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普通 11


 エスポワール戦隊本部にて、大坊はビリジアンからハト教の報告を受け取っていた。入信して来る者達の仔細については毎回目を通しているが、介護施設の報告については注視することは少なかったか。


「シャモアも介護施設の方に乗り込む訳には行かないから、調査の方が捗りませんでしたが、この間のピンクさんの報告はグッドでしたよ」

「どういうことだ?」

「あの捜索願を出されていた人物の息子を訪ねたんですよ。俺達が行くだけでベラベラ話してくれましてね」


 モニタに取材をした時の映像が流れていた。対面で撮影していることもあり、目の前の男性は酷く憔悴している様に見えた。


「本当に。正直に話したら制裁は無いんだよな?」

「大丈夫だ。約束する」

「私の母は、いわゆる認知症でした。徘徊癖もあり、警察から保護されたこともあります。夜中に起き出したり、妻に暴言を吐いたり。施設に入れるだけの貯金も無くて、限界でした」


 重苦しく吐露している様子に演技は見当たらない。話を聞いているビリジアンも正論は述べずに、男性に対して同情的な励ましを続けていた。


「介護は辛いよな。俺の知り合いもそうだった。今まで、自分を育ててくれた親でも限界はあるよ。でも、殺したり見捨てたりすれば糾弾されるからな」

「そうなんです! 特に、最近はエスポワール戦隊の事もあって……」


 感極まった男性の目からはボロボロと涙が零れ出ていた。介護の心身的辛さ、社会的に嘆くことも逃げることも出来ない窮状。何よりも、自分を育ててくれた親の末路を直視し続けなければならない苦痛はどれほどの物だろうか。


「最近は俺達も理解を進めて、ハト教で介護施設を運営している。で、聞きたいのはここからだ。アンタらの母親が介護施設から出たって言うんだが、病院にもお宅にも帰っていない。……何処に行った?」


 顔を伏せたままブルブルと震えていた。暫く、相手が言葉を紡ぐまで待ち続けると。涙を枯らせて、ポツリと呟いた。


「ハト教の。安楽死施設です。ご存じ、無いのですか?」

「詳しく、話を聞かせて貰えないか?」


 最初はハト教の介護施設が格安で使えるという事で母親を入れた。だが、噂が噂を呼び、利用したいという声は後を絶たない。だが、使えるスペースは限られている。だとすれば、効率よく回転させればいい。


「利用者の関係もあって、安楽死を勧められたんです。宗教を母体としている団体ですし、そのまま弔ってくれると聞いて……」

「誰が勧めた?」

「スタッフの一人に。もしも提案を飲み込んでくれるなら、今までに払った費用の一部も返すと言われて」


 観念したのか、自分の罪を吐露したかったのか。男性が持って来た通帳には振り込みがあった。


「幾ら、格安と言っても入居費も馬鹿にならないからな」

「正直、ホッとした所もあったんです。これ以上、母も私達も苦しまなくていいんだと。だから、賛同した……楽になりたかった」


 目の前の男性は、自分を育ててくれた母親を死に追いやった。だが、彼が抱えて来たであろう経済的、心身的苦労を知らずして責める事ができるだろうか。


「辛いことを話させちまったな。取材を受けてくれたことを感謝する」

「私に罰は」

「アンタが心底後悔しているなら、それ以上の罰は存在しねぇよ」


 立ち上がり、映像が途切れた。大坊の顔に浮かべられていたのは、全くの無表情だった。感情の臨界点を超えた、冷たい怒りに満ちていた。


「七海。ハト教に向かうぞ。ビリジアン。シャモアや現地の奴らにも準備をさせておけ」

「……わ、分かった」

「了解!」


 彼女でさえ聞いたことが無い程に、静かな怒気を孕んでいた。ビリジアンが通信を送ろうとした所で舌打ちをした。


「あ。リーダー、向こうに動きを察知されました。妨害電波出されています」


~~


「昼からの作業は中止です。全員、自室で待機する様に」


 昼食を取っていた中田達は、突如として告げられた命令に困惑していた。他の信者達も同じ様に戸惑っている中、隊員である稚内が立ち上がっていた。


「ちょっと、事情を聴いて来ます」

「お、おぅ」


 隊員達が集まり、何かを話し合っていた。戸惑っていると、別の隊員が近づいて来た。


「外部の方達の避難誘導をしますので、信者の方も協力してください。未成年の方は、部屋で待機を」

「分かった」


 隊員の言うことに従い桜井達は食堂を出た。何処へと向かうかも分からない中、先へ先へと進んで行く隊員に富良野が尋ねた。


「あの。何があったんですか?」

「詳しくは話せないんですが、避難誘導を手伝って欲しいんです。入居者の中には、頑として動かれない方もいるので」

「ちょっと、大丈夫なのよね?」


 もしも、ここが通常の介護施設なら自分達が行わなければならない活動だが、ここはハト教。作業に適した装備をした隊員達もいるはずで、自分達の様な一般人を危険に巻き込まないで欲しいという心配もあった。


「大丈夫です。あくまで、念の為ですから」

「念の為で、敷地内全体に命令を出すか?」


 中田の疑問には答えないで、介護施設へと向かって進んで行く。辿り着いた介護施設には慌ただしい様子は見当たらなかった。ただ、散歩に託けて外を歩いている者達が多かった。


「おい、誰を……って。アレ?」


 いつの間にか。自分達を牽引して来た隊員の姿がいなくなっていた。まるで、説明をされないまま放り出されたが、周囲がしている様に入居者達を外へと連れ出す為に、富良野も桜井も何処かへと向かって行く。

桜井の担当が稚内の母親であったことを思い出し、中田は彼女へと付いて行く。何の役に立つかは、まるで分からなかったが。


~~


「あら。桜井さん、どうしたのか?」

「ちょっと、今日は散歩しようかなって」


 彼女が連れ出そうとしている様子を見ながら、不意に足裏の固い感触がニュルリとしたものに変化した。ブーツから這い出た蛇は、壁を伝うと照明のスイッチをカチカチと操作した。

 通常ではしえない様な操作をしたことに疑問を持った桜井が振り向いた瞬間、壁の一部がスライドして階段が現れた。


「な、何よ。これ?」

「え。どうしたの?」


 不安そうにしている稚内の母親をなだめる桜井に対して、中田は1人階段の先へと進んで行く。時間にしてどれ位掛かったのかは分からないが、降りた先にあった光景は酸鼻を極めるものだった。


「うっ」


 ひっきりなしにうめき声が聞こえていた。咽返るような臭いが立ち込めており、壁や床には血痕がこびり付いていた。寝台の様な場所には老人達が寝かされていた。いずれも苦悶の表情を浮かべている。

 だが、それ以上に目を見開いたのは周囲に落ちている物だった。代紋のバッチや怪人化のリング等、ジャ・アークとの関係を誇示するような証拠物が無造作に転がされていた。


「何だこれ。知らねぇぞ!? いや、まて。こんなものが見つかれば」


 この惨状と自分達の関係が結び付けられてしまう。そうなれば、いよいよ皇に自分達の居場所は無くなる。何故、ハト教にこんな物があるのか?

 慌てふためく中田は、視界の端に映る物に気付いた。ドラマや映画に出て来そうな、如何にもチープな見た目をしていた。デジタル時計が、まるで制限時間を示す様にカチカチと動いていた。


「コレって。まさか……」

「嘘。どうして『破砕塵』がここに?」


 聞えた声に振り返ってみれば桜井がいた。顔を真っ青にしている所から見るに、見つけた物はろくでもない物であるらしい。


「一応聞いておくと。コレって、爆弾だよな?」

「えぇ。ジャ・アークが使っていた物で、この介護施設位なら吹っ飛ぶ位の威力は……。それよりも、ここは何なの!? ハト教って言うのは、真っ当な場所じゃなかったの!?」


 狂乱状態に陥っていた。解除を頼めるような状況でも無ければ、残り時間も少なかった。自分と桜井だけで逃げるか? いや、この施設内には何も知らない入居者や隊員。仕事に来ている者達もいる。

 異常事態にも関わらず、中田は酷く落ち着いていた。そして、脳裏に浮かんでいたのは、今は亡き恩師の姿だった。


「(もしも。親っさんなら、こんな時。自分だけが逃げる様な真似をするか?)」


 根無し草でロクデナシだった自分を拾い上げてくれた男。今の時代には、珍しく義理人情を重んじていた。

 もしも、自分がここから逃げれば、憎きエスポワール戦隊の隊員達も幾らか死ぬかもしれないし、大坊にも大事な人間を失う喪失感を思い知らせてやれるかもしれない。そんな、自分本位の曲がった考えが大嫌いな人だった。


「どうしよう。富良野が、皆が」


 パニックで思考停止に陥った桜井は、跪いて涙を流すだけだった。そんな彼女の肩を叩いた。


「桜井さん、稚内に『おふくろさん』を大事にしろよって、言っといてくれ」

「……え?」

「正直。アンタが普通の人間だってことがこんなに恨めしいと思ったことは無いぜ。アンタが冷酷非情なヒーローだったら、俺も逃げ出せたんだけれどな」

「中田君……?」


 先程の蛇が中田の腕に巻き付くと、リングへと姿を変えた。リングが起動し、怪人化が促されるが、いつもと違う力の奔流を感じた。


「俺は! 俺のスジを通させて貰うぜ!」


 全身を覆う、鱗状の灰色の皮膚が深い緑色に染まって行く。魚の様な頭が変形して、長く立派なひげを蓄え、顎には1枚だけ逆さに鱗が付いていた。

 両手で破砕塵を掴み、上空に向かって飛翔して行く。屋根を破り、天を貫き、長く伸びた体を垂らしながら、昇って行く。


「彼が。怪人……?」


 周りの光景も、中田が怪人化したことも何も分からない。何も分からないが。彼が、自分達を助けようとしてくれている事だけは分かった。彼女は急いで、階段を駆け上がり表へと出た。


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