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帰還 10

 大坊達が勝利の余韻に浸っている間。剣狼達を逃したという報告は隊員達に伝達されており、街中には物々しい雰囲気が漂っていた。

 市民も警察に連絡を入れたが、期待できない返事をされた。彼らとしてもエスポワール戦隊には関わりたくないのだろう。


「皆さん! この付近にヤクザと怪人が潜伏しています! ですが、ご安心ください! 我々、エスポワール戦隊が皆さんをお守りします!」


 隊員の言葉に住民達は苦笑いで返すしかなかった。皆の本音としては、彼らこそが平穏を乱す存在だと思っていたが、口に出せば何をされるか分からない。

 恐怖を押し殺しながら、無理やり日常を送っている中。1人、表情を陰らせている女性が居た。


「怪人もヒーローも先輩には関係ないから大丈夫ですよ」

「そう。よね」


 目を逸らしてはいたが、エスポワール戦隊は市民にとっての希望では無くなっていた。今や、彼らは理不尽と暴力の象徴だった。そう言った物に対抗していたのが自分達では無かったのか。

 隊員達が聞き込みに回っているが、自分達には関係ない。いつも通りの日々を送ればいい。ただ、正視するのが辛くて目を逸らした。


「……?」


 視線を逸らした先。路地裏にあったゴミ箱が微かに動いているのを見た。風や振動で揺れたという事でもおかしくはない。

だが、一度疑問を持ってしまえば纏わりつく。ピンクとしてのスーツの機能を一部起動して、ゴミ箱の中身を透視した。ゴミに紛れて人が入っていた。


「先輩?」


 知ったからどうだというのか。あの様な潜伏では見つかるのも時間の問題だろう。ならば、報告をするか? いや、余計な恨みを持たれたくもない。


「何でもない。今日の晩御飯は、久々に私が作ろうかしら?」

「先輩の料理。基本、カレー、オムライス、ハンバーグのルーティンですし、もっとレパートリーとか栄養バランスをですね」

「ここら辺の料理が好きなのよ」


 全てを見なかったことにして、彼女は早々に日常へと帰ることに決めた。

 他愛の無い会話で緊張感が解れて行くのを感じていると、彼女のスマホが鳴った。電話をかけて来るのは富良野位なのに。そもそも、電話番号を彼女以外の誰かに教えたことも無い。


「いたずら電話ですかね?」

「一応出てみようかしら」

「あ。ちょっと」


 いたずら電話やスマホに関しての情報に疎い桜井は電話に出た。ノイズ混じりであったが、相手はハッキリと話していた。


「始めまして。元エスポワール戦隊『ピンク』さんよ」


 一瞬で顔が青ざめた。電話相手は、殆どの人間が知らない情報を知っている。電話番号が割り出されているという事は、住所なども分かっていると思ってもいいだろう。だが、彼女は弱音を見せる様な真似はしなかった。


「貴方は?」

「『ガイ・アーク』様の部下だった男だと言っておこう。早速だが、頼みがある。その付近に、俺の仲間が潜伏しているんだ。彼らを保護して欲しい」

「私が貴方達に手を貸す理由なんてないけど」


 桜井の反応から、通話内容を類推した富良野の表情にも緊張が走った。通行人の邪魔にならないという体で、人目に付かない所に移動した。


「協力しておいた方が身のためだぞ。お前達の住所や同居人の勤め先なんて分かっているからな。平和に過ごしたいだろ?」

「脅すつもり? 言っておくけれど、私。まだ、リーダーとの繋がりは残っているのよ。何なら、今。表にいる隊員達に貴方の仲間を突き出しても良いのよ?」


 屈すれば、何処までも利用されることが分かっていた。関わらないと決めた手前、名前を出すことには抵抗感はあったが致し方ない。だが、その程度の反応を予測してか、相手は余裕をもって答えた。


「おぉ、怖いね。そうか。お前もまたエスポワール戦隊の一員なんだな」

「それがどうかしたの?」

「いや、何。ヒーローの仲間なんて素晴らしいと思ってね。早速だけれど、広報させて貰ったよ」


 桜井が疑問を抱いたのも束の間。今度は富良野のスマホに連絡が入って来た。通知画面には勤め先の名前が表示されていた。


「はい。富良野です」

「富良野さん。貴方、エスポワール戦隊の人と同居しているって。本当?」


 心臓が跳ね上がる。今や、国内においては暴力団や犯罪組織と同等の意味を持つ組織である。一部の市民が賛同しようとも、企業や社会的立場がある者達からは到底受け入れられる物ではなかった。


「誰がそんなことを?」

「匿名の通報があってね。その『ピンク』って人? と一緒に居る写真って言うのが、今。電子メールでも送られて来て」


 全身から血の気が引いて行く。自分が現活動に参加していなくても、一般市民達に分かる訳が無い。あまりにも悪辣な手口を前に、桜井の思考が停止する中。富良野は意を決した様に答えた。


「えぇ、本当ですよ。私、小さい頃に憧れていた人と一緒に暮らしています」

「……え?」

「そう。ごめんなさい。入居者の人達の安全にも関わるから、明日からの出勤は少し待って」

「分かりました」


 短く返事をすると、富良野は通話を切った。未だに繋がっている、桜井のスマホからは茶化すような拍手が聞こえた。


「大したファンじゃないか。ウチの奴らにも見習わせたい位の肝っ玉だぜ」

「アンタ。自分が何をしたのか分かっているの?」

「俺は事実を言っただけだぜ? ヒーローが嘘や隠し事をするのは良くねぇな」


 気丈に振舞ってはいた物の。自分のせいで、後輩の仕事が奪われた事に対する怒りが湧き上がっていた。


「さて、アンタらは無職になっちまうかもしれないな。新しい就職先でも同じようなことが起きちまうかもしれないな」

「卑怯者!」

「そりゃ、俺達は悪の組織だからな。ただ、仁義は通すぜ。もしも、俺の仲間を保護してくれるなら。暫く働かなくてもいい額を渡そう。おっと、通話はそのままにしておけよ」


 要らない。と突っぱねたかったが、生活する上に置いても金銭は必要だ。苦虫を噛み潰す様に分かったと短く呟いて、彼女は路地裏に向かった。ゴミ箱の蓋を開けてみれば、ボロボロになった青年が入っていた。


「アンタ。剣狼?」

「この臭い。お前、ピンクか。トドメを刺しに来たのか?」


相当激しい交戦があったのか、全身が傷だらけで無事な所がない。富良野が小さく悲鳴を上げた。


「不本意だけれど、アンタを助ける様にって脅されているのよ」

「お前の助けなんて……」


 と言いかけて、剣狼は染井の最期を思い出していた。皆の事を頼むと。命を張って送り出してくれた以上、下らない意地を張っている場合じゃないと。


「どうしたの?」

「いや、何でもない、悪かった。どうやって俺を助けるつもりだ?」

「そこで。ピンクの出番だよ。お前の演技力に掛かっているんだ。良いか、作戦はこうだ」


 作戦の内容を聞いて、桜井は呆然とした。エスポワール戦隊の一員であることを告げるのも拒否したいが、作戦の内容は到底了承しかねる物だった。


「いやよ! なんで、私がそんなことを!?」

「だが、成功すれば報酬もある。それにエスポワール戦隊もアンタらと関わり合いたくなくなるはずだ」


 確かに。もしも、エスポワール戦隊の一員にそんなことをする奴がいれば、距離は置きたくなるが……。


「先輩。やりましょう。ごねれば、ごねるほど。どんな条件を押し付けられるか分かった物じゃありません」

「ふ、富良野?」

「後輩ちゃんノリノリじゃないか。じゃあ、早速頼むぜ」


 無慈悲に通話は切られた。暫く思い悩んでいたが、色々と失った手前。これ以上、迷う必要もないと考えたのか。桜井は久々に体内に埋め込まれていたベルトを起動させた。


~~


「アレは。まさか!」


 路地裏から出て来たピンク達は、皆の目を引いた。手にしたピンクウィップで件の二人を拘束していたからだ。彼女に駆け寄る。


「ピンクさん。まさか、貴方が二人の捕縛を手伝ってくれるなんて」

「えぇ。市民の平和を脅かす者は放っておけないから」

「きっと。リーダーも喜ぶと思いますよ! さぁ、こちらに引き渡しを」


 引き渡しを求める隊員に対して、彼女は首を横に振った。周囲に動揺が走る中、彼女はヤケクソ気味に言った。


「一思いにやっても、効果が薄いんじゃない? こういうのはね。却って生かした方が効果的なのよ」

「え? はぁ……」

「尊厳を破壊しつくして、惨めに地べたに這いつくばらせるのよ。コイツのようにね! オラ! 駄犬! ちんちんしろ!」

「くっ……」


 ピンクウィップを首に巻き付け、怪人の尻を蹴飛ばしてちんちんを命令する女。あまりに凄絶な光景に隊員達も開いた口が塞がらなかった。

 剣狼も律義なのか。しっかりと、ちんちんの態勢を取っていた。惨めで笑い物にしかならない光景だったが、桜井の熱演ぶりのせいで誰も何も言わなかった。


「よしよしよし! 大した駄犬だよ。オラッ!」

「ぐぅ」


 散々顎と頭を撫で回した後に尻を叩いていた。自尊心を粉々に砕く所業の数々に、皆が混乱している中。富良野が言った。


「先輩は、この駄犬を調教するので、皆さんに引き渡すことは出来ないですって」

「え? うーん……」


 リーダーの知り合いだし、大丈夫か? と相談し合っている中。彼女は四つん這いになった剣狼に腰掛けて優雅に手を振った。


「それじゃあね。あ、世話係。アンタも一緒に帰るのよ」

「と言う訳で、皆さん。お疲れ様です!」

「あ。ハイ」


 印象の暴力で剣狼を連れ出すことに対して、誰も何も言えなかった。律義に四つん這いで歩き続ける剣狼の背中に乗りながら、ピンクは思った。


「しにたい」

「でも、ちょっと良かったですよ!」


 何故か、富良野はノリノリだった。半ば心が死に掛けている中、剣狼が『おい』と声を上げた。


「どうしたの?」

「お前。重いぞ。降りてくれ」


 脇腹に思いっきり蹴りを入れた。


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