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帰還 9


 腕部や脚部。全身から生やした刃は、強化外骨格(スーツ)さえ切り裂くほどの鋭さを誇っていた。受け止める事すら許さない一撃を繰り出し、大仰に避けようものなら豊島の攻撃が飛び、彼らの相手をしている隙に背後から染井の銃撃が飛んでくる。

 現場に駆け付けたセラドンは逡巡していた。大坊に張り付くようにして動いている二人に狙いを付けるのは至難であったし、宙を舞う染井に攻撃を当てるのも困難だった。


「(ど、どうする? 皆を呼んで来るか? いや、その間にリーダーが倒されたでもしたら)」


臆病者と言う誹りを受ける程度なら未だしも、リーダーを見捨てた裏切り者と認識されれば、自分に明日は無い。手にした短槍型のガジェットが酷く心許なく見えた。だが、ここで動けるのは自分しかいない。

 スーツから安定剤が打ちこまれる。手振れが収まり、緊張が和らいでいくのを感じた。大坊達の戦いを観戦している中、1人。動きが鈍り始めた者を見つけた。天啓を感じた。槍を構えた。


「豊島ァ!」

「な!?」


 染井が叫んだ時には、既に短槍が投擲されていた。豊島の脇に深々と突き刺さる。動きが鈍り、二人の連携が崩れた瞬間。大坊は剣狼を蹴り飛ばした。

 数度、床を跳ねて転がった後、態勢を立て直すが、開いてしまった距離はどうしようもない。レッドソードの刃が、豊島の首元にまで迫る。浮遊していた染井が銃撃を行いながら急接近する。


「これ以上、テメェらの好き勝手にさせて堪るか!」

「染井!!」


 拳銃から吐き出された炎弾を避けながら、擦れ違い様に刃が閃く。染井の体は両断されたかの様に思えたが、その場にいた誰もが目を疑った。

 寸断された胴体から血液の代わりに炎が噴き出し、死を拒むようにして染井の体は再生されていた。見た目からも、さながら不死鳥の様であった。


「うぉおおおお!!」

「グッ!?」


 豊島は脇腹に刺さっていた短槍を引き抜き、大坊の腹部へと突き刺した。強化外骨格(スーツ)を貫いた。傷口から血が噴き出す。追撃は終わらない。動きが鈍った一瞬の内に剣狼が肉薄していた。


「これで終わりだ!」

「まだだ!!」


 ブルーガンの引き金を引き、剣狼を迎撃しようとするが、前面に展開した刃に阻まれて剣狼の命には届かない。切っ先が、大坊の体に触れた。

 右腕の肘から先が宙に舞った。左腕の肩から先が寸断された。刃が臓器にまで達した感触があった。疑う必要もない致命傷を与えた。


「やったか!?」


 遂に、エスポワール戦隊のリーダーを倒した。皇を騒がせていた処刑人を討ち取った。離れた場所から見ていたセラドンは呆然としていた。


「嘘だろ」


 化け物じみて強かったリーダーが、ここで死ぬ。しかも、彼に致命傷を与える原因を作ったのは、自分の行動が原因だった。

全身から力が抜け、膝を着く。希望(エスポワール)が絶望へと落ちようとした瞬間、奇妙なことが起きた。大坊の腕と共に転がって行ったブルーガンが彼の体へと吸い込まれて行った。


「おい! なんかやべぇぞ!」

「そうか、ブルー。死んでも、俺と一緒に戦ってくれるか!」


 筋肉が盛り上がり、傷口を塞いでいく。吹き飛ばされた腕の代わりをする様に、青色の銃身が出現した。大坊の血に塗れながら、銃口は剣狼達を捉えていた。逃げること等、出来る訳も無かった。


蒼銃掃射(ブルーレイン)!!」

「剣狼! 豊島! 俺の後ろから動くなよ!!」


 大坊の両腕から生えたブルーガンから、雨霰の様に弾丸が吐き出された。間断なく、大気が震え、轟音が響く。跳ねる弾丸で床や天井は削れ、壁には巨大な穴が穿たれた。

 染井の前面に炎で形成された壁が出現したが、疾走する弾丸は障壁で幾らか威力を殺される程度で、彼の体を食い破ろうとしていた。体内に入った弾丸と傷口を焼き尽くす様に炎が噴出する。


「親父ィ!!」


 剣狼も豊島に覆い被さり、背面に刃を展開していたが、殆ど飛来してくることは無かった。青の暴風は止む気配を見せずに吹き荒ぶ。

もはや、炎の障壁殆ど意味をなさずに、傷口の無い場所が存在しないと言わんばかりに全身が燃え上っていた。染井は剣狼にだけ聞こえる様に小さく呟いた。


「ケン。芳野と皆を頼んだぞ」


 押し寄せる殺意の嵐の中で呟いた言葉は消え入りそうな物だった。剣狼は奥歯が砕けそうな程に強く噛み締めていた。


「(俺は、また助けられないのか)」


 倒したと思った。仇を討てたと思った。中田達の期待に応えられたと思った。芳野を裏切らずに済むと思った。

 だが、人々の希望に応える様にして。ヒーローは復活を遂げた。自分達の希望を踏みにじる様にして、更なる力を手にして。


「何しやがる! ケン! 離せ! このままじゃ、親父が!!」

「親父の意思を無駄にするんじゃねぇ!!」


 豊島を抱えながら、穿たれた穴から飛び出した。自らの命を燃やし尽くす様に紅蓮の化身となった染井は、暴力の奔流の中を進んで行く。

 既に燃やすものも無くなって来たのか。傷口から炎が噴き出すことも無くなり、全身を削られながらも肉薄する。大坊へと辿り着いたときには、上半身と右腕しか残っていなかった。


「大した奴だ。まさか、仲間を逃す為に命を懸けるとはな。悪党ながら尊敬に値する」

「俺達にも守りたい物はあるんだ。それらを奪うお前達は、俺達にとっての」


 最後まで言い終える事無く、染井は力尽きた。戦闘が終わった事を察すると、両腕の銃身は変形して人間の物へと変わった。暫し佇んでいると、セラドンが駆け寄って来た。


「リーダー。今のは!?」

「ブルーが俺を助けてくれたんだ。セラドン、俺達の勝利だ」


 セラドンと共に表に出た大坊は、エスポワール戦隊の皆に勝利を告げた。全員から歓喜の声が上がる一方、セラドンだけは違った。


「(リーダー。化け物だったじゃないか。それに、エスポワール戦隊の隊員にも戦死者が出ているのに、手放しで喜べるかよ)」


 自分達が負った痛みを誤魔化すようにして、彼らの上げる声は大きな物になっていた。


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