↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/8

第六話 俺が根こそぎ引き抜く

 翌週から、王都の空気が変わった。

 まず、噂が流れた。


『アルデン男爵令嬢の聖霊紋は、宮廷魔術で描かれたものらしい』

『アルデン男爵は聖霊学者だ。娘に紋様を刻む術くらい心得ていよう』

『王太子殿下が幼馴染を妃にするための、王家ぐるみの茶番では?』


 出所は分からなかった。

 分からないように流されていた。


 サロンで、劇場で、市場で。

 噂は水のように広がり、アルデン家の門には投石の跡がついた。


「父様、大丈夫ですか」

「なあに。学者は嫌われるのが仕事だ」


 そう笑った父の手は、震えていた。


 そして二週目。

 審問の首席審査官に、グランベルク家と縁の深い宮廷魔術師団長が選ばれた。


 そして三週目。

 ジゼルが、倒れた。

 聖霊樹に水をやっている最中、突然視界が暗くなり、そのまま根元に崩れ落ちたのだ。

 駆けつけたマクシミリアンの腕の中で、彼女は薄く目を開けた。


「ジゼル!」

「……ごめんなさい。最近、なんだか、力が抜けて」

『これは呪詛です』


 聖霊エルディアが、少女の姿で現れた。その姿は、以前より色が薄い。


『この子の加護は、わたくしの霊脈と繋がっています。わたくしが弱れば、この子も弱る。——楔が、深く打ち直されました』

「打ち直された、だと」

『三日前の夜。地中の霊脈が、急に強く引かれました』


 マクシミリアンの目が、氷点下まで下がった。


「証拠を消しに来たな」


 慌てて楔を打ち直し、痕跡を隠そうとした。

 つまり——楔の在り処を知る者が、この国にいる。




 その日から、ジゼルは王城の客間で床に伏せることになった。

 政務の合間、マクシミリアンは日に三度、その部屋の扉を叩いた。


「熱がある」


 額に触れた手が、そのまま頬へ滑る。

 振り払う力も出ない。


「殿下……はしたないです」

「マクシミリアンだ」


 寝台の縁が軋んだ。

 彼は上着を脱ぎ捨て、シャツ一枚のままジゼルの背に腕を回されると、冷えきった身体に彼の体温が沁みてくる。

 心臓の音が、耳のすぐ下で鳴っていた。


「……お前が痩せていくのを、俺は毎日数えていた」


 首筋に押しつけられた額が、熱い。

 泣いているのだと気づいて、ジゼルはようやく震える指で彼の髪に触れた。


「大丈夫です。私、水を運ぶのは得意ですから」

「頼むから、少し休め」

「休んだら、エルディアが枯れます」


 返事の代わりに、腕の力が強くなった。

 骨が軋むほどの、余裕のない抱き方だった。


「——必ず、抜いてやる」


 首筋に顔を埋めたまま、彼が言った。


「あの杭も。お前を苦しめている手も。俺が根こそぎ引き抜く」


 ジゼルは、そっと彼の髪を撫でた。

 薄れていく意識の中、この人、こんな声も出すんだ、と。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『無華の花嫁』発売中
無華の花嫁
~華の加護なき無能な少女は、黒薔薇の殿下に愛される~
和風シンデレラ/異能恋愛/黒薔薇の殿下/虐げられ令嬢/救済&溺愛
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。