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無涙葬送  作者: 如月 巽
13/16

無涙葬送

読んでくださりありがとうございます。


EP.10より【死】【葬儀までの流れ】【縁者問題】について触れています


今話は【葬儀・出棺】となります


【縁者によるスピリチュアル発言】というやや特殊状況が発生するほか、【モラルハラスメントに取れる発言】があります

生理的嫌悪感・恐怖心を感じた場合は、閲覧中止または休憩を取るなど、読者様の精神面を第一にお考え頂けますと幸いです


祖父逝去から4日  2025年5月27日・葬儀当日



[泣きすぎて、酷い顔になっている。]

[通夜を終えたら、祖父が居ないという実感が漸く湧いて、悲しくなった。]


 そういった書き出しから始められたら、良かったんだけど、そんな感情は全く全然一切合切湧いてくる事はなく。

 普段の休日と変わらない時間に、普段通りに起きた……いや違うな、異様な疲労感はあった。



理由は思い当たる節しかない。

如月父の親族による副葬品相談に苛立って、思わず牙を剥き出したせいだ。

普段は怒りに対して自己解析してから行動するようにしてるけど、普段と違う状況だったし怒って良い場面だろって話。疲労感で済んでるだけマシ。



 葬儀が始まるのは午前10時から。

 遺族なので早めに会場に入り、スタッフの方への挨拶と共に焼香時に母と一時交代する旨を伝えて、駐車場で追いかけっこ開始。

 昨日よりも長丁場で待たせてしまうからタブレット端末の電池が保つか心配だったけど、母がモバイルバッテリー持ってた。良かった。


 遊んでいる内に親族達が次々到着。

 チビらぎを母に任せて、父と旦那と共に葬祭ホールへ。

降車した下叔母の手には大きなレジ袋が2つと紙袋が握られ、受付への挨拶もそこそこに、玄関ホールを抜けて待機席に座る私の方に来る。


「巽ちゃんおはよう、昨日はありがとうね!あのあとすぐ買い物行ったんだけど、教えてくれた茶葉そこ売ってなくてねぇ。熱々で淹れてきたから大丈夫かしら?」

「大丈夫だと思いますよ。ありがとうございます」

「良いのよぉ!あ、お煎餅ってこれで大丈夫だよね?お父さん(※祖父のこと)こういうこと煩いから、ちゃんと聞いてから入れてあげた方が良いじゃない?」


 娘に確認してもらえば?と言いそうになりながら、後腰で拳を握り耐えて、できる限り平常を努めて答えていく。後から来た上叔母も加わり、15分くらい掛かって納める物を決めてもらって漸く解放。

 気分変えに外の空気を吸おうと玄関に向かうと、チビらぎを抱っこした母の姿。


「らぎちゃんが急にこっちに行きたがって…」

「そうなの?らぎさん、どうしたー?」


 まだ返事はまばら。この時は呼び掛けには無言だったけど、小さな両手を広げて抱っこをねだる娘を抱いて、一時外へ。


「かーちゃ」

「はぁい、なんですか?」

「ぎゅー」


 そう言いながら小さな両手で一生懸命抱きしめてくれるチビらぎ。

 前日は通夜式の最中に一度だけ母と玄関ホールに来たが、自動ドアから入ってすぐ、顔を強張らせて外へと出て行った。

 嫌な気持ちになっている事に気付いてるのだろうか。そう思ってしまうくらい絶妙なタイミングのハグは、優しくて強い。

 額を当てて抱き返せば、ニコニコ笑って頬をぺちぺち。

「……ありがとう、大丈夫だよ」

「巽、ぼちぼちだ」

「はーい。じゃあ行ってくるね。また後で来るからね」

「あい!」


 この時の如月は、チビらぎの純粋な笑顔と行動に、本当に助けられた。

 父側親族達の行動に苛立ち続けて、そのまま葬儀に行く事になりそうだった私を、娘は宥めてくれた。

 生前晩年の祖父に何も思う事が無くなっていたとはいえ、最期の旅路を適当に見送る様な人間ではありたくない。


「大丈夫?」

「ありがとう、大丈夫。らぎさんのおかげで落ち着いた」

 玄関ホールで待ってくれていた悠遊さんに頷いて、セレモニーホールへと入ってすぐ、席案内待機のため父の後ろに私・旦那と並ぶ。

 怪訝な顔をした上叔母に、の気配が一瞬で不穏になるものの、首を軽く横に振って「ほっときなよ」と声無しで伝える。


 本来であれば父の隣に座るべきは配偶者である母。

それが前日の通夜に引き続き葬儀・告別式も隣席には実娘が座る。

しかも焼香は実娘の配偶者より後である上に、娘の子(曾孫)に至っては、参列しない。


 本家分家・内孫外孫・血筋・婚姻関係。

 それらに拘泥こだわる上叔母からすれば、私達がやっている事は信じられなかっただろう。

だが、遺族である血縁者《私達》が「それで良い」と決めてそうしている以上、耳を貸す必要はない。





 告別式は何事も起きる事なく終わり、花入れの用意していただいてる間、一同各々は自分達の気が休まるところへ。

 母とチビらぎが待つ駐車場に行って母とバトンタッチ、車内に入ってチビらぎと束の間のお遊びタイムを──


「ごめんね、ちょっと良い?」

ゔあぁぁ!何なんだよひと休みタイムしてんだよ、アンタも休めよ近付いてこなくていいよ、娘と居たいんだよ空気読めよ!!


心の中でものすごい勢いで悪態を吐きながら、平静を装って返事をする。

「娘ちゃん可愛いのねぇ、こんにちは」

「………」

 人見知りモード発動か?

 固まってしまったチビらぎを見ると、真顔というより、やや怒り顔で上叔母をみたまま如月の服裾を強く握りしめてくる。


「あらら、緊張してる?大丈夫よ、おばちゃんは─」

「んーん」

 上叔母の言葉を遮って強く首を横に振ったチビらぎが、タブレット端末へ目を背ける。


 この子の親だから解る。今のは、完全な拒否反応。


「巽ちゃん。おじいちゃんに娘ちゃんを合わせてあげたら?ねー娘ちゃん、ひいお爺ちゃん一緒にお花で飾っ「かーちゃ、これちわーぅ!」


 タブレット端末が映す動画がお気に召さなかったのか、猛抗議のチビらぎ。

しかも、上叔母の提案に被る絶妙なタイミング。


「ありゃ違ったかー、どれにしよっか」

「これー!」

「ちょっと巽ちゃん、ホントに最期なんだし」

(……マジ面倒くせェ)


 何でこの人、こんなに食い下がってくるんだろう。

言うとまたグダつくだろうから言いたくなかったけど、もうこれは仕方ない。


「……小さい娘に、亡くなった人間の顔を見せるべきではないと、()()()()()()()()()()()()()()()

 既にもう見たくもなかった上叔母の顔を、目を見て、はっきり伝える。



─ 親父を家に上げるつもりはない



《嫌悪対象だった故人を、今更家に入れたくない》と言う意味合いも確かにあるが、それだけではない。


父は、自分の孫に、死者の顔を見せたくなかった。


父がまだ一桁年齢の頃。

祖母(曾祖母)が亡くなった際、父親(祖父)に「最後だから」と顔を見せられた。

祖父(曾祖父)が「見せるもんじゃない、見せなくていい」と止めているにも関わらず、顔の白布を外して見せられた白顔が、父にトラウマとして焼きついているらしい。

60年以上経つ今も鮮明に憶えていて、不意に思い出してしまって怖くなる時があるそうだ。


「俺と同じ思いは、らぎちゃんにさせたくない」


そう言った父の提案に、家族全員で同意。

それにチビらぎはチビらぎで何かあるのか、不思議なくらいに葬祭場へ近付きたがらない。


「ウチの下娘は娘が小さいけど、お爺ちゃんの顔見せてたわよ?お兄ちゃんに言われたからって守らなくても大丈夫じゃない」

「娘自身が行きたがらないのに、連れて行く必要はないので」

「そんな事ないでしょ。ねー?」

「ちわーう」

 上叔母に言ったのか、動画変更の意で言ったのか。またしても絶妙なタイミングの拒否語句。

 この一歳児、実は話が解ってるんじゃないかしら?と勘違いしそうですよ、母ちゃんは。


「御遺族・御親族の皆様、お待たせ致しました。御準備が整いましたので中にお入りください」

「呼ばれましたね。お先どうぞ、すぐ行きますんで」


 あげた卵ボーロをもしょもしょ食べるチビらぎを撫でて、座席を塞ぎ続ける上叔母に笑ってみせる。

 諦めざるを得ない状況になったからか、割と素直に引き下がって自分の家族達の下へ。

本人は気付いてないだろうけど、目と口に怒りが丸見えだった。

 説得(命令)を一切聞き入れない姿勢の私がよっぽど気に入らなかったんだろうなぁ。


「巽、大丈夫だった?」

「え?うん、大丈夫。花入れはどうする?」

お義母さん(※如月母)が花入れして戻るまで、らぎちゃんは俺が見てるから。巽ちゃんはお義父さん(※如月父)と先行って」

「わかった。らぎさん、またね」

「またねー」


‡  ‡


─ 出棺の儀

故人の旅路が穏やかであるよう祈り、思い出の品(副葬品)や花を入れて蓋棺する、本当の意味で最期の時間を過ごす儀式


 スタッフが持つ黒盆には、献台から摘まれた花々。

 祭壇から笑う祖父の写真が見つめるなか、ホール中央で当人が眠る棺の蓋が開かれる。

 各々が想いを語りながらお茶や嗜好品をいれていく中、入れたいものが何一つなかった如月は、棺の中の祖父を見る。

 血の気が無いだけで、ちゃんと見覚えのある顔。

 遠い昔、家族一泊旅行に出掛けた時に見た記憶がある、その時に近い寝顔。なのに。


(……どうにも、(じい)に見えないんだよなぁ)

顔が綺麗に整えられているからだけではなく、何かどこか違和感がある。

(喋らないから、とかそういう違和感じゃないんだよなぁ……)


従姉妹達は涙を流して別れを惜しんでいる。

叔母達は啜り泣いて延々と話しかけている。

けれど自分は、何も感じない。

自分の祖父の葬儀で、もうじき出棺だというのに、どうも他人の葬儀にいる様な感覚。


(……この数日でおかしくなったかな)

「おい巽」

 耳元に突然、父親ボイス登場。目だけ向ければ、父の手には蛇腹状の小型アルバムと小さな手帳。

 言葉なく顎で祖父の足元を示され、頷いてアルバムを受け取る。

 それは遺影作成用写真を探している時に見つけた物。

 箪笥の奥の方に仕舞い込まれていて、友人達や女性達と撮り合って、互いの住所を教え合った跡らしかった。


 足元にそれらを納め、黒盆から大輪の白菊を受け取って写真の傍へ添え入れる。

 隣にいた母は白いカーネーションを入れ、棺へ一礼すると、そのまま退席。入れ替わりで入って来た悠遊さんは、祖父の手元へ百合を入れる。


 全ての花を入れ終えて、遺族と親族男性の手で棺を閉じる。

 霊柩車へ運ばれていく祖父へ手を合わせて出棺を送り出して、親族達がホールから退席。

祭壇の大写真を見ながら、父と悠遊さんに呟く。


「……私おかしいかもしんない」

「どうしたの?」

「悲しくないし、なんにも感じない」

「大丈夫だ、巽」



息子の俺も、同じだから。









これだけ長くなっていますが、これでも間にあった事をかなり省いて書いています。

何というか、色々あり過ぎて……。


次回は【火葬・納骨】になります


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