身を張ったこと。そして、彼を死なせまいと皆が力を合わせたこと。
話を聞きながら、大坊の呼吸が少しずつ乱れていくのが分かった。傍にいた七海は、リーダーのかつてない程の狼狽に困惑していた。
「……リーダー?」
「本当にコイツがそんなことをやったのか」
大坊は思い出していた。この男は、自分がリチャード達とハト教に来た時。生意気な口を叩いていた奴ではないか。
唾棄すべき、見下すべき悪党だと思っていた男が、ピンクや仲間達からの信頼を集めている。許し難い現実だったが、心の奥底では彼の勇気や立ち振る舞いに対する呼称が思い浮かんでしまっていた。
「そうよ。稚内君や私にとって、彼は『ヒーロー』なのよ」
「言うな!!」
叫んでいた。認める訳には行かなかった。もしも、悪人がヒーローであることを認めてしまっては、対峙している自分のアイデンティティが冒されかねない。
彼の怒気に周囲が静まり返る中。唯一、気絶していた中田が起き上がった。周囲を見回して、建物や人々が無事なことを見ると溜息を洩らした。
「良かった。皆、無事だったんだな!」
「中田君!」「中田!」「アンタすげぇよ!」
桜井と稚内が駆け寄る。周囲の隊員達や介護施設に来ていた職員達からも、彼を褒め称える声が上がった。大坊は蚊帳の外にいた。
排除し続けて来たはずの悪人が人々を助けている。ガイ・アークの時の様に不正な手段ではなく、自分でさえも認めざるを得ない程に真っすぐな方法で。逆に自分達の仲間が、罪のない市民を傷つけていた。
「俺は一体なんなんだ?」
「リーダー。播磨の位置が分かった」
「直ぐに追いつくぞ」
逃げる様にして、大坊はチェイサーを起動した。連れて来た隊員達をハト教に置き去りにして、彼は目的地へと急ぐ。そんな彼らの様子を高木に留まっていた鳥達はジィッと見ていた。
~~
「うわぁ。失敗しちゃったか」
「早く高跳びの準備をしましょう」
播磨は側近達と共に逃走していた。爆破の失敗を悟った彼らは、空港へと向かおうとしていたが、既にエスポワール戦隊によって封鎖されていた。
「何処に逃げようというんだ?」
「あっちゃぁ。先回りされていたか」
量産型の強化外骨格を装着した隊員達を引き連れていたのは、シャモア色のスーツを装着した女性だった。
車から降りたオリーブグリーンのカラードが、クロスボウ型のガジェットの引き金を引いた。射出された矢が、隊員の一人を貫いた。
「ぐあっ!」
「もはや、反逆を隠す気もないという事か」
「どうせ、許して貰えないだろうしね」
「何故、あんなことをした?」
「皇の富は、老人共を生き永らえさせるためにあるんじゃないよ。アイツらくたばり損ないの癖に、弁えることも知らないでさ。迷惑な奴らだと思わない?」
「それが理由か?」
「利用者も俺達もハッピーになれる方法だよ。何が悪いんだい?」
播磨もベルトを起動した。全身がクリムゾンレッドのスーツに覆われて行き、取り出したガジェットはシャモアと同じく方天戟と呼ばれる長物であった。
「お前を捕らえる。行け!」
「どきやがれ!」
エスポワール戦隊で内ゲバが行われようとした所で、大坊と七海が乗ったチェイサーが割り込んで来た。
「リーダー」
「播磨。答えろ。あの施設で、お前は何をしていた?」
迸る怒気に誰も言葉を出せずにいる中。播磨だけが明朗快活に、まるで自分の手柄を褒めて欲しい子供の様に話していた。
「迷惑な老人共を察処分していたんだよ。リーダーも分かるでしょ? 今まで、俺達が制裁してきた奴らの中には老人が大量にいた! 老いたら、社会のゴミになるんだよ。これを排除するのも俺達の役目だろ? リーダーだって、人々を虐げる老人には憤っていたじゃないか!」
写し鏡のようだ。ふと、そんなことを思った。反社会的勢力を一方的に葬っていた自分の様に。人々に迷惑をかける老人達を排除すべき悪だと定めて、処分していた播磨と自分に何の違いがあるのだろうか?
「そうだな。確かに、人々を虐げる老人には憤っていた」
「だったら! 俺の言っていることも分かってくれるよね!?」
「だが、お前が処分しようとした人々はそうではなかった。何よりも、同志に矛先を向けようとしたお前を許す訳には行かない」
「そうなるかぁ。しょうがない……来なよ。リーダーが本当にヒーローに相応しいか、俺が確かめてやるよ。掛かれ!」
播磨の号令に命じて、側近達が一斉に襲い掛かる。だが、レッドソードはスーツを容易く切り裂き、銃剣型ガジェットをも叩き切っていた。
「化け物が!!」
オリーブグリーンのカラードがクロスボウを乱射するが、大坊の体に到達するまでに燃え尽きてしまい、接近された後。首を撥ね飛ばされた。
瞬く間に裏切り者達が処刑される様子を見て、シャモアも含めて皆が震えていた。残された播磨は、槍術の心得があるのか方天戟を構えたが。
「蒼銃掃射」
「あ」
レッドソードを収納すると、大坊の両腕は蒼色の銃へと変形し、吐き出された弾丸の嵐は播磨をズタボロに引き裂いた。穿たれた穴から流れた血が、アスファルトを染めて行く。
「答えろ。誰が、お前らに破砕塵を渡した。何故、俺を裏切った?」
「ハハハ……裏切って……なんて居ないよ……俺はリーダーの役に……」
事切れた。理想を共にしていた友人だと思っていた。だが、何時の間にか道は違えてしまっていた。誰も言葉を発さずに、この惨状の中で立ち尽くしていた。




