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ちょっと覗いてくるわ ~結婚式

 以前、『時司の愚痴日誌』シリーズ。『お返しはいりませんから』で家族葬について書きました。

 先にお断りしておきます。

 今回も、少し似たような話になります。



 でも、どうしても、突っ込まずにはいられないのです。

「それって、・・・どういう状況なの?」と。


 私はそれなりにいい歳をした人間なので、葬式については、呼ばれていなくても、故人との関係によっては参列するという感覚を持っています。

 以前にも書きましたが、勿論、家族葬は別です。そこへ勝手に押しかけるのは違う。


 一方、結婚式。

 こちらは逆です。呼ばれていないなら、行かない。少なくとも私は、そういう認識で生きてきました。


 今回の話を聞くまでは。



 ある日の昼休み。

 私はいつものように昼食を食べていました。社員食堂というほど立派な場所ではありません。昼休みになると、それぞれが弁当を広げたり、コンビニのおにぎりを食べたり、スマートフォンを眺めたりする、いつもの休憩スペースです。


 その時です。

 隣のテーブルから、結婚の話が聞こえてきました。

「派遣で来てる子、結婚するんだって」

「へえ、そうなの?」

「今度、式があるらしいよ」

 私は何となく聞いていました。上司と、いつも一緒にいる数人です。

 更に話を聞いていると、その女性は上司の遠い親戚にあたるらしい。


 なるほど。

 それなら上司が結婚式に呼ばれる事もあるのだろう。

 私はそう思いました。


 上司と、何人かの人達が話を続けています。

「結婚式、行くんですか?」

「どうするんです?」

 そんな会話だったと思います。

 ここで私は、特に何も疑問に思いませんでした。

 普通なら、ここから結婚式らしい話になると思ったからです。

 何を着ていく。最近は暑いから大変だ。会場は冷房が効いているだろうから、羽織るものが必要だ。

 御祝儀は幾ら包むのがいいのか。最近の相場はどうだとか。

 最近は結婚式のスタイルも変わってきた。会費制の時もある。

 そういう話題が出てくるものだと思っていました。


 ところが、今思えば、そこに一つもそのような話は出てこなかったのです。

 服装の話も、御祝儀の話も。当日の予定をどうするか。せっかく親戚が顔を合わせるので、皆でお茶でもして帰ろうと思っているとか・・・という話すら、ほとんどない。

 そこに、私は気づきませんでした。


 何故なら、結婚式に行く=結婚式に参列するという前提で聞いていたからです。



 そして、数日後、上司が半休を取る事になりました。

 この上司、普段から他人の有給休暇については、かなり根掘り葉掘り聞いてきます。

「何かあるの?」

「どこか行くの?」

「誰と?」

「何の用事?」

 こちらとしては・・・あなたには関係ありません。と、心の中で何度言った事か分かりません。


 しかし、本人が普段からそういう事を聞くので、こちらも一応聞いてみました。

「半休なんですよね。何か予定があるんですか?」

 すると上司は、嬉しそうな顔をしました。

「ああ。結婚式に行くの」

 例の派遣女性の結婚式。私は、「ああ、そうなんですね」と、普通に受け止めました。

 めでたい話です。結婚するのもめでたいし。結婚を祝う事自体は、勿論悪い事ではありません。

 だから私は、何となく話を聞いていました。


 ところが、上司が、さらっと言ったのです。


「ちょっと、覗いてくるわ」


「・・・え?」

 思わず聞き返しそうになりました。


 覗いてくる。

 ・・・覗いてくる??


 私は一瞬、自分の聞き間違いかと思いました。

 結婚式ですよね?

 文化祭とかじゃないですよね? ステージ発表を見に行くわけではありませんよね?

 頭の中に「?」が一気に増えていきました。


 結婚式というものを、私はどうしても儀礼だと思っています。

 新郎新婦がいて、家族がいて。親族がいて。友人がいて。招待された人がいて。それぞれが時間を作り、適切な服を選び、御祝儀を用意して、その日のために準備をする。

 それを全部ひっくるめて、結婚式なのだと思っていました。

 だから、「ちょっと覗いてくる」という言葉が、どうにも引っかかりました。


 私は恐る恐る聞きました。

「どんな服装で行く予定ですか?」

「え?」

「最近は暑いですし。でも室内は冷房がかかっていると思うので、体温調整できるように薄手のジャケットでも羽織っていく予定なのかなと思って。それとも、お着物ですか?」


 上司の顔が、一瞬だけ変わりました。

 ほんの一瞬です。けれど、私は見逃しませんでした。

 あれ?

 なんだろう。

 この反応。


 嫌な予感がしました。


「黒系のスーツの人が多いと思いますけど、結婚式なので華やかさも大事でしょうし」

 私は続けました。

「最近は服装のコンセプトを指定する結婚式も時々聞きますけど・・・」

「今後の参考までに、御祝儀は幾らくらい包む予定なのですか?」


 尋ねながら、私の中に一つの疑問が浮かびました。

 いや、待て。

 そもそも、この人、参列するのか?

 私の頭の中で、それまで当然だと思っていた前提が、音を立てて崩れていきました。


 結婚式に行く。

 でも、「覗いてくる」。

 この二つ、普通は両立しないのではないでしょうか。

 少なくとも私は、「結婚式を覗きに行く」という行動を、これまでの人生で一度も想像した事がありません。

 勿論、教会式の結婚式で、たまたま教会の外を通りかかり、新郎新婦が出てくるところを見かける。そういう事なら分かります。

 あ、結婚式だ・・・くらいならいい。

 でも、それは「結婚式に行く」とは言わない。ただの偶然です。


 今回の場合は違う。

 わざわざ半休を取っている。


 私はそこで初めて、昼休みの会話を思い出しました。

 そういえば、服装の話がなかった。普通、一番気にする事じゃないのか? 遠い親戚でかつ一応、会社の上司でもある。どの立場で参列するのか? それによってカジュアル過ぎず、家族より目立ち過ぎずの微妙なバランスが求められる。


 まあ、両方の立場が合わさったため、義理で呼ばれたのだろうけれど。

 普通なら、少しは悩むだろう。私なら悩む。それ以前に、出席するかどうかも悩む。


 そして今、「ちょっと、覗いてくる」と言った。

 ・・・まさか。

 まさかとは思います。

 思いたい。

 でも、嫌な予感しかしません。

 結婚式に、御祝儀を持たず、正式な参列者でもなく・・・当然、席も用意されていない。

 受付を通る必要もない。


 ただ会場へ行って、ロビーあたりをうろうろして・・・「お、やってるやってる」とでも言って、帰ってくる。

 そんな事なのか?

 私は頭の中で、その光景を想像してしまいました。

 華やかなワンピースを着た女性。着物の方もいらっしゃるでしょう。スーツ姿の男性。受付には御祝儀袋を持った人達。

「本日はおめでとうございます」という声。

 その横を、御祝儀を持っていない大人が、ふらっとロビーに入ってくる。そして会場の中を覗く。新郎新婦を見る。知り合いと少し話す。

 満足する。

 そして帰る。


 百歩譲って、教会式の結婚式場で、外に出てくるのを待っている。それを見て、満足して帰る。

 ・・・何なんでしょう、それは。

 私はもう、頭の中で突っ込むしかありませんでした。

 結婚式を学校の文化祭か何かだと思っていませんか?


 文化祭なら分かります。

「○○高校で文化祭やってるらしいよ」

「じゃあ、ちょっと見に行こう」

 それでいい。

 展示を見る。模擬店を見る。ステージを見る。

 気が向いたら帰る。

 誰も文句は言いません。文化祭ですから。

 それでも、在校生の保護者である証明や招待客であることを確認しないと入れてもらえない学校もあります。


 でも結婚式は違う。

 結婚式には、「来てください」という招待がある。

 そして、招待された側は、きちんと出席の返事を返して、時間を作る。

 ふさわしい服を選ぶ。

 御祝儀を用意する。

 祝う。

 それが一つのセットになっている。

 少なくとも私は、そう考えています。


 まるで、「近所でイベントやってるから、ちょっと見てくる」くらいの感覚です。


 いや待ってください。

 イベントならまだ分かります。

 結婚式ですよ。人生の節目です。しかも、招待されず、席が用意されていないないのなら、尚更です。新婦側の、婉曲な、来るなという意思表示ではないのか。

 そこへ、遠い親戚だから、会社の上司だから、という理由だけで、「ちょっと覗いてくる」という感覚で入っていく。

 そしてそれは、そもそも、お祝いなのか。


 私は心の中で、必死に否定しました。

 いやいや。

 そんなわけがない。

 まさか、そんなことをする大人がいるわけがない。

 ・・・いるのか?

 いるから、今こうして普通に話をしているのか?


 そして何より恐ろしいのが、本人が、それを何の問題もないと思っているらしい事です。


 嬉しそうに、楽しそうに。

 半休まで取るのです。

 そこまでして行くのに、もし本当に覗くだけなら、私は余計に分からなくなる。

 何のための半休なんでしょう。

 ただロビーを歩いて、新郎新婦を眺めて、結婚したんだなあで帰る。


 そんな大人が、結婚式場のロビーを徘徊している姿を想像すると、私はもう、どうしても笑ってしまいそうになります。

 いや、笑っている場合ではありません。


 私は真面目に考えました。

 もしかすると、私の感覚がおかしいのかもしれない。

 最近の結婚式は、もっと自由なのかもしれない。招待されていなくても、知り合いなら覗きに行く。御祝儀がなくてもいい。服装も適当でいい。

 文化祭のように、「ちょっと見てくる」で成立する。

 ・・・そんな時代になったのでしょうか。

 もしそうなら、私は完全に時代に取り残されています。


 でも、それでも私は思うのです。

 結婚式には、結婚式なりの線引きがあるだろう、と。

 招待されているなら、行けばいい。

 都合が悪いなら断ればいい。

 結婚式に招待されていなくとも、お祝いしたいなら、別の形でお祝いする方法もある。同じ会社なのですから、会社の有志で結婚おめでとうの食事会でも、上司が主催すればいい。御祝儀だけ個人的に渡してもいい。


 でも、「呼ばれてはいないけれど、ちょっと覗いてくる」という第三の選択肢を、私はまだ知らない。

 そして、その選択肢を実行するために、御祝儀を持たない大人が、結婚式場のロビーを徘徊する。

 どうしても、その光景だけが頭から離れないのです。



 それは勝手な妄想だと言う人もいるでしょう。


 ですが、現実、結婚式に参列するのであれば、半休では足りないと思います。

 午前の式であれば、お昼に合わせて会食をして、急いで着替えて移動・・・15時くらいにはなるでしょう。そこから仕事? 私なら1日、有給休暇にします。

 午後からの式でも、昼まで仕事をして、それから着替えて移動。どう考えても遅刻です。おめでたい席に、最初から遅刻前提で出席しようなんて、あり得ません。

 上司は正式に招待されていないのではないか? それなのに、結婚式の場に行くのではないか?

 本当に、私の妄想であってほしいと思います。


 以前、家族葬について書いた時にも思いました。

 世の中には、私が当然だと思っている線引きを、当然だと思っていない人がいる。

 それ自体は仕方がありません。

 育ってきた環境も違えば、冠婚葬祭に対する考え方も違う。私の常識が、世界の常識だとも思っていません。


 ただ。

 ただですよ。

「結婚式を覗いてくる」だけは、どうしても聞き流せませんでした。

 結婚式は文化祭のようなイベントではありません。

 ましてや、参列もしない招待もされていない大人が、暇つぶしに徘徊する場所でもありません。


 私は最後まで聞けませんでした。

 怖くて。


 もし、「いや、参列するわけじゃないよ。ちょっと見に行くだけ」と本当に言われたら、その時、私は何と返せばいいのでしょう。

 おめでとうございます、と言えばいいのか。

 いってらっしゃい、と言えばいいのか。

 それとも「それ、結婚式に行くのじゃなくて見学ですよね?」と、正面から聞いてしまえばいいのか。

 いまだに、正解が分かりません。



読んでくださってありがとうございます(*_ _)

ポイントを入れてもらえると、嬉しいです。

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 時司 龍さん、こんにちは。 「時司の愚痴日誌 ちょっと覗いてくるわ ~結婚式」拝読致しました。  呼ばれていない所には、行かない。常識です。  ただ、故人との関係がある場合は、参列しても問題な…
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