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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~転承~

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3章 32話 6節

キースとマドカの結婚式が終わった

星歴986年10月5日。

キースは休日を利用して、マドカのいる研究所へと向かった。

結婚はしたものの、マドカは相変わらず研究所暮らしであり、

新居を構えるという事はなく、

キースは休みの度に研究所へと足を運んでは

一泊して軍の寮に帰るという生活を続けていた。

その日もいつものようにマドカの元へと向かうキースであったが、

その足取りは軽かった。

街でちょっと有名なケーキ屋さんのケーキも購入している。

自然に鼻歌もこぼれ出る。

研究所入口の守衛にも明るく挨拶したキースは、

満面の笑みでマドカの部屋のドアを開けた。


「ただいまー!

聞いたよ!

妊娠したんだって?

やったな!」


「あなた!おかえりなさい!」


この日、キースの機嫌が良かったのは、

マドカ懐妊の情報を予め聞いていたからである。

単純に妻の妊娠は嬉しいものであるが、

キースにとって、マドカとの結婚は任務でもあった。

彼らの結婚は国と軍の許可が必要であり、

そこにはクールン人の子どもを産む。

という条件があった。

つまり、彼ら二人には、子どもを作るという目的が課せられており、

マドカの妊娠は、その目的達成への第1歩である事を意味していたからである。

要はプレッシャーから解き放たれたようなものだった。

子が生まれれば、彼らの結婚は正当化される。

二人の生活も末長く続く事が保障される。

キースの喜びは至って当たり前の感情だったのである。

しかし、マドカの声色は決して明るくはない。

キースはマドカの顔を覗き込んだ。


「どうした?

初めての妊娠で緊張しているのか?

大丈夫。

俺が精一杯フォローするから。

一緒に頑張ろう!」


キースの声にもマドカの表情は晴れなかった。

キースはその表情に気付くと、彼女の顔を覗き込む。

彼にはマドカの表情を曇らせる要因が想像つかなかったからだ。

マドカはその事を責める事はなく、

そっと1本の細長いプラスティックで出来たスティックを取り出した。

キースの視線がそちらに流れる。


「ん?

妊娠検査キットか?

もう病院で妊娠は確定したんだろう?」


「違うの。

ここを見て欲しいの。」


マドカの指示でキースは検査キットの下部を見た。

そこにはメータがついており、生まれる子どもの性別を

測定した結果が載っている。

この時代には、妊婦の膣内の数値により

生まれてくる子どもの性別がある程度わかった。


「この出方は・・・・・・。

男の子!!!」


ようやくキースも理解した。

反応が遅れたのは、クールン人の特異性を思い出すのに

時間がかかったからである。

クールン人の特異性・・・・・・男子は生まれない。という事実。

キースは疑問をぶつける。


「男子は生まれなかったのではなかったか?

今まではどうなんだ?

この数値でも男子は生まれなかったのか?

まさか、死産って事は?」


「わからない。

でも、今までは誰もこんな数値は出なかったの。

この状態にならずに、女の子だけ生まれてた。

これは、初のケースなの。」


二人に沈黙が走る。

一番に思ったのは、死産になってしまうという事である。

軍の任務でやっている事とは言え、

身籠った子どもが死産になってしまうのは

単純に悲しい事である。

だが、マドカにはもう一つの懸念点があった。


「お母さんたち第1世代の人たちが言ってたの。

私たちクールン人が、ただの研究対象でいられるのは、

男子が産めないからだって。

もし男子が産まれる事がわかったら、

私たちは、人ではなくなる。って。

家畜のように管理されて

家畜のように出産して、産まれた男子は軍の兵器として

徴兵されるだろう。って・・・・・・。

そんな事になったら・・・・・・。」


「そんな馬鹿な話っ!

いくら軍でもそんな非人道的な事が・・・・・・。」


とそこまで言ってキースは黙った。

「あり得ない」と言い切れなかったのである。

クールン人は、魔法という超能力に似た能力を使う。

今はその力は、手のひら大の大きさのボールを宙に浮かせるぐらいしか出来ないが、

男子が産まれるとなれば、魔法の研究も本格的に進み始めるだろう。

今の力でも、敵の電波妨害を気にせず、

手のひら大の大きさの高性能爆弾を

敵の陣地に誘導する事が出来るのだ。

要するに電波の要らないドローンである。

しかも、自律型のドローンと違い、浮遊する為のエネルギーも

前に進むための推進力もいらないのである。

使い方によっては、強力な兵器である。

「あり得ない」とは言えなかった。

少なくともキースは、軍はそんな事しないと言い切れなかったのである。


「この件、俺たち以外に知ってる者は?

病院は?研究所は?」


「病院では軽い検査されただけで、

精密検査は10日後にしましょうって。

女の子しか産まれないと思い込んでるみたいね。

だから知ってるのは、私たちだけだけど。」


マドカの言葉に、キースは深く頷いた。

そして、慎重に言葉を選びながら言う。


「もし、男の子で死産になったとしても、

君には男子を産む可能性があるとして

君の身柄は軍に拘束されるだろう。

産まれたなら尚更だ。

俺たちは引き離される可能性もある。

・・・・・・。

逃げよう。二人で。

どこか遠くに。

今なら警備は緩い。

男子の妊娠が発覚した後では、警備は厳しくなって

もう逃げられなくなる。

今しかない。」


「あなた・・・・・・。」


二人を取り巻く運命の歯車が狂いだそうとしていた。


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