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普通 10


 播磨がトップに選ばれたのは、人を惹きつけるカリスマ性もあったが、危機管理能力にもあった。大坊から詮索があった時点で、ハト教に探りを入れている者がいるのは察していた。側近の隊員が耳打ちをした。


「やはり、あの中田と言う男が?」

「いや、アレはそのまま泳がせておいて。いざとなったら、アイツを使うから」

「では、ピンクが再び脅されている可能性が?」

「態々、俺達に矛を向ける必要はないでしょ」


 信者の殆どが宿舎で眠りに落ちている中、敷地内では播磨の手勢が動いていた。その中には、カラードも混じっていた。


「ドローンや盗聴器。機材関連すら見当たりません」


 広大な敷地内を駆け巡っても、手掛かりを掴めない徒労感に襲われている中。オリーブグリーン色の強化外骨格(スーツ)を装着したカラードは、クロスボウ型のガジェットを構えた。


「見つけた」


 引き金を引く。放たれた矢は、木に留まっていた鳥を撃ち落とした。地に落ちた鳥の体からは血ではなく、灰色の液体が流れ出ていた。隊員の一人が直ぐに連絡を入れた。


「播磨様、見つけました。環境生物に擬態したドローンを送り込んでいるようです」

「分かった。相手もドローンを潰されたことに気付いているだろうから、対策を練らなくちゃね」


 広大な敷地に住まう環境生物は相当な数に上る。1匹1匹を調べ回るのは現実的ではない。報告を受けた播磨は一つ頷いた。


「ちょっと早いけれど、例の段取り。実行するか」


~~


 問題を見なかったことにすれば、気分も晴れ易い。いつも通りの変わらない日々を過ごせることこそが幸せだ。ただ、今日は様子が違っていた。


「これは、ハト教全体へと伝えていることです。先日、敷地内に不審者が出たという報告がありました。夜間の方は、特に気を付けて……」


 話を聞いた時。桜井の脳裏に浮かんだのは件の電話についてだった。まさか、直接姿を現したのか? 隣にいる富良野も不安そうな顔をしていた。


「こんな場所に現れるなんて。何を考えているんでしょうか?」

「分からない。だからこそ、不審者なのだろうけれど」


 先日の一件から、自分達の平穏が脅かされようとしている。果たして、自分はこのまま日常を送るだけで良いのか? 芽生えた不安を拭う様にして、自らの腹部を擦った。


~~


 朝礼で、同じことを伝えられた中田は仕事の最中も考えていた。一体、不審者は何者だろうかと。自分の関係者か? あるいは、何の関係もない人間なのか。

 外部と連絡を取ることは出来ず、すっかりハト教の一員として馴染んでいた。不便さにも慣れて、この生活も悪くない物だとは思っている。


「(飯が食えて、寝る場所があって、ちょっとした娯楽がある。これ位で良いよな)」


 恨みも憎しみも忘れて行く。外への関心も忘れた頃には、ひょっとしてエスポワール戦隊とジャ・アークの争いも終わっているかもしれない。

 黒田、豊島、剣狼の顔も浮かんだが、彼らに対して申し訳なく思う気持ちも日々薄れて行く。一体、自分は何のために極道をやっていたのか? あまりの芯の無さに自嘲的な笑いを浮かべながら、ルーティンワークをこなしている。


「……?」


 シュルリと寄って来る存在に気付いた。保護色をしていたので気付き難かったが、蛇が自分の足元へと来ていた。初めて見る存在でも無かったので、大人しくしていると、自部の長靴へと入って来た。

 だが、不思議な事にスッポリと収まった後。ブーツ内で蛇のニュルリとした感覚は消え、代わりに固い物が残った。足裏の触感で直ぐに分かった。


「(リングだ。なんで、今?)」


 疑問は浮かんだが、怪しまれない様に仕事を続ける。本部の者達が意味もなく、この様な危険物を届けるはずがない。自分が知らない所で何かが起きているに違いない。先程まで、消失しかけていた使命感が再燃していた。


「(何が起きるか分からねぇけれど。やってやる。その時は……)」


 自分がピンクを拉致するのだ。だが、本当に良いのだろうか? 稚内からも、母親を世話してくれている人だと聞いている。先日、会った時も彼女が一般人に戻りたがっていた女性だという事も分かった。

 彼女を、自分達の憎悪に付き合わせて良いのだろうか? もしも、染井組長が生きていたら、この復讐に賛同してくれるだろうか? きっと。そんなことはしないだろうと思った。


「(親っさんには怒られるかもしれねぇな)」


 せめて、彼女が大坊やヒーロー達と同じく、自分とは無関係の立場の人間を容易く制裁するような者だったら、ここまで躊躇わずに済んだのだろう。


「あ。そっか」


 ならば、もっと知ればいいと思った。幸い、自分には繋がりがある。仕事を終えた後のことを考え、彼はノリノリで仕事をしながら昼休みになった途端。監視を受けていた稚内に頼み込んでいた。


「は? また、ピンクさんに合わせてくれって?」

「結構好みだったんだよ。勿論、付き合おうとかは考えてないぞ。ほら、日々の癒しとお前が世話になっていることをルームメイトとして礼を言おうと思ってな」

「うわぁ。ってなりますね」


 段々、遠慮を覚えなくなって来た芦川からは冷たい視線を浴びせられていた。だが、その程度で凹む中田ではない。


「芦川。お前も一緒に来いよ。稚内が世話になっている人だし、ここはルームメイトとして友人として、一緒に感謝しに行くべきじゃないのか?」

「今日は午後から倉庫の用具確認があるから、体力は温存しておきたくて」

「そうか。余裕が出来たら、お前も一声かけに行ったらどうだ? 介護って大変なんだろ? 金払っているからいいや。なんて考えは良くないしな」

「おう。その考えは、俺も賛成だ。ちょっと待ってろ。電話してくる」


 介護施設は一般人や入居者の関係から、入れる信者は限られていた。他の者に示しが付かないという事で、稚内はコッソリとスマホを使って桜井に連絡を取っていた。


「一緒に飯。どうです?」

「あ、実は。私達も今日は食堂で取ろうと思っていたの。ほら、朝礼で話を聞いたでしょ? だから、少しでも人気の多い場所で食べようと思って…」

「じゃあ、丁度良かったです! 今、何処ですか?」


 席を外してみれば、入り口で手を振っている二人組の女性を見つけた。同じく手を振り返したことで、彼女達がやって来た。中田は満面の笑みを浮かべた。


「どうも! 先日ぶりです!」

「あら、中田君」

「あ。チャラ……中田さん」

「ヒェッ」


 隠し切れない本年が漏れ出た富良野に、芦川が小さく悲鳴を上げた。彼女達は持参した弁当を広げた。口火を切ったのは、中田だった。


「何時も稚内のおふくろさんの世話をして貰って、ルームメイトとしてマジで感謝しています!」

「そんな、大仰にしなくても大丈夫よ。私だって、ここで働けることに感謝しているんだから」

「確か。元・エスポワール戦隊って事で、色々と苦労したんだっけか?」


 桜井が若干緊張したのが分かった。エスポワール戦隊関係者が苦労したというのは、数年前のニュースから容易に予想できることだ。自分が知っていても問題ない情報であるが、話して良いかは別だった。


「そうね。色々と大変だった。きっと、リーダーも大変だったと思う」

「それが、今ではここまで持ち直したんだから。凄いよな!」


 中田は注意深く観察をしていた。稚内が笑顔で話す傍ら、富良野と芦川の表情も緊張している。エスポワール戦隊の復活は、手放しで喜ばれる事ではない。極一般的な感性を心掛けた。


「隊員に戻ろうとは思わなかったのか?」

「……私はリーダーみたいな信念は持っていなかったから」

「大坊さんね。凄いよな。今でも仲の方は良いのか?」

「最近になって、また連絡を取り合う様になった位かな? 久々に話をした時は楽しかったな。色々と懐かしい話もしてね」


 信じられないことだが、あの無慈悲な男にも人並の感情は存在するらしい。ヒーローが人間性を露わに出来る相手と言うだけに、目の前の女性がどれだけ重要な存在であるかを改めて認識した。


「未だに仲は良さそうに思えるけれど」

「……分からない。私だって、リーダーだって変わるから」

「大坊さんに限って、そんなことは無いと思うんスけれどね」

「そうね。リーダーなら信じてもいいのかも」


 もしも、彼女が行方をくらました時。大坊はヒーローとして冷徹に振舞うのか、あるいは個人として大きく狼狽するのか。ブーツの奥底にあるリングの感触を確かめながら、引き続き。中田は昼食のひと時を楽しんでいた。


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