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帰還 11



 剣狼と別れて、一足先に事務所へと戻った豊島は黒田達に報告をしていた。葬儀に出席していた者達はほぼ全員殺されたこと。親父である染井組長によって、自分達が逃がされたこと。


「嘘だろ!? 親っさんがハジかれたなんて!」

「中田! 豊島の兄貴をソファに寝かせろ!」


 傷口こそ塞がってはいたが、大量に出血したこともあって土気色に近い肌色になっていた。病院に駆け込もうにも、保険証訳を持っている訳も無い。

 このまま回復するか否かも分からない中、乱暴に扉が開かれた。白銀のシャレコウベの眼科は青白く輝いており、首から下はコートに覆われていた。後ろには付き人の様に、以前にも事務所に来た拳熊と名乗る大柄な男が居た。


「誰に断って上がってんだ!」

「ソイツを死なせたくないんだろう? お前らの中に医者は居るのか?」

「いや、いない。後ろに連れている奴を見るに、アンタは俺達にリングを渡した奴だな?」

「理解が早くて助かる」


 事務所に上がり込んだフェルナンドは、豊島に次々と薬剤を注射していく。その度に体が跳ね、暴れまわろうとした所を拳熊が押さえつけていた。

 あまりの剣幕と自分達に出来る事と言えば、声が外に漏れないようにそっと扉を閉める位だった。辛うじて口を開くことの出来た黒田が尋ねた。


「助かりそうか?」

「怪人の生命力を嘗めちゃいけねぇ。適切な処置も施した。意識が戻った時には、より強くなって復活するさ」

「どういうことだ?」

「原理は分からないが、ヒーローや怪人達は死に瀕して蘇った時に一段と強くなるらしい。偵察から話を聞いていたが、あんな地獄みたいな場所で生きて帰れただけでも幸運だ」

「そうだ。ケンの奴は!?」

「アイツは、その男を逃す為に途中で分かれたんだ。顔も割れているからな」

「そんな……」


 中田は絞り出す様に声を出した。染井組長に続き、舎弟として可愛がっていた剣狼にまで死なれたらと思うと心臓が締め付けられるような思いがした。表情から察したのか、フェルナンドは彼の肩を叩いた。


「安心しろ。回収の手筈は整えている。無事に帰って来るさ。それと、相談があるんだが」

「相談?」

「不幸にも、この組は長を失ってしまった。このままでは路頭に迷うだろう?」


 全員。頷きはしなかった物の指摘通りではあった。今までは、染井組長から渡される小遣いで生活をしていたが、それらが途絶えてしまえば収入減が無くなる。社会にも帰れない彼らにはどうしようもない。


「まさか、お前らの下にでも入れってのか?」

「仇。討ちてぇだろ? お前らだけで何とか出来るのか?」


 その通りだった。個人では生きて行くのもやっとな彼らが、提案を飲まない理由がない。反対する者は誰もいなかった。


「よし。じゃあ、今日付でテメェらは俺の傘下に入った。給料は振り込んでやるから、今までの生活をしといてくれ。窓口は豊島って奴に任せることにして、それまでは黒田。お前が代理だ」

「俺で良いのか?」

「この中じゃ一番話が分かるからな。念の為に拳熊も置いて行く」


 大柄な男を事務所に残して、フェルナンドは早々に去って行った。豊島も静かに呼吸をしている。事態が落ち着いた所で、一同の胸に重く現実が伸し掛かった。中には涙をこぼす者も居た。


「親父ぃ……」

「ケン。せめて、お前だけは帰って来てくれよ」


 不安に押し潰されそうだったが、中田は祈っていた。せめて、1人でも多く生きて帰って来て欲しいと。フェルナンドの提案を飲み込んだことについて考えられる者は1人もいなかった。


~~


「アッヒャッヒャ! うひぃ。ウヒヒヒ!」


 染井組の事務所が悲嘆に暮れている中。傷ついた剣狼を迎えに来た槍蜂は爆笑していた。首に鞭を巻き付けられ、四つん這いになった背中にヒーローを乗せているんだから、笑いもする。


「何がそんなにおかしい」

「ヒィーヒッヒッヒ。真顔って所が受けるんだよ。ピンクと久々に再会したと思ったら、良い趣味してんなぁ」

「好き好んでやっているんじゃないのよ!?」

「わーっている。分かっている。緊急事態だからだろ? ほら。約束の品だ」


 手にしたトランクケースには紙幣が敷き詰められていた。富良野の仕事先の何年分の給料になるかも分からない額であったが、桜井は直ぐにスキャンをして番号を確認した。


「通し番号でも偽造でもないのね」

「正規のモンだよ。色々と手広くやっているからな」


 ピンクウィップが解かれた剣狼は車に乗り込もうとする際、ピンクの方を振り向き尋ねた。


「お前は、エスポワール戦隊をどう思っているんだ?」

「どう。って」


 自然に視線を逸らした。今の彼らが暴走していることは明白だったし、関わりたくもないが、自分が青春時代を過ごした場所であることを思い出すと。キュッと胸が痛んだ。


「私にはレッドを止める勇気も力もない。今の生活を守るのが精一杯なの」

「そうか」

「剣狼。責めるなよ。お前をここまで連れて来てくれただけでもありがたいんだからな。それじゃあ、俺達が言えた義理でもないけれど。息災でな」


 剣狼と共に車に乗り込んで、去って行った。少なくはない報酬を受け取ったが、これからの生活はどうするべきか。暫く佇んでいると、富良野に裾を引かれた。


「晩御飯の材料。買いに行きましょう? 今日はアイスも買って大丈夫ですよ」

「そうね」


 本格的に将来を考えるには、まだまだ時間はある。踵を返して、スーパーへと向かう二人を陰ながら観察している者は無線を入れていた。


~~


「こちら、シャモア。ピンクが負傷していた剣狼を何者かに引き渡していました。彼はエスポワール戦隊の隊員ではありませんでした。映像もお送りします」


 葬儀場を抜け出し、剣狼の捜索に当たっていたシャモアはピンク達を尾行していた。道中の映像をリーダーへと送った所、無線越しに彼の笑い声が聞こえて来た。


「ハハハ。ピンクの奴、元気そうじゃないか。良かった」

「何を言っているんですか!? 奴は怪人の逃走の手引きをしたんですよ!? これは制裁に値する物です!」

「シャモア。俺が良いと言ったんだ。この件はそれで終わりだ。お前も怪我は軽くないんだ。今日はもう休め」


 短く告げられ、電話を切られた。スマホを握る手に力が籠る。もしも、自分や他の構成員がこの様なことをすれば、決して許されはしないだろう。


「戦いから逃げ出した臆病者の分際で……!!」


 初期エスポワール戦隊の生き残りとして、大坊が桜井を贔屓にしているのは明らかだった。しかし、リーダーの命に背く訳にも行かず。シャモアは暫く薙刀型のガジェットを振り回して、昂った気を鎮めていた。


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