3章 32話 1節 命誕生
星歴 986年 4月 3日
ガイアントレイブ王国 惑星フルブ。
辺境星の一つであるこの惑星で
自治体主催のパーティーが開かれようとしていた。
この星は辺境星という事もあり、星系自体の
開発が進んでおらず、未調査の空間があり
そこに宇宙海賊が根城を作っている地域にある。
必然、宇宙軍が駐屯し治安の維持を保っていた。
その宇宙軍を慰安するためのパーティであり、
出席者は軍の軍人であったが、実はもう一つの狙いがある。
未婚の軍人の婚活パーティーも兼ねていたのだった。
フルブのような辺境の惑星は交通の便も悪いところが一般的で
隣の惑星に行くのに1年近くの時間を要する事もある。
従って、家庭を持つ軍人よりも
未婚の独身男性が赴任する事が多かった。
そこに目をつけたのがフルブの政府で、
毎年軍人を招いたパーティを主催する事で、
未婚の軍人の出会いを斡旋すると同時に、
軍人との出会いを求める若い女性を観光客として
呼ぶことで経済の活性化を計ろうと企画されたのが
この慰安パーティであった。
ガイアントレイブは、絶対王政の貴族社会の国であり、
若い一般将校以上の軍人は貴族の身分である事が多い。
階級制度の厳しいガイアントレイブ王国で
貴族と庶民が交流できる場面というのはほとんどなく、
フルブの慰安パーティは国内でも有名な
玉の輿の機会がある場として、女性の中では有名だった。
この年も、例年通り慰安パーティは開かれ、
将校以上の軍人約300名と
各地から集まった未婚の女性3000人の壮大なパーティが
行われることになったのである。
パーティは7日間に渡って行われ、3つの都市で開催される。
パーティというよりも、合同コンパイベントというのが
実態であったが、表向きは慰安パーティとして健全な企画である。
そのパーティに二人の女性の参加者がいた。
フルブ在住の未婚女性、ツキヨとマドカである。
だが、彼女らは自主的に慰安パーティに参加を望んだのではない。
今もつまらなそうに、カフェでお茶を飲んでいた。
ツキヨが愚痴る。
「旦那を探せ!って言われてもさぁ。
恋愛って、さぁやるぞ!って簡単に始まると
言うものでもないでしょう。」
マドカは苦笑で応える。
「人類には発情期ってナイらしいからネ。
室長たちって、私たちに発情期があるとでも
思ってるのかな?」
マドカの言葉に、ツキヨはアイスコーヒーを
ストローでズズズーと吸い込んだ。
「むしろ、人間たちのほうがさ。
見てみなよ。あの3人組。
色目使っちゃってさ。
どっちが発情期よ。」
と視線の先の3人の女性をこき下ろした。
この二人は、自ら進んで今回のパーティに出席したわけではない。
だが、ここはコンパを兼ねたパーティであるので、
全体で見ると異端なのは
ツキヨとマドカの2人のほうであったが、
ツキヨの悪態は止まらなかった。
マドカはツキヨの機嫌を取るので精一杯である。
「でも、ツキヨちゃん。
お母さんたちもここで相手を見つけたんだしさ。
私たちが生まれたのだって、
ここのお陰でもあるわけだし、
強制的に相手をあてがわれるよりいいんじゃないかな?」
「そりゃ、そうだけどさぁ。」
ツキヨは不満げである。
彼女たちには自由がない。
異性と出会う機会がない。
だから、このようなコンパに参加し、
相手を見つけろと指示を受けていた。
ツキヨはソレが気に食わない。
自分たちに自由がない理由はわかっている。
どうしようもない事なのも、理解している。
だが、恋愛というものに憧れがあり、
ツキヨが望んだ恋愛は、こんな形で始まるものでは
なかったのである。
マドカもコーヒーを口に含んだ。
「別に相手を見つけなくてもいいんだから
気楽に楽しめばいいんじゃない?
外の出る機会なんかないんだし。
ただ・・・・・・。
今年も見つけられなかったら、
来年も強制参加だね。」
マドカは意地悪に笑った。
ツキヨはムスッと頬を膨らませる。
その仕草が印象的だったのか?2人に話しかけてくる男性が居た。
「よお。
ここ、一緒にいいかい?」
ムスッ!としたままのツキヨが男を見る。
テーブルに右手を置いて主張してきた男は一人だったが、
その後ろに連れの男性も一人見える。
2人組のツキヨとマドカは丁度いいと判断しての声掛けのようである。
ツキヨはめんどくさそうに応える。
「どうぞ。」
言葉とは裏腹に、あからさまに歓迎されていない口調だったので
男性は椅子を引き、座りながらも会話を続けた。
「ははは。
すまないね。
君たちもあまりこのパーティに乗り気じゃないんだろ?
俺らもさ。
だったら都合がいいだろ?」
片目を閉じ、ウインクを見せる。
キザな感じではあったが、顔立ちは良く男前だった。
軍人という事もあったが、他の男たちよりも筋肉質で
一見してかなりモテそうな感じではある。
ツキヨは意外そうな顔をした。
「あら?
さぞかし女性にモテそうなお方ですのに?」
「自分で言うのもなんだが、だから。さ。
女性陣がほっといてくれなくてね。
君たちと居れば、そういうのから解放されるだろ?
ほら、キースも座れよ。」
と言うと、隣の椅子を引き、連れの男性に着席を促す。
キースと呼ばれた男は軽く会釈をして椅子に座ったが、
視線は、悪目立ちしているツキヨではなく、
もう一人の女性、マドカに向けられていた。
「あらあら・・・・・・。」
ツキヨが目ざとくキースの視線の流れに気付いた。
最初に声をかけてきた男も、キースの仕草に
眉を上げて目を見開くが、一旦、そこには触れずに
ツキヨに向き直る。
「俺はフライ。階級は大尉だ。
宇宙軍陸戦隊の隊員で、
こいつはキース中尉、同じく陸戦隊の同期になる。
よろしくな。」
「私は、ツキヨ。」
と言うと、視線をマドカに投げたが、
マドカはキースの視線を受け、見つめ返すように
二人は固まっていた。
ツキヨはプッ!と吹き出す。
「この娘は、マドカよ。
ほら、マドカ、挨拶しなさい!」
名前を呼ばれてマドカは、ハッ!と我に返ったように
慌ててキースへ向けていた視線を外すと、
口元に右手を上げながら自己紹介を返す。
「マ・・・マドカです。
そ・・・その、よろしくお願いします!」
そのぎこちない仕草に、ツキヨとフライ大尉は
思わず二人、目を合わせるのだった。




