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普通 2

「僕は、とある高校にいました。」


 芦川の口から語られた話はありふれた物だった。武田と呼ばれる少年を筆頭にしたグループは1人の少年を執拗に茶化していた。

 クラス内のヒエラルキーを上げる為か。オタクが気に入らなかったのか。理由は兎も角、自分達は『弄り』と呼ばれる接し方の一つとしか考えていなかったが、アレは間違いなくイジメだった。話をする毎に、稚内の眉間に皺が寄っていた。


「胸糞悪くなる話だ。何よりも、本人達が罪を自覚していないって言うのが、一番腹が立つ」

「だけど、ここに居るってことは。積を自覚せざるを得ない事件があった。って事だろう?」

「はい。アレは同じグループに所属していた生徒が、全身複雑骨折状態で見つかったんです。それからは生きた心地がしませんでした。僕もどんな目に遭わされるんだろうって。ひょっとしたら、家族の誰かにも手が伸びるんじゃないかと思って……」


 声が震えていた。イジメをしている人間が極悪非道で、家庭に問題を抱えている訳ではない。何処にでもいる普通の人間が、加虐行為に加担しうる。

 中田が彼の話に相槌を打つ中。稚内は引き続き、眉間に皺を寄せていた。堪らず口を開いた。


「家族のことを思えるなら。なんで、いじめられていた子を思って上げられなかったんだ?」

「だって、そんなことをしたら。僕が次のターゲットになるかもしれないじゃないですか!」

「稚内、気持ちは分かる。でもな、誰もがエスポワール戦隊員みたいに勇気と強さを持っている訳じゃないんだ」


 人間関係や雰囲気の構築において機微は必須だ。自分より偉い人間に頭を下げる、同意する。時には、自分の意に反することもしなければならない。芦川の振る舞いを責めるのも酷だとは思った。


「だからこそ、俺達が必要だって訳か」

「そう言うことなんでしょうね。恐怖に耐え切れず、教室から飛び降り所を通報されて、病院で目を覚まして」

「(うん?)」


 今まで微かに引っ掛かる物を感じていたが、飛び降りたという話を聞いて、もしや、と思った。一連の話は、芳野が通っていた高校で起きた事件とソックリだったからだ。


「もしかして、お前の通っていた高校って○○高校か?」

「あ、はい。知っているんですか?」

「知り合いが通っているからな」

「おい、待てよ。○○高校って事は、お前らがイジメていた生徒って、日野ちゃんじゃないのか?」


 先程から威圧的な態度を取られていることもあって、芦川は怯えながら頷いた。

 ここに来て3人は、いずれも『日野』と言う少年と接点があることに気付いた。中田は事務所で出会い、翌日のニュースで名前を見たきりだったが。


「知り合いなのか?」

「俺の後輩ですよ。俺よりも強くなったけれどな」

「日野君。今は、エスポワール戦隊にいるんですか?」

「そうだ。皇国内に蔓延る、悪党達を制裁している」

「制裁って事は……殺している。って事だよな?」


 もしも、彼が話していることが事実なら。少年に人殺しをさせていることになる。だが、稚内は嫌悪感を見せる様子も無かった。


「反省する気のない悪党は生きているだけで迷惑を掛ける存在だからな。悲劇や不幸を無くすためにも必要なことだ」


 あまりにも当然の様に語るので、中田達は唖然とした。彼らは制裁と言う名の殺人に忌避感を覚えていない。湧き上がる考えはあったが、口にすれば諍いになる。初日から目立つ真似は避けたい。

 思い悩むフリをして黙っていると、芦川がブルブルと震えていた。まさか、同室の住人が、イジメていた相手の友人だとは思いもしなかっただろう。


「ひょ、ひょっとして僕を……」

「いや。このハト教に改心に来ている奴には手を出さない決まりだ。逃げ出したりしない限りはな」

「あんまり脅し過ぎるとヒーローってイメージから掛け離れるぞ? そう言うお前は、どういう経緯でエスポワール戦隊に入ったんだ?」


 真面目になり過ぎないように。茶化す範囲で諫めながら、話題を切り替えた。

 これは中田としても気になる所だった。門倉の話を聞いたことはあったが、彼らがどの様な経緯で入隊して、装備などを入手しているか。世間話の体をしているが、情報収集の一環でもあった。


「話して貰った手前、悪いとは思うんだが。もう少し、アンタらの人となりを見て信頼できる相手だと思えたら、話すよ」

「そうか。ま、無理には聞かねぇよ」


 ガードは固かった。如何に少年の様に見えても、隊員としての教育を受けているのか、軽々に外部に情報を漏らさない様に線引きはしているのだろう。

 今は、まだ初日。焦って聞き出す必要もない。もしも、内部を探るというのなら不安げにしている芦川と言う少年からアプローチを掛けて行くのが早いと考えた。


「仲良くやって行くにしても。皆、どうやって暇を持て余しているんだ?」

「この宿舎内の一角に図書館みたいなコーナーがあるんです。そこでは、本が借りれたりするので」

「どんな本が置いてあるんだ?」

「大体は小説ですね。漫画とかも置いてありますが」

「運動の為にボールとかの貸し出しもあるぞ。ただ、スポーツは喧嘩とかの元にもなりやすいから、隊員の監視ありきだが」

「生まれて、この方。小説なんて教科書でしか見たことねぇぞ」

「ここに来たことを切っ掛けに小説を読み始めた人も多いですよ。僕もそうですしね」


 中田が読む物と言えば、漫画位だった。ゴシップ誌すら読まないので、文字の羅列を思い浮かべただけで気が滅入りそうになった。


「テレビとかは見れないのか?」

「見れる訳ないだろ」

「後は、他の作業所の見学とか手伝いに行ったりも出来ますよ」

「体を休められるときは何もしたくねぇな」


 目的であるピンクの拉致・誘拐よりも。ここに馴染む事の方がよっぽど難しいのではないかと思った。


~~


「やぁ。ピンク、久しぶりだな」

「リーダー……?」

「HEY! YOUがピンクさんですか! お会いできて光栄です」


 中田が宿舎に案内されていた頃。介護を担う施設内で、桜井は大坊達と会合していた。隣にいた富良野は、初めて彼の素顔を見た。

何処にでもいるくたびれたオジサン。スーツにも着られている印象が強い。隣にいる金髪の男性がスーツを着こなしていることもあって、対比すると余計に目立った。


「えっと。リーダー? こちらの方は?」

「紹介しないとな。こちらにいる方はリチャードさん。ユーステッドから、俺達を支援して下さっているパトロンだ」

「よろしくお願いします」

「あ。どうも、こちらこそ」


 会釈から挨拶まで皇の作法に則った物であり、動作も流麗だった。住む世界の違う住人を前に、桜井が慌てているのを見て大坊が笑った。


「ハハッ。そんなに畏まらなくて大丈夫だよ」

「私が、こういう現場苦手なこと。知っているでしょ?」

「うん。知っているから、久々にやったら、どんな反応をするか見たくてさ」


 プリプリと怒る桜井は微笑ましく見えるはずなのに、富良野の心中に沸いたのは明るさからは程遠い物だった。


「(……今まで、先輩の事を見て来たの。私なのに)」

「で、リーダー。どうして今日はここに?」

「今日は、リチャードさんに案内して欲しいって頼まれてな。ついでに、桜井の様子を見たくてな。何か困っている事とかは無いか?」

「いいえ。皆、良くしてくれるし。問題はないわ」


 何時かの、介護施設内では武器を構えて対峙していたが、今はそんな雰囲気も無く談笑に興じていた。会話に入れない桜井は淡々と仕事する外ないが、これまた大坊の隣にいた小柄な少女がジィっとこちらを見ているのに気付いた。

 強化外骨格(スーツ)のマスク部分だけが解除されており、富良野の方に歩み寄る。瞬間、カムフラージュされていたカメラアイが彼女を捉えた。


「……心拍数が上がっている。アドレナリンも分泌されている。怒っている?」

「別に?」


 怒っているつもりは無かった。例えば、桜井が昔を懐かしむようなエピソードを持ち出して来て談笑していたり、自分の知らない会話を交わしている所を見ても怒ったりはしていない。

 本人にそんなつもりは無くても体は正直な物で、ストレスに対しての反応までは隠せずにいた。


「リーダー。本題」

「おっと、そうだったな。リチャードさん」

「はい。コレを貴方に渡すのも目的でした」


 リチャードは桃色の光を放つクリスタルを彼女に渡した。彼女の手に渡ると、より一層強い輝きを放った後、体内へと吸い込まれて行った。


「え。なにこれ?」

「ガジェットを強化するためのクリスタルです」

「強化? なんで、そんな物を先輩に渡すんですか?」


 不穏な言葉に反応せずにはいられなかった。ヒーローは辞めたと言うのに、どうして武器を強化する必要があるのか。


「通話で聞いた件があった以上、今後何が起きるか分からないからな。備えは必要だろう?」

「備えが必要って。そもそも、貴方が世直しみたいなことを始めなければ、こんな事にもならなかったと思いますよ?」

「ちょっと。美樹?」


 大坊との間に剣呑な雰囲気が漂った。過去にも啖呵を切ったことがあるが、あの時と違い、大坊の対応は落ち着いた物だった。


「だが、始めた以上は止まれない。無関係ではいられない」

「先輩はもうヒーローじゃないんです。仕事を斡旋してくれたことは感謝しますけれど、これ以上は危険な事に巻き込まないで下さい」


 暫く、沈黙が場を支配していた。桜井も何を言えば良いか分からず戸惑っている。大坊は薄く笑った。


「桜井。良い理解者を持てたんだな。大丈夫、お前達の事は俺が守る。心配はしなくてもいい。それじゃあな」

「あ。リーダー……」


 肩を落としながら去って行き、少女もそれに続いた。残されたリチャードは困った様な顔をしていた。


「申し訳ありません。私が余計なことをしたばかりに」

「あ、いえ、そんな」


 2人に向かって頭を下げた。言ってしまった後に、富良野の胸中には罪悪感が湧いた。彼らの久々の再会や気遣いに水を差してしまったと。

 リチャードも去った後。二人は仕事に戻ったが、業務的な話以外はせずに淡々と業務を遂行していた。


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