3章 33話 1節 運命転覆
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星歴500年代に活躍した哲学者ワットソン曰く
「人生は100年と長いが、たったの一瞬、
たった一つの出来事が、その人の運命を変えてしまう事がある。
何十年と地道に歩んできた人生が、一瞬にして崩壊してしまう事がある。
それはなんと非情な事か。
政治とは、その一瞬で決まる要素を出来るだけ
軽減する事であるべきだ。
その一瞬で人生が決まってしまうような出来事の多くは、
それは社会に問題がある場合が大半なのである。」
星歴986年10月12日。
クールン人が住まう研究所へ、久々にフライが顔を出した。
彼はツキヨと交際していると周りには見られているが、
当の本人同士には交際している感覚はなかった。
どちらかと言うと、仲の良い友達の感覚である。
クールン人であるツキヨは、社会からは隔離され、
男友達というものが存在しない。
クールン人と仲良くなるためには、友人関係をすっ飛ばして、
男女の仲として交際しているという前提がなければ
会う事もままならなかったので、彼らはカップルを装ったのである。
キースとマドカが正式に結婚したのに比べ、
曖昧な態度で二人は、月に一度は会う頻度で交際を続けていた。
この日は、めでたいニュースもある。
他でもない、マドカの懐妊のニュースだった。
二人の仲を応援しているフライとツキヨにとっても
それは嬉しいニュースである。
だが、一つの懸念もあった。
キースとマドカに新しい命が授かった事で、
改めてフライとツキヨの関係を考えるキッカケになったのである。
ナイーブな問題だった。
言うなれば、フライとツキヨの交際は、キースたちの交際を
フォローするために運用されていたと言える。
社会から隔離されたクールン人と、一般社会で生きていたキースとでは
価値観の相違がある。
どうしてもズレてしまう部分がある。
その溝を埋めるべく、初々しいカップルの相談に乗ったのが
フライであり、ツキヨであり、
要は二人は、お人よしであり、
彼らのために交際を続けていたのだ。
だが、マドカ懐妊のニュースは二人の関係を
今一度考えるキッカケとなったのである。
お互いは嫌いあってはいない。
むしろ人として好感度のほうが高い。
でも、フライとツキヨは恋愛をするまでの感情には至らなかったのである。
その日も二人は研究所の食堂で待ち合わせていた。
「よ。
元気そうでなによりだ。」
フライの言葉にツキヨは片手をあげて応える。
「おはよ。今日はマドカのお祝い?」
自分に会いに来たとは言わないのがツキヨらしい。
フライは苦笑しながら椅子に座る。
「そっちはついでだ。
君に会いに来たに決まってるだろう?」
と軽口を叩くが、普段から女性にこういう感じで話す男ではない。
だから本心であるのは間違いなかった。
それでもツキヨはフライの本音を読み解く。
「無理しなくていいんですよ。
キースさんが異常なだけで、これまでの男性がたは
皆、出産適齢期を超えた女性の元には
通わなくなります。
クールン人と付き合うって事は、ハードルが高いのでしょう。」
「それは・・・・・・。」
「いいんです。わかってますよ。
皆さま、外の世界に家庭を持っていらっしゃるのですよね?
ここには、子どもを作りに来ているだけ。
理解はしているのです。」
フライは黙った。
この任務についてから、彼なりに調べた事がある。
クールン人第1世代とツキヨたちより年上の第2世代で
同じようにクールン人と交際を認められた男たちの事を調査したのだ。
何人かは殉職していたりしたが、
生存者は皆、クールン人とは別に家庭を持ち、
何事もなかったかのように過ごしている。
言ってしまえば、ツキヨたちには腹違いの兄弟たちいるのである。
だが、そのような戸籍はこの世界にはない。
その事が、フライがクールン人に対して本気になれない理由の一つでもあった。
フライの本音が漏れる。
「君の事は好きだ。
だが、産まれてくる子どもたちを好きになれる自信がない。
魔法という超能力を使う、全く新しい命を
俺は受け入れる自信がないんだ。」
「あら?そんな事・・・・・・。
あなたも子どもだけ作って、後はほったらかしにすればいいのに。」
「それでは、君の気持ちがっ!」
「フライさんは、私たちの覚悟をわかってないと見えるわね。
私たちクールン人は、今の状況も立場も受け入れているのよ。
やっていい事とやっちゃいけない事、
望んでいい事と、望んじゃいけない事・・・・・・。
わかってるつもりよ。」
ツキヨの視線が下に下がる。
この感性だ。
この感性がフライには理解できない。
異性と恋仲に陥ることなんてのは、決して高望みなんかじゃない。
ありふれた望みだ。
しかも本人が努力すれば、大体の場合は何とかなるものだ。
何十年も恋人が居ない奴ってのは、
基本的に最初から諦めて、何の努力もしていない奴だと相場は決まっている。
だが、それは自分自身の決断である。
望む事もできないのとは違う。
母子家庭を強要されるのとは違う。
それを受け入れるツキヨとは距離感を感じざるを得なかった。
簡単に言えば、理解できないのである。
フライはこれまで言語化出来ていなかった言葉を絞り出す。
「何故?
何故そう言い切れる?
キースは本気でマドカを好いている。
例外はあるんだ!
確かに敷居は高いかも知れないが、
誰にも愛されないってことはないはずだ。
愛す事も、愛される事も出来ないなんて、
そんなの人の生き方じゃな!!!」
ウーウーウー!
フライの言葉の途中で研究所内に警報音が鳴り響き
彼の必死の叫び声をかき消した。
施設内全域に大音量で鳴り響く警報音は、只事でない事を物語っている。
二人は周りを見渡すが、皆が困惑しているようであった。
「何が?何が起きたんだ!?」
フライの脳が震える。
戦場で感じた事ある悪寒だった。
宇宙海賊の罠に嵌った時のような不吉さ、ヤバさ。
前身の毛穴から毛先まで、逆立つような感覚を感じたのである。
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