3章 33話 2節
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けたたましいサイレン音と共に、
研究所の食堂に警備兵たちが流れ込んできた。
兵たちはフライの姿を見かけると、
銃を構え、一人が通信機を口に近付ける。
「フライ大尉を確保しました。
被験者ツキヨと同席です。」
言葉尻りにフライを探していたと判る。
フライは両手を挙げ、抵抗の意思がないことを表明した。
「何があったんだ?
俺たちは何もしていないぜ?」
「フライ大尉。
抵抗しなければこちらからは何もしません。
大人しく指示に従ってください。」
「ぶっそうだな。」
そう言うとフライは隣に居るツキヨを見る。
彼女も銃口を向けられていたが、落ち着いた雰囲気であったので
フライは一安心する。
「今は大人しくしていてくれ。
何が起きているかわからないが、結構緊迫しているようだ。」
ツキヨはフライに視線を合わせると、コクリと頷いた。
5分ほど身柄を拘束された後、基地の責任者である
バットマ少将と研究所の責任者であるゼグイ教授が
食堂に姿を現した。
バットマはフライを見ると少し笑顔を見せる。
「良かった。貴官は関係ないと見える。」
険悪な雰囲気ではない。
話が出来そうだったのでフライは単刀直入に聞いた。
「閣下。
何があったのですか?」
「脱走だよ。」
「脱走?誰が!?」
と言い切ったとき、フライは状況を把握した。
自分たちの身柄が拘束され、だがフライは関係ないと
少将には安堵の表情が見える。
それは少なくとも今回の件が、
フライに関係がある事を示唆していた。
フライに関係があり、そして脱走というワード。
この研究所で脱走という言葉が当てはまるのは、
一つしか思いつかない。
何故ならここは刑務所などではなく、囚人はいない。
捉えられているのはクールン人であり、
フライに関係あると言えば!
「まさか、キースとマドカ嬢がっ!?」
フライの言葉にバットマは否定もせず、唇をへの字に結ぶ。
フライの動揺が晴れない。
「何故?
二人は懐妊したばっかりで、これからの
生活はむしろ保障されているはず!
脱走する動機がない!」
「だが、通用口の警備兵を騙して、
二人が外に出たのは確実だ。
子を身籠り、外で暮らそうと言うのか?
このような事がないように、
ここでの暮らしには不自由をさせなかったはずだが。」
とバットマは言うとゼグイ教授に視線を流す。
ゼグイも同意見だった。
「隔離していたとは言え、
別に何か非人道的な事をやっていた。という事はありません。
むしろ、キース中尉とマドカくんには
結婚式を認めたという特例をもって
接していました。
二人は離れ離れに暮らしていましたが、
キース君を研究所の職員として取り立てる話も出ていた。
理解不能ですな。」
軽く左右に首を振る。
誰も事の真相には気付いていない。
フライはツキヨを見た。
「君は?
マドカ嬢に何か変わりはなかったのか?」
「何も。
そうね。むしろ、妊娠がわかったというのに
いつもと変わらなかった事が不自然だったかしら。
あの子なら、すっごく喜んでも良かったと思うけど、
誕生日を祝われたぐらいのリアクションだった。
違和感は感じたのよね。」
「では、やはり
キッカケは妊娠という事か。
でも何故?
クールン人が外の世界に出てはいけない理由を
キースはわかっているはずなのに。」
フライが黙り込む。
もしマドカが外の世界で子育てをしたいと願っても、
キースが止めるはずである。
女性しか産めなくなるクールン因子は優性遺伝子であり、
人の遺伝子に打ち勝ってしまう。
クールン人が世の中に解き放たれれば、
女性のみが産まれる世界になり、
人類は滅んでしまうかもしれないのだ。
言葉を失った面々の前に、兵が報告をもたらせた。
キース発見の報である。
「見つかったか!
森に逃げたみたいだが、包囲網が間に合ったようだな。
街の中に逃げ込まれると厄介だ。
教授、現場に向かいましょう。」
バットマは報告を受けると、ゼグイに向かって言った。
この研究所は町はずれにあり、
周囲は自然に囲まれている。
街まで逃げ込むには距離があったのである。
ゼグイが頷くと同時にツキヨも椅子から立ち上がった。
「教授!
私も同行させてください。
どんな理由があったのか知りませんが、
説得に一役買えるかと思います。」
フライも立ち上がる。
「私からもお願いします。
小官もキース中尉との付き合いは長い。
お役に立てるかと。」
二人の言葉にゼグイは返答を避けた。
ミイラ取りがミイラにならないとも限らない。
だが代わりに返答したのはバットマだった。
権限的にもここで回答を返すのは、彼がふさわしい。
「いいだろう。
フライ大尉、ツキヨくん。一緒に来てくれるかな。
場合によると、二人を射殺しなければならない。
その覚悟があれば!の話だが。」
「射殺っ!!」
ツキヨの表情が強張るが、フライには想定内の返答だった。
「もちろんです。
むしろ、射殺されないよう、我々で投降を呼びかけます。
お腹の中には子どももいるんです。
彼らとて、馬鹿ではないでしょう。」
「うむ。
だが、大尉。
武器は預からせてもらうぞ。」
バットマは右手を差し出すと、フライは脇腹に備えていた
銃を取り出しバットマに手渡した。
バットマは力強く頷くと、部隊に指示を出す。
「よし。移動する。
対象は西にある森の中だ。
残されたクールン人には、安心するように伝えよ。
ただし、研究所の警備を怠るなよ。
行くぞ!」
「ハッ!!!」
周囲にいた兵たちが敬礼で応える。
この時は誰も事態を重く見てなかった。
キースとマドカは西の森の中に追い込んであるし、
包囲網を抜けられるはずもなかった。
呼びかければ投降すると誰もが信じていた。
事件は解決したと誰もが考えていたのである。
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