3章 32話 5節
星歴 986年 9月 3日
惑星フルブ主催のパーティから半年経った今も
二人のクールン人と二人の軍人の交友関係は続いており、
遂にマドカとキースの結婚式が行われた。
結婚式といってもクールン人の立場であり、
研究室の一室でつつましやかに行われたものであり、
参列者はクールン第1世代と呼ばれる4人と
第2世代と言われるツキヨを含めた9人、
そして研究所の関係者30人と軍人のフライの計44人だけである。
新郎側の関係者はフライのみという状況であり、
一般的とは言い難い。
それでもお祝い事なのは間違いなかった。
「マドカは幸せねぇ。
旦那さん、週に1度はここに来てくれるんでしょう?
私の夫なんて、1年に1回、顔を出すかどうか・・・・・・。」
という声も聞こえてくる。
キースとフライは宇宙軍所属ではあったが、
クールン人案件に関わるにあたって、フルブの地上勤務に
配属されていた。
任務は、クールン人との間に、子をもうける事。
方法は任されていたが、この任務についた兵たちは
キース以外の男性陣はクールン人と距離を取る方法をとった。
言い方は悪いが、深入りしなかったのである。
キースの同僚のフライでさえ、1ヵ月に1度
ツキヨの元を訪れるだけであるにも関わらず、
キースは週末の休みになると研究所へと顔を出し、
マドカとの時間を一緒に過ごしていた。
そして、キースが軍に陳情する形で
結婚式が開かれたのである。
クールン人として結婚式を挙げたのはマドカが初である。
他のクールン人は、内縁の妻のような立場で
ただ、子を産み育てるだけの存在だった。
必然、羨ましいとの声もあがるものである。
ただ、クールン人は13人しかいない少数民族。
結束力は高く、この程度の羨ましさは妬みにはならない。
「おめでとう!マドカ!
クールン人で初めての結婚式。
私たちでも結婚して幸せになれるって事だよね!
嬉しいよ。」
花嫁衣裳で着飾られたマドカは
満面の笑みで答える。
「うん。ありがとう。ノイン。
キースさんとも話しあってね。
是非、クールン人も結婚式をするべきだって。」
ノインもマドカと同じ第2世代のクールン人である。
クールン人の第2世代は、当たり前であるが、
第1世代4人の子どもたちである。
4人のクールン人から9人もの第2世代が生まれたのは、
それほどガイアントレイブ王国のクールン人研究が
本気だったという事でもあった。
キースやフライのように、クールン人に気に入られた軍人は
通常の軍務から抜け、軍務の最優先がクールン人との
子どもを作る事に置き換えられる。
従って、これは任務である。
愛ではない。
必然、出産適齢期を過ぎた女性の元には、
男性は訪れなくなっていく。
先ほど1年に1回会いに来るか来ないか?と話していた女性は
まだマシな方で、40を過ぎた女性の元に
子の父親は訪れなかった。
従って、マドカを含む第2世代の子どもたちの中には
ほとんど父親の顔を知らない子どもたちも居た。
だがこれは、男性側が非難される事ではない。
何故なら、男性たちは軍人で、
国の命令で子種を授ける任務を遂行していたのであって、
子育てにはむしろ関わるなと言われていたし、
何より、魔法を使う子どもたちを気味悪がっていたのだ。
特に、クールン因子は男性には危険な因子で、
対人感染はないと言われていたが、もし感染すれば
死に至る。
それらの事は、ノインも含むクールン人たちは理解していた。
だから羨ましくあるものの、妬みまでには発展しない。
キースが異端すぎるのである。
そういう男性と結びついたマドカに
心の底から「おめでとう」という気持ちは本物だったのである。
数は少ないものの、真心のこもった祝福に包まれて
マドカはキースと結婚した。
事実婚が多かったクールン人の中で
正式に結婚したことは、国家に夫婦と認められた事であり、
クールン人でも、結婚する事が可能だと
希望の光で照らす事にもなった。
将来に何も不安なんか感じなかった。
フライだけは、軍や研究所や国が何を企んでいるのか?と
訝し気にしていたが、マドカとキースはただただ素直に喜んでいたのである。
後世の研究で、この時の結婚は
何も陰謀めいた事はなかったと結論付けられている。
研究所の中にもクールン人に同情的な研究員はいたし、
クールン人に従順さを求めるのであれば、
人並みの人生を歩ませるべきであるとの意見も強く、
軍としても兵器利用できないクールン人には興味がなかったし、
国に至っては、存在を知らなかった。
クールン人が特別な存在になるのは、この後の事である。
そのキッカケになったのが、マドカとキースであったのは
歴史の皮肉と言わざるを得ない。
ただこの時マドカは
「こんなに幸せでいいのかな?」
と少しはにかんだ笑顔で、両手一杯のブーケに包まれながら
初々しい花嫁の理想像を描き、
キースは、少し頼りなさげな表情で
クールンの女性たちに背中を叩かれながら、
「マドカさんを幸せにします!
約束しますっ!」
と精一杯の虚勢を張った。
それは、とても新鮮で、眩しい光だったのである。




