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普通 1

 潜入任務を受けた中田は、ハト教に連絡を入れて入信の手筈を整えていた。身体チェックなどもある為、無線やリング等を持ち込めないことへの対処については、何とかするとだけ言われた。


「(本当に何とかなるのか?)」


 インターネットで調べた住所を目指す。人通りは殆ど無いが、目を凝らせば周囲に監視カメラなどが設置されているのが見えた。


「(多分、逃走防止用だろうな)」


 罪を償いに来たのは良いが生活に耐え切れず脱走する。だが、設置されている監視カメラによって補足されて、捕縛される。その後は想像に容易い。

 覚悟が必要だと思った。文明の恩恵はあまり受けていないとは思っていたが、スマホが無ければ暇つぶしも出来ないし、パソコンが無ければ道筋も分からない。エアコンとかも無いなら、夏はどうするのだろう? と考えている間に、目的地が見えて来た。表では数人の信者が待ち構えていた。


「お待ちしておりました、中田様。早速ですが、電話でもお話しした通り。荷物チェックの方をさせて頂きます」


 スーツのポケットからスマホや腕時計を取り出したが、念の為に。と、ボディチェックや金属探知機などでも調べられた。


「えらく厳重なんですね」

「はい。自分なら見つからないと思っている人間が予想以上に多くてですね。私達も辟易しているのですよ。中田様は問題ありませんね」


 もしも、見つかったらどうなるんだろうかと思ったが、尋ねることはしなかった。

 荷物チェックで問題が見つからなかったので、年配の信者にハト教の施設内を案内された。廊下を進んで行き、奥の間に通されると。ズラリと並んだエスポワール戦隊員が一斉に中田の方を見た。内心、冷や汗が流れたが、部屋の中央に鎮座していた男はカラカラと笑っていた。

 不思議な雰囲気を纏った青年だった。蒼髪碧眼の出で立ちは浮世離れした印象を受ける。口を閉じれば厳かであるが、喋る声色は不思議と安心感や親しみを覚えさせるものだった。


「お兄さん、ビックリした? 俺。播磨って言うんだ。よろしくね!」

「メッチャビックリしました。ひょっとして、やっぱり許されない。とか言われるんじゃないかと思って」

「大丈夫だよ。そう言う人は、そもそも受け入れないから」


 軽く言ったが、底冷えするような冷たさを孕んでいた。見台に置いてある書物を捲り、中田の経歴を読み上げて行く様子は閻魔を彷彿とさせた。


「中田君ね。幼少期は片親で、親父からはよく暴力を受けていた。自分も同じ様に暴力を振るって年少にも入ったことがあるみたいだね。職にも就かず、ブラブラしていた所を染井組に拾われた。って所かな?」


 背筋に悪寒が走った。自分がヤクザ者であることは話したが、経歴については一切喋った覚えがない。もしや、ジャ・アークの一員として潜入しているのがバレているのではないかと思い、冷や汗が流れた。


「え。えぇ。そんな所です」

「先日のエスポワール戦隊の活躍で染井組長が逝去しちゃったから、抜けたって感じかな? 結構多いから、気にすることは無いよ」


 挑発しているのか。揺さぶっているのか。動揺しない方が不自然なので、表情を伏せた。なおも、淡々と読み上げて行く。


「罪状は傷害と恐喝だね。うん、殺人をしていないのは救いようがあるね。色々と鑑みて、15年位かな」

「じゅ、15年ですか」


 裁判の量刑については中田としても測りかねる所であったが、15年は長いと感じた。それだけの年数を過ぎれば、外に出る気も失せる様な気がした。


「今は不便だけれどさ、その内便利になるかもしれないし。ハト教の生活に馴染んでいこうよ! 住めば都って言葉もあるし!」

「えっと。トップとして、その言い方は大丈夫なんですか?」

「罪を償う為に余生を使え。って言われたら、気が滅入るでしょ?」


 とてもではないが、更生を促す発言とは思えなかった。調べた経歴と相違ないことを確認すると、播磨は中田を退室させた。

 行と同じく年配の信者に案内されながら、ハト教の敷地内の様子を眺めていた。隊員達に監視されながら、信者と思しき服を着た者達が田畑を耕したり、肉体労働に勤しんでいる。だが、強制されている様な悲壮さは無かった。


「ここは農作業の労働が主なんですか?」

「いいえ。その人に合った職業が宛がわれます。例えば、教養のある方はハト教内の年少組に授業をしたりしますし。建築関係の仕事が出来る者は、そちらの仕事を振り分けます」


 中田は渋い顔をした。頭も良くなければ、工事現場などで働いたことも無い。彼の表情で察したのか、年配の信者は少しだけ笑った。


「大丈夫ですよ。出来る仕事を振り分けますし、本人達の希望があれば職業訓練も行っています」

「凄いですね」

「刑務所とも提携していますのでね。刑期が追えたからと言って、外に放り出されたとして。生きて行く術が無ければ、結局悪事に手を冷めるだけです。私達も顔見知りを手に掛けることは心苦しいので」


 フロント企業の様に体裁だけと言う訳ではなく、本格的に取り組んでいる様に思えたが、全容は分かっていないので油断は禁物だった。


「ちなみに、俺だと何処に配属されそうだと思います?」

「そうですね。先程の播磨様の話を聞くに、農作業になると思いますね」

「あ。そうっすか……」

「バカにしてはいけませんよ。ここで作られた食料は、敷地内の皆さんが召し上がる物になり、余剰は外部に出荷されたりするのですから、立派な仕事です」


 馬鹿にしている訳ではなく、自分が何も出来そうにない奴にカテゴライズされていた事にガッカリしていただけだったが、力説されたので曖昧に頷いた。

 傍目に畑が見える箇所を超えて進むと、かなりの大きさの建物に案内された。中に入ると相当数の扉があり、信者達が闊歩していた。


「うぉ。すげぇ」

「ここが、中田様が泊る部屋となります。御覧の通り、入信者は日々増えている為、相部屋となりますが」


 ギョッとした。部屋内に居たのは、中田の様な者だけではなかった。エスポワール戦隊員も一緒に居たからだ。フェイス部分だけ解除すると、幼さの残る顔立ちが現れた。


「新入りですか?」

「はい、中田様です。経歴については、こちらに」


 数枚の書類を渡すと、ざっと目を通すと同時に眉を顰めた。不機嫌に歪んだ表情を隠そうともせず、慇懃無礼に挨拶をした。


「稚内です。注意されているとは思いますが、隊員である俺もいるんで、変な気は起こさない下さいよ」

「勿論だって」

「これからも仲良くしてやってください。私の案内はここまでになります。引き続き、ハト教の暮らしについては、芦川君に説明して貰いましょう」

「よろしくお願いします!」

「おぅ! よろしくな!」


 信者服を着ているという事は、彼もまた何かしらの罪を犯したのだろう。年配の信者が退室した後、引き継ぐようにして芦川は説明を始めた。


「今日は、もう休んでくださって結構です。明日の7時には朝食がありますので、それまでには起きて下さい。何か疾病とか、アレルギーとかは? 宗派的に食べれない物は?」

「特にねぇな」

「なら、問題ありませんね。良ければ、宿舎内の案内でも」

「いや、その前に知りたいことがあるんだ。お前達の事」


 これから、一緒の部屋に寝泊まりする相手と関係は良好にしていきたい。頭脳派の黒田と比べて、中田は雰囲気や人間関係を構築することに優れていた。


「僕達の事ですか?」

「アンタのことは、この書類に書かれている通りだろう?」

「文字だけじゃ、説明できねぇこともあるだろう? よっし、言い出しっぺの法則だ。まず、俺から話してやるか!」


 パンと膝を叩いた中田は身の上話を始めた。最初の内は二人共、興味が無さそうに聞いていたが、やがて彼の話術に引き込まれて行った。


「いっぺんよ。気になって、何で親父がそんなに俺に暴力を振るう様になったかって調べてみたんだよ」

「その理由は?」

「親父も虐待を受けていた過去があったらしくてな。虐待を受けて育った人間は、同じ様に子供を虐待するらしいんだ。それで、おふくろも愛想をつかして出て行ったんだろうな」

「ひっでぇ親もいたもんだ。て言うことは、その親父さんは制裁されて?」

「いや。アルコールで臓器やられて死んじまった」


 中田は一方的に話すだけではなく、相手に考えさせるような『発問』と呼ばれる手法をよく使っていた。答えは時に順当であり、時に驚く様な物であったりと。話の先を気にさせる物だった。

 一通り話を聞いた芦川と稚内は疑問を浮かべていた。彼の場合、真っ当に生きて行くだけの学歴も社会的な立ち位置も無かったことを知った。ならば、彼を追い込んだ環境は責められるべきではないのだろうかと。


「話を聞いていると。中田さんだけに非がある訳じゃない様に思うんですけど」

「だけど、俺に非が無い訳じゃない。だから、ここの門戸を叩いたのさ」

「なるほど。そう言う経緯があるんだな」


 中田が話した事は殆ど真実だった。違うことがあるとすれば、彼は今も染井組の組員であるという事だけだが。


「その。染井組長って人はどんな方だったんですか?」

「……親っさんか。厳しくも優しい、筋の通った人だったよ」


 彼を殺した奴の仲間が目の前にいる。と、思うと湧き上がる感情が無い訳ではなかった。稚内もまたエスポワール戦隊の正しさを振りかざすだけでなく、何かを考えるようだった。


「悪ぃ。稚内の事を責めるとか、そう言うつもりは無かったんだ。次、芦川の話を聞いても良いか?」

「え。あ、はい」


 稚内が口籠っていたのを見て、中田は芦川へと話をする様に促した。何時の間にか全員の表情は談笑に合わせる様にして、穏やかな物になっていた。


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