責任の行方~イベントその2
イベントというものは、不思議なものである。その2。
始まる前は、全員が成功させようと声を掛け合う。
終わった瞬間から、自分の仕事は終わりましたと帰る者が現れる。
今回も見事だった。
担当毎にチームを作り、それぞれが持ち場を受け持つ。そして終了後は、担当箇所の片づけと最終確認を終えた所から、チーム毎に解散・・・そういう話だった。
少なくとも私は、そう理解していた。
ところが現実は違う。幾人かが、片づけせず帰った。
いや、百歩譲って片づけがない担当だったとしても、最終確認くらいあるだろう。自分の担当場所に問題がないか確認し、担当リーダーへ報告する。
イベント運営では、ごく当たり前の流れである。
その当たり前が、何故か消えた。笑えて来る。Z世代がどうのという話でもない。気づけばいい歳した担当リーダーまで帰っている所まである。当然その下で動いていた、きちんと残っている社員は困る。
「帰っていいんですか?」
そう聞かれても、こちらはその担当のリーダーではない。
私はステージ進行担当である。終われば、出演者への挨拶から、ステージ撤収の確認。会場の破損や忘れ物チェック。それぞれに担当社員がついているが、最終的にどうなったか、不具合はないかの確認はする必要があると思っている。
他担当の解散許可を出す権限も義務もない。
では誰の仕事なのか。リーダーがいなければ、勿論、全体を統括する総括責任者である上司の仕事である。
だから聞いた。
「各担当リーダーには、最後の流れを伝えてあったんですか?」
「それは貴方の仕事でしょ」
・・・え?? 一瞬、本気で混乱した。
意味がわかって、腹を抱えて笑いそうだった。
担当リーダーへ指示を出す。
全体へ情報を共有する。
最後の確認をさせる。・・・確かに一部、私がやってしまっている。
だが、総括責任者という役職は上司だったはず。もし最終確認の報告まで私がやるなら、総括責任者は何を総括しているのだろう。
空気か。
肩書きか。
それとも、仕事をしないお神輿か。神輿なら、何かあった時には首をかけてもらうが。
結局、勤務年数が長いというだけで、私は帰ってしまった担当リーダーの代わりに他担当の社員へ声を掛け、残っている人間を集め、確認を行い、片づけを進める事になった。
担当外の仕事である。
勿論、その仕事が嫌なわけではない。
終わらせなければ帰れないのだから、誰かがやるしかないし、給与分くらいは働くつもりである。
ただ、一つだけ疑問が残る。
責任者とは、一番最後まで全体を見る人の事ではなかったのだろうか。
少なくとも、この職場では違うらしい。
責任者とは、責任を持つ人ではない。誰かに責任を押しつける人の事である。もしくは、素で責任者の仕事がわかっていないか。
逃げた人は定時で帰れた。正直羨ましい。
上司の覚えが良ければ気が利くねと褒められる。残念ながら、私はその枠には入らない。普段からうるさいと思われている私は、余計な事をしてと言われるだろう。多分今回も、他担当にまで口出してと言われるだろう。
もっとも、口を出したくて出したわけではない。
困った事に、上司に確認しても日本人らしい曖昧なのらりくらりとした返事ばかりで、明確な答えを貰えないため、結局どうすればいいのかわからない。その結果、他担当のリーダーでさえこちらにどうすればいいと聞きに来る事もあった。
「これ、どうすればいいですか?」
聞かれるたびに思う。その質問、本来は私ではなく、総括責任者である上司へ向けるものではないだろうか。
それでも答えなければ現場は止まる。
その事によって、上司は総括責任者は私だという認識なのかもしれない。それならば、別にそれで構わない。そのまま総括の権限も肩書も、そして給与も欲しいものである。
私のように、空気も読まずはっきり言い切るのが嫌な人達は、普通に上司の指示で動き、片づけも最終確認もせずに帰ったのだろう。責められるべきは、最後まで責任を持たせる仕組みも、明確な指示も出さず、誰かが何とかするだろうでイベントを終わらせようとした側である。
さすがに今回は、私も黙ってはいなかった。
「総括が総括の仕事をしていない」と、思った事をそのまま伝えた。
その影響かどうかは知らない。イベント終了後には毎回、全体での確認・反省会議が行われる。それは以前から変わらない。
だが今回は、それに加えて、各担当毎でも必ず反省会議を実施する事という通知が出た。
なるほど。
ただ、一つだけ疑問が残る。
本当に必要だったのは、担当ごとの反省会議を増やす事だったのだろうか。
私にはそうは思えない。
リーダーが集まった最初の会議で、
「イベント終了後は担当箇所の片づけを行い、最終確認を済ませたうえで総括責任者へ報告する。それをもって担当毎に解散とする」
たったそれだけ伝えておけば済んだ話ではないのか。
原因は、反省会議が足りなかった事ではない。最初の指示が足りなかった事である。問題はそこなのに、対策は反省会を増やす事。
どうやら、この職場では原因と対策は別々に考える文化らしい。論点がずれていることに、誰か気づいているのだろうか。
そもそも、私の担当では反省会議など改めて開く必要すらない。イベント終了後の最終確認で、その場で分かる不具合は一通り聞き取っている。更に、細かな改善点があれば一週間以内に報告してもらうよう伝え、その内容を資料としてまとめ、担当者全員へ共有する段取りまで決めてある。
つまり、反省と改善の流れは、イベント当日にすでに始まっている。
だからこそ余計に思う。
会議を一つ増やしたところで、曖昧な指示を出す人間が変わらなければ、来年も同じ事が起きるだけではないのか。
役職とは、名札ではない。責任を持つためにある。その責任を果たさないのであれば、肩書きだけ立派でも意味はない。
もっとも、この職場は実によくできている。
役職は上へ。
責任は下へ。
そして最後には、その責任だけが現場へアウトソーシングされるのである。
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