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帰還 3

 都内某所。故人を送る為の葬儀場は剣呑な空気に包まれていた。弔問客はいずれも周囲を頻りに見渡し、あるいは無線を用いて定期連絡を行っていた。その場所を訪れていた染井組長と豊島は眉を顰めた。


「やれやれ。葬儀一つまともに開催させてくれねぇとは」

「弔問客の名簿を見るに、組の人間以外は来てねぇみたいです。関係者の名前はありませんでした」


 エスポワール戦隊が出現する以前は、持ちつ持たれつの関係を持っていた表の人物達は全員欠席していた。不義理だと思いはしたが、虎穴と分かっている場所に飛び込める人間もそうはいない。

 その証拠に組の者達以外の人間。即ち、スタッフ達の顔には絶えず不安が張り付いていた。


「連中。流石に、葬儀会社の人間にまでは手を出さねぇだろうな」

「分かりませんよ。既に俺達に関わった時点で悪党認定をされているかもしれませんよ」


 世間から後ろ指を指された存在は弔う事も許されないのか。村八分でも葬儀の時は協力すると言うのに。斎場へと向かうごとに物々しさは増していき、頻りに懐を気にする者達も増えていた。

 辿り着いた場所には逃げずにやって来た組長や若頭。或いは本部の人間達が集っており、その内の一人は染井組長の方を見ると近づいて来た。


「染井。お前さんもやって来たか」

「当たり前だ、梅松。ここで逃げ出す奴なら、この先やっていけねぇからな」


 梅松と呼ばれた顔面に幾つもの切創を持つ老齢の男を見て、染井は少しだけ笑った。隣に控えている若者を見て、染井は気付いた。


「竹井はどうしたんだ?」

「エスポワール戦隊にやられた。コイツはその代わりに入って来た奴だ」

「初めまして。刀虎と申します」

 

 その体格は黒田程の物だったが、全身から放たれている威圧感は肌を突き刺すようだった。また、名前の並びにも既視感があった。丁度、事務所に最近入って来た用心棒の若者を思い出した。


「刀虎? 剣狼と知り合いか?」

「昔、同じ職場で働いていました。交流はあまりありませんでしたが」

「そうか。ウメ、そいつがそこに居るって事は。お前も持ってんだな?」


 染井は袖を捲った。そこには『フェルナンド』から渡された件のリングが装着されており、それを見た梅松もまた。己の腕に付けているリングを見せた。


「さっき、会場を回った限り。刀虎の知り合いも何人かいた。どうやら『フェルナンド』は、皇全国規模で暴力団を取り入れていっているらしい」

「俺達が悪の先鋒って訳か」


 誰かの下に付いている様で気に食わなかったが、メンツに拘り過ぎて何も残せずに死ぬことは増々馬鹿らしい。

 改めて観察してみれば、ここにいる組長や護衛達はスーツの上からも分かる位に、微かに腕の部分がリングの形に浮き上がっていた。刀虎も気配を感じていたのか、ポツリと漏らした。


「戦場になりますよ」

「望む所だ。連中もまとめて葬儀に出してやるよ」


 老いてなお、気骨を失わない二人を見ながら。お互いの付き人達は確実に近づいて来る戦いの予感に、冷汗を浮かべていた。


~~


「え? 引継ぎを?」

「はい。念のため、従業員の安全を守るようにと。本社からの通達がありまして」


 葬儀の準備に当たっていたスタッフ達は通達を聞いて驚いた。本社から連絡は来ていないが、目の前にいる人間は間違いなく自社の名札を掲げているし、使っている車も社用の物だった。

 声を掛けられたスタッフは責任者を呼んだ。責任者は彼らと何かを話し込んだ後。他のスタッフ達にも連絡を入れて、入り口前に集まった。


「お前達。後の仕事はこの人達に引き継ぐ。俺達は此処で引き上げるぞ」

「え? でも、これから告別式もあるのに。ここで去るのはおかしくないですか?」

「良いから! いう事を聞け!」


 滅多に声を荒げない責任者の剣幕に圧され、引継ぎに来たというスタッフ達に説明をしたが、やはり違和感は拭えなかった。そんな不信感漂う空気に割って入ったのは、妙齢の美しい女性だった。


「申し訳ありません。これも皆様を守る為です」


 透き通るようなその声は、直接脳内を揺さぶるかのような心地よさを覚え、退去を渋っていたスタッフ達の警戒心が解かれて行く。間もなく、彼らは挨拶を交わして会場から出て行った。

 その様子を見届けたスタッフ達は社用車に偽装したバンから銃剣型のガジェットを取り出し、腰元に装着しているベルトの感触を確かめていた。


「『シャモア』姉さん。近隣に進入禁止の立て看板の設置をしておきました」

「ご苦労。さて、皆。私達の襲撃が来ることを予想してやって来た連中よ。気を引き締めて行きなさい」

「『カラード』に『上級構成員』。それに秘蔵っ子である『ヒーローチルドレン』達も来ているんです。俺達が負ける訳がありません」

「そうだぜ! 正義は勝つんだよ!」


 少し遅れてやって来たバンから、まだ幼さが残る少年少女達も出て来た。装着しているベルトは構成員達やカラードの物とも違う、少し特殊な形をしていた。

 そして、彼らに手を引かれるようにして現れたのはリーダーである大坊乱太郎だった。


「そうだ。連中が何を企んでいようと。俺達は悪を払うヒーローだ。詰まらん小細工など蹴散らしてやる」


 大坊が先頭に立ち、会場へと入っていく。警備に当たっていた組員達は直ぐに、異様さを察して通信機を立ち上げたが、ノイズを流すばかりで、使い物にならなかった。


「な!?」

「おいおい。妨害電波が使われる位は、分かるだろ? 来世ではそこら辺を覚えていると良いぜ?」


 嘲笑を浮かべながらベルトを起動させた痩身の男は、ビリジアン色のスーツを身にまとっていた。他の者達も一斉に起動させ、量産型のスーツを装着した構成員達が並び、その先頭にはビリジアンやシャモアを含む各人の特色を表したカラード達が並んでいた。

 そして、彼らは銃剣型のガジェットを構えた。その先頭に立ったブラックのスーツを纏った大坊は腕を掲げて、号令を下した。


「悪を倒せ!!」


 一斉に引き金が引かれた。警備に当たっていた者達は瞬く間にハチの巣になり、会場内に停めてあった車内に待機していた者達も、車体ごと全身を貫かれた。

 悲鳴を上げる間もなく、あらかじめ葬式会場の見取り図を把握していたブラックにより、各所の脱出口を塞ぐような形で人員が配置されて行くが、それよりも先に正面入り口から大量の組員が現れた。


「定時連絡が途絶えたからまさかと思ったが。本当に来てやがったか!」


 全員が躊躇う事なく、自らの上腕部分を叩いたかと思うと、彼らの全身が異形へと変わって行く。虫や哺乳類、或いは鳥類や爬虫類を彷彿とさせる怪人へと変貌していた。


「あいつらは! 『シアン』の報告に上がっていた怪人化した連中って奴か!」


 耳障りな翅音を響かせ、飛翔したカ型の怪人は目にも留まらぬ速度で構成員達に口吻を突き刺していく。スーツが貫かれた時、不思議と痛みは無かったが、次の瞬間、腹部に強烈な激痛と違和感を感じた。

 便意が収まらず、本人の意思とは無関係に糞便が垂れ流され。動けなくなるほどの寒気と熱に襲われ、蹲った。


「ハッハー!! 力が漲るぜ!!!」


 ウシ型の怪人が破損した車を盾の様に掲げながら、それらを鈍器の様に振り回り、幾人もの構成員達を叩き潰した。

 反撃されることは覚悟していたが、いざ目の前にしてみれば、混乱し、逃走を企てようとしたが。首筋に走った電気信号により、その考えは全て中断され、仲間を葬られた怒りへと転じた。


「この化物共め! 死にやがれ!!」


 崩れた士気は瞬く間に建て直され、怪人一人に対して多くの人間が囲い込み集団で襲い掛かることで、その戦力比をカバーしていた。怪人と構成員達が矛を交え、両者の死体が積み重なっていく。その様子を見た大坊は吠えた。


「俺達の仲間に手を上げるとは、許さんぞ!」


 怒りに駆られた大坊の動きは精彩に満ちており、飛翔しているカ型の怪人を叩き落としたかと思えば、瞬く間にレッドソードで真っ二つにした。

 また、上空で奪い取った銃剣型ガジェットで攻撃を繰り返す鳥類型の怪人に対しても、グリーンスピアを投擲して、胴体を貫いていた。その活躍に周囲は称賛の声を上げた。


「見ろ! 俺達もリーダーに続け!」

「お前ら! 連中を一人でも多く殺せ! 殺された兄弟や皆の仇を討つんだ!」


 カラードや上級構成員達が鼓舞し、構成員達も我が身を顧みずに突っ込む。また、怪人達も一人でも多くを道連れにせんと猛威を振るい、エスポワール戦隊が在りし日の大混戦を見せていた。

 その場には、殺された事で怪人化が解除された者達と。スーツの装着状態が解除された者達の死体がそこら中に転がっていた。


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