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だから、どっちがいいの?

フェイクのため、今回はかばん屋さん設定でお届けします。

繁忙期のため、通常より何割増しかで口も悪くなっております。

 時々、不思議な事を言う人達がいる。

 答えが欲しいようで、実は答えを求めていない質問。女性に多くいる共感してほしい、同意してほしい・・・だと思うのだが。


 プライベートなら、放置するなり対処するなり、その時の状況に応じて好きにすればいいのですが、事が仕事だとそうもいきません。



 今回も、そんな出来事でした。

 舞台は、とある「かばん屋さん」設定とさせていただきます。


 目の前には1人のお客様。パソコンを持ち歩く機会が多いらしく、リュックにするか、トートバッグにするかで迷っていました。


 すると上司が、こちらを振り返って言いました。

「どっちがいいと思う?」

 お客様は返事を待っています。

 私は一瞬だけお客様の服装や雰囲気を見ました。


 リュックには、はっきりとしたメリットがあります。重たいノートパソコンを背負えば、体への負担は軽くなり、長時間の移動も楽になります。一方で、スーツや綺麗目の服装とは合わせにくい場面もあります。

 反対にトートバッグは、見た目は合わせやすく、仕事でもプライベートでも使いやすいでしょう。しかし、パソコンを入れれば当然重くなります。腕への負担も決して小さくありません。

 つまり、どちらにもメリットとデメリットがあるのです。


 だから私は、ごく普通に答えました。

「どちらでも、お好きな方を選んでいただくのが一番だと思います。メリットとデメリットをご説明して、お客様ご自身で判断していただくのがよろしいかと」

 お客様対応としては、ごく当たり前の考え方だと思っています。


 私の答えは、どうやら期待したものではなかったようで。

 上司は露骨に眉をひそめ、呆れたような表情を浮かべました。

「そんな当たり前の話は聞いていない」という空気を隠す気もありません。

 そして、イライラを押し殺す事なく言いました。


「だから、どっちがいいのかって聞いてるの」


 私は思わず頭の中が真っ白になりました。

 ・・・え?

 それは私が決める話なのでしょうか。


 もし、そのお客様が私の担当になるのであれば話は別です。


 まずは、お客様の使い方を伺います。

 毎日の通勤で使うのか。普段はスーツが多いのか、それともオフィスカジュアルで持ち歩く事が多いのか。出張や外回りの時だけなのか。仕事中にノートパソコンを持って取引先を回る機会は多いのか。車移動が中心なのか、毎日電車で長時間移動するのか。

 更に、荷物はパソコン一台だけなのか、それとも書類や充電器、お弁当、水筒まで一緒に持ち歩くのか。その人にとって重視するのは、身体への負担なのか、見た目なのか、それとも収納力なのか。


 ここまで想定しているが、仕事よりプライベートでパソコンを持ち歩く時の鞄を求めているのか。


 そうした情報をひとつひとつ伺って初めて、「でしたら、こちらがオススメです」と自信を持って提案できます。

 お客様相手に、ただ単に商品を売る仕事ではありません。満足していただくためには、お客様の生活や働き方を知り、その人に合った答えを一緒に探さなければいけません。

 だからこそ、何の情報もないまま「どちらがいいですか」と聞かれても、私には答えようがありません。


 あるいは、私自身が「こちらの商品の方が、お客様にはよい」と考えたものをオススメするという営業判断もあるでしょう。勿論、それも会社員としての仕事です。

 更に言えば、会社として今月力を入れて販売している商品や、キャンペーン対象の商品があれば、それを軸にご提案する事もあります。在庫状況や販促方針を踏まえ、「こちらはいかがでしょうか」とオススメするのも、立派な営業活動です。

 つまり、「オススメ」は気分で決めるものではありません。お客様の要望と会社の販売方針、その両方を踏まえた上で行う、一つの判断なのです。


 ですが今回は違います。

 お客様の情報は何もありません。ぱっと見の第一印象のみ。

 担当が私になるわけでもありません。

 情報がない。

 勿論、その後の責任を負う立場でもない。だからこそ、私には「どちらがよいか」を断言する義務もありません。


 それなのに、「どちらがいいかだけ答えろ」と言われても正直困ります。それは仕事ではなく、当たるも八卦当たらぬも八卦の占いです。


 私が返事をせずにいると、上司は露骨に不機嫌そうな表情を浮かべ、小さく息を吐きました。

「もういいわ」

 ・・・それを言いたいのは、むしろこちらです。

 更に追い打ちをかけるように一言。

「(私)さんに聞いたのが間違いだったわ」

 なるほど。どうやら私が間違っていたようです。


 お客様の希望を聞き、情報を整理し、最適な選択肢を提案する事が仕事だと思っていました。ですが、どうやら違ったらしい。

 情報がゼロでも、相手の生活も好みも知らなくても、即答できる超能力者である事が求められていたようです。

 残念ながら、私はエスパーではありません。正直、空気を読むのも苦手な方ですし、敢えて読まない事もあります。見た目だけで何もかもは判断なんて無理です。


 相談には幾らでも乗ります。

 商品の特徴も説明します。

 お客様が納得できるよう、一緒に考える事もできます。


 ですが、材料は初見の見た目だけ。何一つ与えられないまま、「はい、正解はこちらです」と言い切る能力は持ち合わせておりません。

 それは仕事ではなく、何度も書きますが、ただの当てずっぽうです。


 もし偶然当たれば「さすが」。外れれば「オススメしたじゃないか」。便利な責任転嫁の完成です。そんな便利な責任の押し付けに付き合う趣味はありません。


 だから、この手の質問には毎回思います。

 意見を尋ねているフリだけして、本当は「聞いている」のではないのでしょう。

 共感してほしいだけでしょう。同意してほしいだけでしょう。

 最初から自分の中に答えがあり、それと同じ言葉を言う人間を探しているだけなのでしょう。そして、自分は多数派だ。だから間違っていない、と肯定してほしいのでしょう。


 プライベートなら、何も問題はありません。


 仕事だから、同意したでしょ・・・と、こちらに、責任をスライドさせるから、文句の一つ二つ、三つ・・・四つ・・・、出てくるのですよ。


 それなら最初から鏡に向かって相談してください。

 一番期待どおりの答えが返ってきますから。


読んでくださってありがとうございます(*_ _)

ポイントを入れてもらえると、嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
 時司 龍さん、こんにちは。 「時司の愚痴日誌 だから、どっちがいいの?」拝読致しました。  かばん屋さん設定、了解致しました。  口の悪さが割り増し設定、ハ、ハイ、了解致しました。  リュッ…
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