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普通 9


「え? ハト教の方で何か異常が起きていないか? 介護施設の入居者が行方不明になっていないかだって? う~ん。病院とかに送った後については、俺も把握しかねるかな」


 桜井の元に匿名の電話から数時間後、大坊から確認があった。ハト教内の施設で行方不明者が出ていないかと。


「本当か? 病院に尋ねても良いんだな?」

「いやいや。そんな重要な情報を外部に漏らす訳無いでしょ。リーダー相手でも、個人の連絡先はプライバシーの関係上、渡せないよ?」


 通話口で躊躇う様子を感じ取った。相手の罪が分からなければ、強気に出れないのが大坊の欠点でもあった。


「お前を。信じても良いんだな?」

「勿論だよ。俺が入隊した時も言ったでしょ? リーダーは俺の憧れなんだ。裏切る訳が無いだろう?」

「人を騙す奴は、決まってそう言うんだよ」

「仲間を信じてくれよ。桜井さん達が気兼ねなく働ける現場を作っている努力もしているんだからさ」

「……そうか」


 彼女の名前を出すと大坊の気勢が削がれた。播磨はスマホを握る手に力を込めながら、平静と変わらない声色で話し続ける。


「代わりに給料はちょっと安いけれど、そこは働きやすさ優先ってことで!」

「それは構わない。エスポワール戦隊の財源も無限ではないからな。引き続き、ハト教の運営を頼むぞ。播磨」

「お任せあれ!」


 通話を切った後、大きくため息を吐いた。ハト教の運営は比較的上手く行っている。入信して来た者達を労働力として、生産活動に従事させているし、幾つかの企業からは献金を貰っている。

 播磨には、エスポワール戦隊に貢献しているという自負があった。自分達ならば、皇に真の平和をもたらすことが出来ると信じていた。


「リーダーが真のヒーローなら、この国を本当に平和にすることが出来るんだ。俺はその為にどんな事でも……」


 独り言ちる彼の姿には、厳かさも軽妙さも見当たらなかった。手元のPCには中田と桜井の姿が映し出されていた。


~~


 桜井達は陰鬱だった。先日は、自分の社会復帰を兼ねて盛大に祝うはずだったのに、奇妙な電話のせいで打ち止めになってしまった。

 だが、意識をしてみれば、施設を訪ねて来る親族の数は少ない様に思えた。足を運んで来る者の殆どは、稚内の様に住み込みで働いている人間位だった。


「そんな電話があったんですか。気色悪いですね。リーダーに相談は?」

「したけれど、探知は難しいって。これを機会に、スマホを支給してやろうかっていう話もされたけれど」


 多分、スマホを変えた所で意味が無い気がした。番号を変えた所で、どうにでもなりそうな、得体のしれない不気味な相手だった。


「きっと、エスポワール戦隊を憎んでいる悪党の仕業ですよ。記者とかマスコミ関係者はかなりの数を制裁していますからね」

「そうなの?」

「マスメディアは人々を煽り立てる低俗な連中ですよ。俺も、ゴシップ新聞社に何度か襲撃を掛けてやりましたしね!」


 嬉々として語る稚内を見ながら、やはり彼もエスポワール戦隊員だという事を認識せざるを得なかった。やっていることは言論弾圧であり、自由と平和からは最も程遠い事だった。


「言論の自由とかはあまり気にしないタイプで?」

「人を傷つける誹謗中傷の自由なんか無くても結構! そんな自由は、こっちから願い下げですね!」


 色々と矛盾は浮かんだが、目の前の少年にぶつけた所で事態をややこしくするだけだ。ただ、エスポワール戦隊が恨まれているのも事実だろう。だとしたら、怨恨を持った者の悪戯と言う点で無理矢理納得できないことも無い。

 自分の中で、先日の件に決着を付けようとしている所。稚内の母親がクスクスと笑っていることに気付いた。


「桜井さんと話しているときのアンタは、本当に楽しそうね」

「ヘヘッ。ついつい、話が弾んじまうんだよ」

「えぇ。稚内君の話は面白くて」


 こんな穏やかな時間を過ごせる場所で、おかしなことが起きている訳が無い。胸中の疑問から目を逸らす様に、この穏やかな時間に耽溺していた。だが、目を逸らした所で現実が変る訳ではなかった。


~~


 外でも時間は流れる。芳野が小康状態になったことで、剣狼も邸宅から出ることが出来た。事務所から、幾つかのホールを通って本部へと赴く。デスクワークをしていた黒田に挨拶をした。


「久しいな。芳野の御嬢さんは大丈夫か?」

「ひとまずはな。で、今はどういう状況なんだ?」


 ジャ・アークとエスポワール戦隊は緊張状態にあった。両勢力とも力を蓄え続けており、いずれは戦争状態になるかもしれない。と言う予想も出ていた。


「皇も相当に荒れている。この間は、エスポワール戦隊を批難・排除しようとした議員が撃たれた。富裕層と貧困層の代理戦争って考えている奴もいるらしい」

「他の奴の思惑など知らん」


 敵が強大になればなる程、ヒーローも力を増すと言うが、際限なく敵対勢力が膨れ上がって行くとしたら、彼らもまた際限なく強くなっていくのだろうか。


「いえ、既にこの戦いは、アンタ達の物だけじゃなくなっているんですよ」


 剣狼がバッサリと切り捨てた意見を拾い上げたのは、何時かに見た痩せぎすの男だった。


「お前は確か。反町だったか?」

「憶えて下さっていたんですか。光栄ですね」

「なんで、ここに居るんだ?」

「帰る場所が無くなっちまったんですよ。ほら、私。エスポワール戦隊への糾弾記事書いていたでしょ? アレで出版社がやられちまいましてね」


 マスコミは、エスポワール戦隊が目の敵にしている組織の一つだった。新聞社や出版社には幾度となく襲撃が掛けられており、反町が勤めていた会社も被害に遭っていた。


「言論の自由も無いのか」

「難しい言葉を知っているんですね。そうですよ、批判する権利は誰にでもあるはずです。気に食わない意見を排除しても良いって言うんなら、独裁と何が違うんですかね?」

「だからこそ、俺達はアイツらの顔面に一発くれてやらないといけねぇ。その為に、中田も踏ん張っている」


 ハト教と言う場所に潜入して、レッドの急所とも言えるエスポワールピンクの誘拐の機会を狙っているらしいが、音沙汰は無い。


「大丈夫ですよ。中田さんの様子なら、私が常にモニタリングしているんで」

「そんなことが出来るのか?」


 剣狼が疑問を口にした所、反町は袖を捲った。怪人化の為に必要なリングが装着されていたが、意匠が幾らか変わっていた。


「私も、ジャ・アークに所属するにあたって貰ったんですよ」

「そうなのか。リングのデザインが前とは違うようだが」

「強化・改良が入ったらしい。どれ位、パフォーマンスが上がったかは知らんが」


 少なくとも、エスポワール戦隊の監視をすり抜けるだけの能力を獲得できるのだから、相当に向上しているのだろうとは思った。


「実は、中田さんの監視がてら。ちょっと面白い噂を手に入れたんですよ」


 反町は机の上に新聞を放り投げた。そこには、皇国内で問題になっている老人介護問題や釣鐘型になっている人口ピラミッドのグラフが描かれていた。


「少子高齢化って奴か? エスポワール戦隊と何が関係ある?」

「私。社会問題も幾らか調べていましてね。介護問題っては本当に辛いんですよ。黒田さんは、老々介護とか聞いたことあります?」

「言葉だけは知っているな」


 皇の人間は長寿な事で知れ渡っているが、良い事ばかりではない。老化による認知機能や身体機能の低下により起きるトラブルは、親族にまで責任問題が波及することも珍しくはない。


「それが、エスポワール戦隊と関係あるのか?」

「えぇ。ありますとも。健全で善良なご家族様の望みを叶える機能が、今のハト教には実装されているんですよ」

「それは一体?」


 ハト教の介護施設の評判はネット上でも話題になっている。その事を指している訳ではないことは分かっていたが、だとすれば一体何があると言うのか。反町がゆっくりと口を開いた。


「―—要介護者の処分施設。言ってみれば、姥捨て山です」


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