3章 32話 3節
フライ大尉、キース中尉、ツキヨ、マドカの4人が
出会った次の日、フライとキースは
惑星フルブの軍事基地であるトロイ基地に呼ばれた。
司令官室に入ると、フライとキースは
基地の責任者であるバットマ少将に敬礼する。
「フライ大尉、キース中尉参りました!」
バットマは口髭の立派な士官であり、
デスクから立ち上がると、二人に敬礼を返した。
「うむ。
休暇中に呼び出してすまないな。」
フライもキースもバットマとは初対面であったが、
年上で上官のバットマは二人に礼儀をもって応えた。
何かしでかしたかもと内心不安だった二人であったが、
とりあえず安堵する。
「特に予定があったわけではありませんので
問題ありません。
で、用件は何でありますでしょうか?」
フレブ主催のパーティの二日目であり、
予定がないというのは語弊があったが、
パーティと言っても自由時間の多い街コンみたいなものであったので、
フライは嘘をついたわけではない。
フライの言葉に、バットマは机の引き出しから
タバコを取り出し火をつけた。
「ツキヨとマドカという女性を知っているな?」
「ハッ!昨日、街で会話いたしました。
彼女らが何か?」
「ん。
彼女らが、君たちをたいそう気に入ったみたいでな。
パーティの残り6日間、彼女らの相手をしてやって欲しい。」
バットマの言葉に二人は硬直した。
言葉の意味はわかるのだが、理由がわからない。
軍の上官に、このような指示を受けるなど聞いた事もなかった。
フライが言葉を選びながら答える。
「それは問題はございませんが、
理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
上官の指示に理由を尋ねるのは、捉え方によっては
相手にいい印象を与えない事があるが、
この場合、フライの質問は当然と言えば当然である。
フレブのパーティには軍の命令で参加しているのではなく、
個人の自由参加であった。
要は、私生活に口を挟まれるようなものである。
特に男女の出会いに関して、
例え絶対王政、貴族社会のガイアントレイブ王国であったとしても
よくある事ではなかった。
バットマはタバコの煙をフー!と吐き出す。
「惑星クールンを知っているか?」
「ハッ!開拓のために上陸した移民団がほぼ全滅した
クールン星の事であれば承知しています。」
「うむ。全滅ではなく、生存者が4名いた事わけだが、
彼女らは、その生存者の子どもたちなのだよ。」
フライの眉がへの字に曲がった。
生存者が居たのは知っていたし、
その生存者がその後家庭を築き、
子どもが居たとしても何ら不思議ではない。
不思議なのは、その事を軍が把握している事である。
それまで黙っていたキースが前に出る。
「クールン事件の生存者の子どもと言うのは理解しました。
ですが、軍が彼女たちを把握しているという事は
何かあるのでしょうか?」
キースの質問にバットマは一瞬、タメを作る。
表情が硬くなると、言葉を選んだ。
「クールン星の生き残りを調査したところ、
クールン因子という、詳しくはわからんが
特殊な因子が細胞内に存在するそうだ。
その存在のお陰で、クールン星から生きて
脱出できたと言われている。
まぁ、突然変異という奴だな。
それだけなら監視する理由にならないのだが、
問題があってな。」
「問題?」
「うむ。
まず生存者は女性だけなのだが、
この因子は男性には発現しないのだよ。
簡単に言えば、女性だけにしか定着せず、
生まれる子どもも女性だけに限られる。
こんな因子を持つ生命体を、世には解き放てないという訳だ。
男の子が生まれてこなくなるのだからな。」
「だから、軍で管理している。と?」
キースの言葉にバットマは頷いた。
話を聞いた二人が、想像していたよりも落ち着いていたので
バットマは軽く笑顔を見せる。
「研究の意味もあるが、彼女らも人間だ。
クールン因子があるからと言って、
隔離し、牢獄に閉じ込めて置くわけにはいかん。
研究者共はそうしたいみたいだがな。
それで、妥協案として
忠誠心の高い軍の兵士と家庭を築かせて
せめて人並の幸せは感じてもらおうという話だよ。
ただし、彼女らは一般社会とは隔離される。
君たちは普通の人間であるから、
こちらの世界で結婚し、家庭を持ってもらっても構わないが、
もし、クールン因子を持つ彼女らに気に入られたのなら、
特例として彼女らとも家庭を築いて欲しい。
クールン人のほうの家庭は軍が生活を保障するから
君たちに負担はない。という事だ。」
バットマの話は人道的なモラルで言えば、
あまり褒められたものではない。
だが、世の中には、惑星毎に妻と子どもがいる多重妻帯者も
存在しており、それと同じことをやれと言う話だった。
むしろ軍の命令として、クールン人との家庭を
構築するのであれば、それは任務であり罪悪感は薄くなる。
特にフライもキースも今は独身であり、
現時点でクールン人と家庭を築く事に何も障害はなかった。
キースが顔を上げる。
「小官としましては、何も問題はありません。
ご命令、謹んでお引き受けいたします。」
ハッキリと悩む素振りもなく言い切る。
キースの言葉を受け、フライも腹を括った。
「別に必ずお付き合いしろ!という訳ではないのですよね?
パーティの残り6日間、彼女たちの相手をしろと。
私はキース中尉と違い、彼女らに
特段気に入られた感じはありませんでしたので、
パーティ後も付き合いを続けられるかどうかは
保障致しかねますが。」
「それでいい。
あくまで彼女らが気に入ったらの話だ。
まぁ私としては、クールン人の事をあまり広めたくもない事もあり、
将来有望な軍人である二人にこの件は任せたいのだがな。」
バットマの言葉にフライは悪意を感じた。
確かに、女性しか産まれない生命体という存在は、
出来れば知っている者は少ないほうがいい。
下手に広まると、女の子しか産めない母親に対し、
クールン因子の疑いを持たれてしまい、
差別などが発生する可能性がある。
つまり、この件を知っている関係者は
数が少ないほうがいいのである。
それは、暗にフライにクールン人を口説き落とせ!と
命令しているようなものであった。
話を聞いたからには、素通りは出来ないと言っているようなものであった。
フライはバットマの言葉の意味を理解した。
「努力はいたします。」
「うむ。頼んだぞ。
あと、彼女らが隔離される理由はもう一つある。
彼女らは超能力を使う。
超能力と言っても、手のひら大の大きさのボールを
宙に浮かせたりする程度だがな。
紛れもない超能力の使い手だ。」
バットマは軽く言ったが、内容はあまりにも重大だった。
フライとキースも思わずあんぐりと口を開け、
次の言葉が出なかった。
この話を聞いてしまった以上、もう後には戻れないと
二人は確信するに十分な内容だったからである。




