幕間 4
葬儀場での決戦後。幾人もの怪人を仕留めた日野は、異例の出世を遂げていた。賞賛や尊敬を集めはしたが、同じ位の妬みや嫉みも集めていた。
本人が持つ厭世的な雰囲気も相まって1人で行動することも多く、全員が食事を取っている間も訓練に励んでいた。
「日野ちゃん。そろそろ飯にしようぜ」
「稚内さん。訓練所に飲食物の持ち込みは禁止ですよ」
「大丈夫だ。シアンさんから許可も貰っている」
日野を戦隊へと誘ったメンターであったが、最近は敵対者達の活動が活発になって来ていることもあって、日野の事を見る時間が減っていた。彼の代理をする様に、稚内は色々と気にかけていた。
持ち込まれたサンドイッチを見て、腹の音が鳴った。一度、気になってしまえば満たす他なく。一旦手を止めて、腰を下ろした。
「……キュウリ嫌いなんだけど」
「好き嫌いせずに食えよ。ウチで取れた野菜なんだからな!」
「家庭菜園の趣味でも?」
「そう言う訳じゃねぇ。ハト教で取れた野菜が、ウチの食堂でも使われてんだ」
ハト教と言う場所については、聞いたことがあった。以前は悪辣な宗教団体であったが、リーダーの手によって更生を果たして、真っ当な団体になったと。
かつて、大坊と七海が過ごした事もあり、エスポワール戦隊と協力関係にあるらしく、刑務所や介護しての機能も果たしているらしい。
「被害に遭った方はやり直すことも出来ないのに」
「勿論、誰かを殺めたりした人間は受け入れない場所だ。施設内には、隊員の人達も居るらしいから、内部で悪だくみとかも出来ないらしいぜ」
被害者の関係者が留飲を下げることが出来る位には体裁が整っている場所であるらしい。キュウリを取り除こうとしたが、我慢して食べた。市販されている物と変わりない様に思えた。
「でも、変な話ですよね。ウチは悪党に対しては容赦ないのが基本なのに、どうしてそんな施設があるんですか?」
「ウチは自首した人間、あるいは罪を償った人間を裁いてはいけないという規律があるだろう? 出所した後も犯罪を繰り返す屑は例外だが」
エスポワール戦隊は独自の調査網を使って、ターゲットの経歴や罪状を調べた上で制裁を行う。殺傷を伴う厳罰が基本であるが、罪を償う為に行動を起こしている者に対しては、その限りではなかった。
「警告も無しなんですね」
「言われなきゃ罪を償おうとしないんじゃ、意味がない。おかげで、この皇内の刑務所はパンク寸前だ」
また、この罪と言うのも遡及性があり、過去には慣習で流されていた事を問われて、制裁された者も少なくはない。
「それで、ハト教が協力を?」
「そう言うことだな。皇全国でそう言う場所を作っているらしい」
制裁と言う名目で脅して、自分達が管理する場所に集めて作業に従事させる。
やっていることに対して疑問は浮かんだが、悪人は裁かれるべきだという怒りが根底にある日野としては、疑う必要もないと考えていた。
「そんなに自首してくる奴が多いんですか?」
「加えて。今の生活は手放したくないけれど、制裁されない様に罪を償いたいって思う奴らの仕事場でもあるらしいぜ」
「都合の良い考えをする奴もいるんですね」
ただ、罪を自覚させることには賛成だった。世には誰かを追い詰めたり、危害を加えても反省もない者達も多いのだから。
「でも、大きな進歩だろ? 以前までは、何食わぬ顔をしている奴らも多かったからな。これもエスポワール戦隊の活躍の賜物だな」
「少しずつだけれど、確実に歩を進めているのは事実。か」
「目標は誰もが善人になることだ。皆の心にエスポワール戦隊が居続ければ、悪事をしようなんて考える奴は居なくなるはずだ」
もしも、誰かに危害を加えたり、犯罪を起こしたりすれば、エスポワール戦隊によって裁かれる。そう言った常識が浸透をすれば、皇で起きる悲劇は減るに違いないと思った。
「そんな世界が来れば良いですね」
「俺達で作るんだよ! 俺は、明日からハト教の警備に行くからよ。日野ちゃん、ちゃんと飯食うんだぞ?」
ガシガシと乱暴に頭を撫でられた。子供扱いされている様で思うことがない訳でも無かったが、この無遠慮が嬉しかったの、黙って撫でられ続けていた。
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「ふぅ」
「お疲れ様です。富良野さん! 桜井さん!」
大坊に口利きをして貰った、ハト教での働き口は桜井達の技能にも合った物だった。表では牧歌的な光景が広がっていたが、敷地内の奥まった場所には介護用の施設が建てられていた。
老人から障がい者まで幅広く面倒を見ており、彼女達と同じ様に外部から働きに来ている者達も居た。よって、人手も豊富であり休憩も十分に取れた。何よりも外部と明確に差別化されている部分がある。
「はい。本日もありがとうございました。使用したサポーター用の変身ベルトの回収を行います」
量産型強化外骨格の使用である。これによって、介護従事者を悩ませる大きな問題の一つ。身体的負担を大幅に減らすことが出来ていた。
「いやぁ。コレ、外にも流通して欲しいですよ!」
「難しいと思うわよ。だって、軍事利用も出来る物だし」
世間の戦闘を連想させる物への忌避感は強く、彼女が中々に社会復帰が出来なかった原因でもあるが、エスポワール戦隊の膝元であれば問題はない。
「現場の人間としては、ぜひとも欲しい物なんですけれどね。おじいちゃんをお風呂に入れるときも楽だったし」
「いずれは、私達の変身ベルトがそんな風に使われる未来が来ると良いわね」
少しだけ。理想的な未来を思い描くことが出来て、桜井の顔には微笑みが浮かんでいた。働き始めてから、顔立ちも元に戻り始めたこともあってドキッとした。
なんと反応を返そうかと考えていると拍手の音が聞こえた。振り向い見てれば、播磨と橘が居た。桜井達は頭を下げた。
「これは、播磨さん。どうも」
「そんなに畏まらなくても良いよ。桜井さんの意見には俺も賛成だな。戦いの為じゃなくて、皆の生活の為に使われる未来。素敵じゃないか」
「ですよね。こんな形でヒーローが認められたら、素敵だと思いますね」
「そうですね」
橘は控えめに頷きつつも、不可能だと思っていた。戦隊が掛けて来た者達の数は多く、皇国内には反感を持つ者は少なくない。平和を代表するには、あまりに血生臭い存在だと考えていた。
「仕事は出来るだけ楽になる様に務めるけれど、お給料の方は低くなっちゃうのだけはごめんね?」
「とんでもない。ちゃんと社会保障も付いているし、文句はありませんよ」
給料は相場よりも一回り低かったが、仕事のストレスが少ないのが大きかった。人間関係、身体面。どうしても対象者故の心労はあったが、表の労働と比べてはかなりマシだった。
「ホッとしたよ~。ピンクさんに直談判されちゃ、リーダーに怒られちゃうからね」
「もう。する訳ないじゃないですか~」
冗談交じりの談笑。桜井達の会話を傍目に、富良野の胸中には言葉に出来ない思いに満たされていた。
一緒に仕事をして、誰かに感謝されて、職場の人間と談笑を交わす。人々にとっての『普通』を全うしていることが、どれほど尊いことか。
「(エスポワール戦隊の人達は正しくないこともするけれど)」
全てが黒だけか、白だけかという存在がある訳が無い。皇内で人々を騒がせている存在であることは間違いないが、今。桜井と自分に居場所を与えてくれているのは、エスポワール戦隊だった。
「じゃあ、明日もちゃんと来てね~」
「はい! 勿論です!」
大坊の知り合いという事で多分に配慮されていることは間違いないが、おかげで快適に働くことが出来ていた。
表で畑作業や建築作業をしている人々を眺めながら、ゆったりと帰路に付く。贅沢が出来るほどの給料は貰えていないが貯金はある。
「今日は、何処かで外食をして行かない? ファミレスとかでも良いから」
「私のご飯に飽きちゃいました?」
「え。いや、そう言う訳じゃなくて」
「冗談ですよ。偶には外食も良いですよね。何処が良いですか?」
「ハンバーグがあるレストランで!」
外食なんて贅沢が出来るほどの余力と貯金が出来る日が来るとも思っていなかった。ハト教を出て、最寄り駅付近のチェーンレストランに寄って、ちょっとだけ贅沢な晩餐を楽しんだ。




