不敬納骨
読んでくださりありがとうございます。
EP.10より【死】【葬儀までの流れ】【縁者問題】について触れています
今話は【火葬・納骨】となります
【縁者によるスピリチュアル発言】という特殊状況が発生するほか、【モラルハラスメント発言】があります
生理的嫌悪感・恐怖心を感じた場合は、閲覧中止または休憩を取るなど、読者様の精神面を第一にお考え頂けますと幸いです
なお、前書きによる注意書きは今回で最後です
次話以降は必要最低限の記載に戻ります
告別式で涙は流れず、花入れでも悲しみが込み上げる事はなく。
無感情になってしまった様な感覚ではあるけれど、それでも「最期まできちんと見送ろう」という気持ちはあって。
祖父を乗せた霊柩車が斎場から出るのを頭を下げて見送り、2つの白木位牌と枕飯を預かって父の車の助手席に乗る。
2つの内の1つは[仮位牌]で49日までは家に祀り置き、本位牌と引き換えでお返しする。
もう1つは[野位牌]といって、如月家の場合は納骨の際に一緒に納める形をとっている。
元々は土葬があった時代に使われていた名残だそうで、当時は墓標の役割があった物。
一般的には、本位牌をいただくまでに祀るのは仮位牌のみのはずなので、「コイツの家は珍しいケース」くらいで思ってもらえれば。
野位牌も少ないし、一緒に入れる事自体も少ないし。
仮であれども位牌を預かると言うことは、故人の魂をす預かっているのと同義。
できる限りで枕飯と共に揺らさぬよう支えて、火葬場への道のりを手が攣りそうになりながら耐える。
「如月自身がスピリチュアル系では?」となった方がいたら申し訳ない。
幼稚園がガチの仏門だったことや、曾祖父が信心深かったこともあり、如月自身も仏教的な思想はある。
ただ、下従妹の様な「誰某がどうこうで」というタイプでない事は明言しておく。
火葬場に到着して父に位牌を渡して玄関ホールに向かえば、棺を乗せた火葬台車とスタッフさん、住職さん達が先に待っており、後から来た親族達と共に列を作る。
(…… 爺は、亡くなったんだな)
感情が急に波立った訳でもなく、本当に唐突の実感。
葬祭場では涙も悲しみも何も無かったのに、炉前室へ向かう最中、不意にそう思った。
台車が火葬炉へ連結され、住職と御弟子さんによる炉前読経を耳に、目を閉じて手を合わせる。
ゆっくりと台車が動く音が聞こえ、棺が炉へ送られていく。
読経が終わり顔を上げれば、棺は炉の扉の向こう側。
過去に身内を送り出した時はこの状態がとても怖かったのに、今は恐怖を感じない。
(向こうに着く間まで、穏やかな道のりであるように願うよ)
正直言えば、生前の祖父の行いは許していない。
執筆時点で間もなく一年を迎える今でさえ、許せなく思える事も多々ある。
でも、どんなに憎かろうと、どんなに無関心であろうと、祖父が居なければ、いま自分は此処にいない。
それは感謝すべき事だから、きちんと実感を持てた今、彼岸の旅路の安寧を願うくらいは良い筈だ。
扉が閉じられ、スタッフが深く一礼して火葬のスイッチを押せば、ガタリと重い音。
「うぅ……お父さんっ…!」
「お母さんとようやく会えるね、良かったね…」
「おじいちゃん、もう耳朶触れないんだね…!」
簡易祭壇を前に、叔母達や従姉妹がまた泣き出した。…よく分からない言葉も聞こえたけど。
(さようなら。どうかこの旅と次生が優しいものでありますように)
遺影に小さく一礼して、周りに聞こえぬように自宗派の経を少しだけ誦じる。
旅支度は体を拭いて手甲を結んだだけ。副葬品は如月自身で選んだものは無かった。だからせめて、感謝と祈りを込めて経文を唱える。
顔を上げて目だけで周りを見ると旦那の姿はなく、父の指が示す少し先に母の姿。
少し時間が空いた隙に交代して、車に積んでいた茶菓子類を控え室に運んでくれていたらしい。
親族が炉前で別れを惜しみ、父が声をかけるタイミングを図ってくれている内に、如月も母のところへ移動。茶菓子をざっくり分けて各テーブルへ。
一人ひとりに精進落としの膳が用意されてるのはいいけど、な、なんだ?なんかめちゃくちゃ量がすごくない?
「なんか随分すごい御膳頼んだんだね?」
「そう見えるでしょ?でもこれ、お子様セット」
「嘘でしょ?!え、ま、えぇえ?!」
箱中は九つに区切られており、季節のご飯や刺身、茹で海老に肉類が綺麗に盛り付けられて、子供が食べるには本当に量が多い。
お子様セットと言われれば、ハンバーグと唐揚げ、オムレツにプリン……まぁ確かに定番どころはあるけど、全部盛りだぞこれ。
「上叔母さんが離れた隙に、お父さんと従弟くんと三人でこれを注文したんだよ。住職さん達はちゃんとした御膳にしたけど」
「いや、これで充分すぎるでしょ。量よ」
言われなかったら気付かないレベルだよ……言われても信じられなかったけど。
父と親族、住職さん達も部屋に入って父が挨拶をして献杯・食事。
最上座に住職さんで対面には父、如月は父の隣で対面には御弟子さん。
「良いお顔のお写真ですねえ、如月さん」
何気なく投げかけられた言葉、父の顔が固まって私を見る。
いやそんな「助け舟出せないか」みたいな目をされましても無理です。元写真がアレじゃ私だって無理矢理口角上げて唸るしか出来ないわい。
「あー……住職。此処だけの話、遺影の基写真なんだけど、その…女性に囲まれてる、やつで」
「ははぁ、なるほど。それは、御親族には秘した方が徳ですね」
ソーデスヨネー、私モソウ思ウ。
そんな話をしているうちに母と交代した悠遊さんが入室。
幸い、従弟と彼の甥っ子とは合う話があったようで、変に無言の時間にならずに済みそうで一安心。ゲームって偉大。
「お兄ちゃん、ちょっとごめん」
「御食事中失礼致します」
上叔母と火葬場係員さんの声。父につられて振り向くと、係員さんの手には何故か骨壷の蓋と油性ペン。
「喪主様、骨壷の蓋裏へ故人様の記名をお願いしておりまして。どなたかお願いできませんでしょうか?」
そうか、お墓に収められている骨壷が一つとは限らないから、記名が必要なのね。
おそらく上叔母は先に話しかけられて、「喪主に確認を取りたい」と尋ねられて案内しただろう。
「お前が書いてやればいいだろ、最後の面倒見てやったって言ってんだから」
「いやよ。私の字あまり綺麗じゃないの知ってるでしょ?娘達に聞いたけど遠慮するしさ」
うん、おそらく普通の反応だと思う。つか、困って断ったんだと思う。
家を出て全然違うところに住んでて会ってなかったのに、突然「おじいちゃんの名前を書いてくれ」と言われたら反応にも困るだろうよ。
連日の悶着で二人とも導火線が短くなって来ていたのか、お互いに言葉が荒くなり始める。
係員さんも困り顔になってるし、場もなんか変な空気だし、お骨上げと納骨にこの空気引っ張るの流石に勘弁……!
「お父さん、私書くよ」
「いいのか?」
「うん、爺の書面代字もやってきたし、最後の務めってことでさ」
「……ええと、それでは娘様にお願いしてよろしいですか?」
「はい」
係員さんについて親族達から少し離れた席に座って、様式見本を確認しながら曲面の蓋裏に一文字ずつゆっくり書き込む。
終わって席に戻ったら、今度は墓へ行く道のりについて親族だけ揉めてた。いい加減にしてくれ本当。
火葬時間は故人の体型によって時違うが、痩せ型だった祖父でもおよそ1時間。
最初のお骨あげは喪主と配偶者または血縁者から。
父と私でやってもよかったのだけど、「お父さんの面目が立たないし、後で愚痴愚痴されたら悪い」と母が担当。チビらぎと悠遊さんは如月母が戻るまで収骨室から少し離れた休憩スペースで待機。
叔母2人・従姉妹達が担当していくのを見届けていたら、従弟君がそっと隣へ。
「巽さん、旦那さんとの方がいいですよね?」
「あー…体裁的にはそうかもね」
あ、本音出てしまった。
「本当すいません、〇〇さんが迷惑かけて……」
「あはは……」
この時なんて返事すれば正解だったのか。
まさか「ホント迷惑だよ」とは言えないし。
というか、実の母を名前で呼んだなぁ。
そういえば二日間とも「お母さん」って呼んでたのは彼の姉達2人だけで、彼は呼んでな……深い事情があるんだろうな。
入れ替わりで来た悠遊さんとお骨上げをした後、相手を替えて骨壷へ骨を収めていく。
拾いきれない遺骨・遺灰を収めていただき、叔母達が眼鏡を入れて収骨が終了。骨壷は下叔母家族が運ぶ事になった。
火葬場から出れば駐車場で遊ぶ母とチビらぎの姿。
収骨待ちに飽きて外に出たがったらしい。家族みんな居るのにずーっと待たされてる状態だからなぁ…時間帯的に眠気も来ていて、ちょっとグスグスモード。
葬儀・告別式から納骨までをその日中で行う場合、どうしても半日以上掛かる長丁場。
人と死に別れることを理解するには難しい年齢の子供には、火葬中の待機時間以外は[遊べない・動けない]の苦行でしかないし、何もしないのって疲れるんだよね、子供は特に。
如月と同い年の従姉は遠方住まいで帰りの移動を考えて、その従姉の妹は娘さんが疲れて眠くなったため、上叔母の娘二人とそのご家族はここで解散。
「あんた達、最後まで居ないなんて」と実母である上叔母はブツブツしていたが「家族優先でいい」と遺族側は言っていたので問題なし。
忙しい中、時間を作って祖父にとっての曾孫達も連れて来てくれたのだから、親であるあなたは感謝を伝えた方がいいんじゃないかい?と思った。
ここまでの話の流れでわかるかもしれないけども、言うと後々が大変なので言葉を飲みました。ええ。
今度は火葬場から墓地への移動。
母と悠遊さん・チビらぎは、下叔母家族が「移動に自信がない」というので、母が先導で移動。
市外地の葬儀場なので自宅から行く時よりも移動距離は伸びてるんだけど、上叔母は何故か「私達が先に行く」と言って父を先導していく形に。
「本当に任せちゃって良かったの?お墓行く時にはまず通らない道走ってる気がするんだけど」
「知らねえよ、上妹が俺らを先導って言ったんだし。間違いなく遠回りしてっけど、知らん」
「あ、やっぱ判ってて先に走らせてたのね…」
これ、先導が迷子になってるのは気づいてるけど助けないパターンだ。
地元市からはそう離れていない町の葬祭場・火葬場を利用したとはいえ、小さい頃から見慣れている町なので、数えきれないほど車の中から見ている場所…にも関わらず、なんか見慣れない風景ばかりが目に入ってくるなー、と思ったよ。
移動ルートで揉めた挙句、「なんで道を知らないんだ、お兄ちゃんが悪くない?!」と八つ当たりされたのが大変に腹立たしかったご様子。
昭和なんで「年上なんだからやめなよみっともない」と言われるのが当たり前だった世代の父ではあるけど、流石に今日まであれこれ言われたら、少しは痛い目見ればいいと考えても、状況的に仕方ない。
このとき話の流れで聞いたのが、如月が蓋裏に書き始めてから上叔母が「やっぱり私が書く」と言い出して席に向かおうとしたらしく、「お前ホントにいい加減にしろよ!」と止めたそうだ。
だから係員さんが若干オロオロしてたのか……本当に申し訳ない。いい加減にしろ本当。
そんなこんななんだかんだとありつつ、たまりに溜まっている父の愚痴を聞いているうちに墓地へ到着。
お墓には墓石を担当していただいている石材屋さんが既に来ていたのでご挨拶。
母と下叔母家族はまだ来ておらず、住職さんとお弟子さんは一度寺に戻ってからくるという話だったので、実質的に一番最初の到着。
それから間も無く全員揃い、石材屋さんの説明を聞きながら納骨の儀へ。
─ 納骨の儀/納骨式
読経を行い、故人の遺骨を納骨室へ納める儀式を示す
多くの場合は四十九日法要などと一緒に行うが、[納骨の日はいつまでに]と言う決まりがあるわけではない
菩提寺がある場合は寺で法要を行い、墓地へ移動後に納骨・読経・焼香をして会食や解散となる形が多い
曾祖父の遺骨を収めてから、一度たりとて開けられていなかった納骨室。
物理的観点と理念的観点の両方向的に考えて、開けようと思う人はまずいない。まして石材は主に御影石。割れやすい上、重量も納骨室を閉じている蓋台座だけでも70kg以上ある。
易々動かせるような重さでないので、石材屋さんのスタッフが特殊な工具を使って開けてくれていて、納骨室の中の清掃や骨壷の整頓まで行なってくださっていた。
告別式・火葬から直接の納骨となるため、お寺での読経は省略。下叔母の代理で骨壷を運んでくれた旦那さんから白壷を受け取り、父と悠遊さんが納骨室へ入って祖母の隣へそれを置く。
如月家の男二人が合掌後スタッフさんも合掌したのち、蓋台座でゆっくり静かに閉じられる。
その後、読経と焼香を行って納骨の儀は無事に終了。
住職さんとお弟子さんへ御礼をお渡しして見送り、遺族親族で少しだけ懇談タイム。
悠遊さんはチビらぎの様子を見に母の車へと行き、父は叔母達に渡す写真を取りに自分の車へ。
「巽ちゃん、骨壷を支えていたサラシってどうすればいいかな」
下叔母の旦那さんの手には熱を逃がすためと運搬のために使われていた長いサラシ。
私もどうするものなのか知らなかったため、石材屋さんに聞いてみたほうがいいと促す。
普段であれば、わからない状態のものは受け取って、知っているであろう人へ自分の足で確認に行く。
この時もそうすればよかったのだろうが、この日はたまたま違った。
今思えば、普段の行動と違ってしまったことが、引き金になったのかもしれない。
「すみません、このサラシってどう扱ったほうがいいのでしょうか。お焚き上げとかですかね?」
「御骨を支えたサラシは厄除けになると言われているのでお持ちになるとよろしいかと。ご懐妊された際の腹帯として使うといいとも言われていますね」
「へえ、そうなんですね」
下叔母の旦那さんは、どうすればいいか判らないから、純粋に質問を投げただけだった。
石材屋さんは、自分の知っていることを教えてくれただけだった。
だけどその瞬間、納骨に参加していた親族女性陣の全員の目が、私に向いた。
「巽ちゃん、今からならもう一人いけるわよ!受け取りなさい!」
「…え?」
思考が止まる。
「今どき四十近くだって普通に産めるんだし大丈夫よいける!受け取っておきなさいよ!」
「いえ、遠慮します」
何、言ってんだ。この人たち。
「そうそう、今どき一人っ子なんて可哀想でしょ?!もう一人作りなさいよ!」
「そうよ、受け取っておけば絶対産まれるはずだし」
「だから、結構です」
今、身内を葬り出したばかり、なんだよ。
死を、生を、何だと思ってるの?
「うちの娘ちゃんなんか男っ気ないから望めないし!!もう一人産んで顔見させて!!」
「そうそう、私、彼氏できないと思うから巽ちゃん受け取ってよ!」
「いや、だから」
人の命を、人の身体を、何だと思ってる。
「巽ちゃんが子供できたら、お爺ちゃん帰ってきてくるよ!!」
「そうそう、きっと巽ちゃんのお腹に戻って──」
死んだ祖父にも!生きる私にも!私の家族にも!不敬だ!!!!
「いいですってば!!!!」
思いのほか大きな声が出た。
怖くて辛くて、気持ち悪くて泣きたくて、怒りに腑が煮えくり返った。
その声に親族達が静まり返り、取り囲んできていた女性陣三人は青ざめて離れた。私の怒りに触れたからではなく、突如大声を出されたことに「うわなんだコイツ怖」的な方で。
如月家男性陣は戻れる状況ではなかったし、親族男性陣は女性陣にドン引きして動けなかったらしい。
「あ……じゃ、じゃあ娘ちゃん貰っておきなさい、厄除けらしいし」
「ぅ、うん、そーする」
下叔母は如月に引きながら自分の娘にサラシを渡すよう旦那に促し、そそくさとその場を一旦撤退。
上叔母は「本の冗談じゃない、本気で怒ってなんなの」と愚痴っていたが、冗談なんかで踏み込むべきじゃなかったところに来たのが悪い。
しばらくして父が戻り、四十九日の日取りをアナウンスして解散。
全員が帰るまで見送り、その後、強烈な吐き気を抑えながら私は泣き崩れてしまった。
送り出す形はいろいろあるだろう。それはわかる。
でも、亡くなった人を見送ったその場で生命を紡げと物申すのは、流石に不敬ではないのだろうか。
父の車でも泣きじゃくりながら、墓地を後にした。
【モラルハラスメント(精神的苦痛)発言について】
作者と夫は「子供が欲しい」と思ってから約4年間ほど不妊に悩み、不妊治療に踏み切る直前に娘を授かった、という背景が有ります。
そのため作中に書いた親族の発言は、ようやく子を授かった作者にとっては大変な精神的苦痛となるものであったため、前書き段階で注意喚起をさせていただきました
出産エッセイ[腹からイソギンチャク 試し読み版]では掲載していなかった事、今話を読んで「なぜそれがハラスメントなの?」と思われる方もいらっしゃるかと考えたため、簡易的ではありますが此方での説明とさせていただきます




