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幕間 1

 葬儀場で反社会的団体とエスポワール戦隊の激闘が繰り広げられてから数日後。ネットでは、激闘の様子を記録した映像が大量に投稿されていた

 特撮めいたコスチュームをした者達により繰り広げられていたのは、勧善懲悪劇としては描写されない悲鳴や絶叫、命乞い、殺害の瞬間が記録されたスナッフフィルムだった。動画サイトも削除対応に追われているが、鼬ごっこだった。


「内閣では、SNS等の使用制限に関する草案が提出され……」

「面白くないわね~」


 ニュースに取り上げられるのは連日エスポワール戦隊の話題ばかりだった。最初はリーダー達の凶行に心を痛めていた桜井だったが、慣れてしまった。

 加入しているサブスクへと切り替えて、視聴していたドラマの続きを見る。手元にはスナック菓子やらアイスクリーム。現役時代には、身体づくりの関係から口に出来なかったジャンクフードに舌鼓を打っていた。


「これは、ヤバいですね」


 フェルナンドからリークされたことにより、富良野は自主退職と言う形で職場を追われていた。臨時収入もあったので、暫くは働かなくても大丈夫だと考えていた。何よりも敬愛する先輩と一緒に居られることは嬉しい。と思っていた。

 だが、家事を富良野がやり始める様になってから弊害が出て来た。桜井の食っちゃ寝生活が目立つようになって来たのだ。家事や遣い等をさせることで動かしていたが……。


「なんかあったの?」


 振り向いた顔の肉付きはふっくらとしていた。ムチムチプリン。豊満と言うにはだらしない。金があるだけで生活が出来る訳ではないという事をしみじみと実感していた。


「先輩。体重、計って貰えますか?」

「え……」


 ゴトン。体重計を目の前に置いた。スイッチを入れ、計測を開始する。数字は無慈悲に増加するばかりだった。二人共、渋い顔をした。


「私も悪いとは思っています。だって、先輩。アイスクリームを食べると凄く嬉しそうな顔をしますし、現役時代には体重管理の関係上食べることが出来なかった話も聞いて、今は沢山食べても良いんですよって言ったこともあります」

「駄目?」

「その結果がコレです」


 富良野は体重計に刻まれている数字を指さした。現役時代と比べて激増していた。ついでに、桜井の脇腹を掴んだ。


「ひゃん!」

「手で掴めちゃうんです。流石にコレは駄目だと思います。肥満は万病の元です」


 桜井は扶養では無い為、保険に加入していない。もしも病気になった時などは多額の医療費を請求される為、普段の健康は大事だった。


「そこはほら。パートナー制度とかで配偶者になって……」

「健康第一であることには変わりありません」


 金の為だけに働くのではない。と言うのは、ブラック企業の謳い文句だと思っていたが、健康面や身体的な理由も大きいと思った。最も、彼女が勤めていた介護業界はどの面でも負担が大きいが。


「もしかして、私も働けってこと!?」

「いや、それはちょっと待って下さい。ほら、先日の出来事もあったでしょう?」


 息を飲んだ。元・エスポワール戦隊員。皇国内を騒がしている存在の一味として、会社も受け入れ難いだろう。仮に受け入れたとしても、相当な恨みを買っている団体でもあり、危険に巻き込む可能性は高い。

 この家宅や富良野が襲撃されていないのは、未だに泳がされている可能性もあるのだろうが、他者を巻き添えにするのは避けたかった。


「そう。私、やっぱりまだ戻れないんだ」

「先輩が悪い訳じゃありませんよ」


 同時に、富良野の就職先も制限される事でもあった。このまま素性を隠して勤めても良い事は起きない。暫く考えた後、あ。と桜井が声を上げた。


「ならさ、毒を食らわば皿までよ」

「どういうことですか?」


 桜井がスマホを操作して画面を見せた。表示されている名前を見た時、富良野は眉間に皺を寄せた。


「その人って」

「所属していることバレて、勤め先を追われる位なら。こちらから入って行けばいいのよ」


 連絡先には『大坊乱太郎』と言う名前が表示されていた。今も昔もエスポワール戦隊のリーダーであり、ピンクの唯一の同期であった。


~~


「おぉ。ピンクか。久しぶりだな」


 葬儀場で反社会的団体を壊滅させたときも冷淡だった大坊だが、ピンクからの通話を受けった時の声は弾んでいた。誰の目から見ても分かる程の上機嫌ぶりに、側近の七海も驚いていた。


「リーダー。嬉しそう」

「久々だからな。どうした?」

「実は、貴方に言わないといけないことがあるの」

「話してくれ」


 桜井は包み隠さず、先日の出来事を伝えた。自分達は脅されて、剣狼を保護して届けたこと。対価に多額の報酬を受け取った事。話を遮ることなく、最後まで聞き届けた大坊は優しい声色で返事をした。


「よくぞ話してくれた。悪かったな。俺達のせいで」

「ううん。リーダーの是非は問わない。何もしていない私が何かを言えた義理は無いから」

「嬉しいよ、ピンク。お前だけは否定しないでくれるんだな」


 大坊の脳裏に過ったのはシュー・アクと対峙した時の皆の反応だった。司令官も仲間も常識に従って、自分を否定するばかりだった。

 加えて、ゴク・アクの様に同意する様に見せかけて騙すような真似もせず。不可抗力だったが、悪事に加担したことを打ち明けてくれたことも嬉しかった。


「うん。正しさを掲げるだけの人よりも、間違っていても助けてくれようとする人の大切さは、私にも分かるから」

「……なぁ。やっぱり、戻って来てくれないか?」

「それは出来ない。今の私は、皆を守れるほどの力は無いから。でも、ちょっとお願いがあるの?」

「お願い?」

「えぇ。その、私達に仕事を紹介して欲しいんだけれど。出来れば、戦闘とかじゃなくて。関連企業的な」

「ちょっと待ってくれ。担当の奴に聞いてみる」


 大坊は一旦電話を保留にして、内線で経理や後方担当の者達に連絡を取った。いずれの仕事も相応の知識や手腕が必要な物であり、ピンク達に務まるとは思えなかった。

 関連企業が無いことも無いが、表立って隊員を派遣するのは具合が悪い。と思っていると、七海が声を上げた。


「ハト教に連絡を入れたら?」

「そうか。その手があったな。ありがとうな、七海」


 かつて、自分達が平穏を過ごした場所。今となっては、エスポワール戦隊とも無関係ではなくなった場所に連絡を入れて、取り決めをした。数分で話がまとまり、保留にしていた電話を手に取った。


「待たせたな。確か、ピンクと恋人さんは介護職員の経験があるんだよな?」

「恋人ですって! 先輩!!」

「私の方はちょっと忘れているけれどね。介護の仕事なの?」

「近いな。俺達はハト教と言う場所と提携していてな。そこでは、色々な人間が住んでいるんだ」


 説明によれば。拘置所や刑務所が埋まっていて入れない犯罪者や、いじめ等の罪を自覚した者達の更生を促す場所。他には、隊員の関係者や施設に入れなかった者達を介護する福祉施設的な面も兼ね備えているそうだ。


「そんな施設を作っていたの」

「俺は悪を許さない。だが、自らの悪を自覚して償おうと動く者には機会が与えられるべきだとも思っている。二人が手伝ってくれると嬉しいよ」


 日程や面接の際に持って来て欲しい物等を説明し、雑談でも交えようと考えていたが、観測していたモニタにアラートが浮かび上がったのを見て、大坊は会話を切り上げた。


「じゃあ、待っているぞ」

「あ、待って。その、色々と世話を焼いてくれてありがとうね」

「俺も久々に会話できて嬉しかったよ」


 通話を切り、座席から立ち上がる。何時に無く力に満ち溢れている様子を見て、七海はポツリと零した。


「……リーダーは、やっぱり。ピンクさんに居て欲しいの?」

「彼女が望まないなら、引き込まないさ」


 滅多に見せる事のない優しい声色やはにかんだ笑顔が、自分以外にも向けられていると思うと。ほんの少しばかり、妬けた。


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