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春風戦争 第2部  作者: ゆうはん
~転承~

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3章 31話 6節

ティープが苦悩している時間、悩みの原因であるタクは

クールン人一向と、同じパラドラムの孤児であったフレーゼと共に

パノイラフの街を散策していた。

案内役のリベック中尉に引き連れられた一団は、

休憩がてらカフェテラスでコーヒータイムの小休止を挟む。

そこでも一番元気だったのは、フレーゼだった。

彼女はタクに付きっ切りで、軍で体験した出来事を

聞いて来た。

タクはずっとしゃべりっぱなしである。


「それで?それで?

どうなったの?」


「視界が敵のパイロットと重なって、

何も出来なくなったんだ。

目が別の場所についているような感覚だからね。

FGのコックピットに座って、

レバーを握っている感触はあるんだけど、

計器類とかも見えないし、動こうにも動けない。

しかも、自分が乗ってる機体を俺は見てる。

鏡に映った自分を見てる感覚なのかな?

鏡は左右逆だろ?

混乱したんだ。

その時、目の前がパッ!と光った。

撃たれたんだよ。父さんに。

撃たれたのは俺じゃない。

敵のパイロットだったけど、俺も撃たれた気持ちになったんだ。」


「父さんは見えてたの?」


「いや、後から調べたけど、

レーダーの範囲外から撃ってきてた。

近くに俺がいるのにね。

神業だよ。アレは。」


フレーゼはふむふむと頷く。

ふと、タクは隣の席に座っている人物の事を思い出した。

ヒナも同席していたのである。


「あ、ごめん。」


その言葉の意味をヒナは直ぐに理解する。


「別にいいわ。

その戦いの犠牲者は、チサだけじゃないし

お互い様よね。

恨むのはチサを戦場に狩りだした

ガイアントレイブと決めているの。

それより、軍事機密でしょ?

いいの?一般人にそんなに話して。

守秘義務とかあるんじゃないの?」


チサとは、ティープに撃たれたクールン人の少女の名前である。

そしてその戦いでは、チサの他にタクとフレーゼの母親代わりであった

カレンディーナも亡くなっていた。

ヒナがお互い様というのはそういう事である。

タクはヒナの質問に力強く答える。


「母さんに一番懐いていたのはフレーゼなんだ。

こいつには知る権利がある。

それにこいつ・・・・・・・。

知りたいと思った事は、調べないと気が済まない性格で、

話しておかないと何するかわからないからね。

父さんを困らせるぐらいならいいけど、

皇帝陛下にまで詰め寄っていかれたら困る。」


苦笑いと共にタクは言い、フレーゼは自信満々のドヤ顔で

ヒナを見た。

「褒めてないけどな」とタクは心の中で思ったが

7歳の少女に言っても理解されないだろうし、

言ったら言ったでめんどくさい事になりそうなので

言葉を飲み込んだ。

それに、この好奇心旺盛な性格が、カレンディーナを困らせ、

そしてカレンディーナの心を射止めた原動力である。

母が好んだフレーゼの性格を、タクが邪険に扱えるものでもなかった。

もちろん、これは守秘義務違反である。

だがこの違反こそが、後世の人類に

春風戦争の生々しい声を届ける事になるというのは

歴史の皮肉であると言わざるを得ないのだが、

そんな事は全く考えていないタクはフレーゼに、

母の死の瞬間を分かり易く伝えたのである。

フレーゼはちょっと俯く。


「そっか。

お母さん、クールンの人も助けようとしたんだ。

凄いね。お母さん。

私だったら、魔法なんか使われたら、

怖くて近付こうとも思わないよ。」


フレーゼは7歳の割には、大人びている少女である。

それは孤児として捨てられ、現実を知り、奇跡や魔法などの

願いが叶わない事を知っているからの結果であったが、

この歳で「この世界には、奇跡も魔法もない!」と

断言できる少女は少ないであろう。

子どもの頃は、何かを信じてしまうものである。

対してフレーゼの対応に不満そうなのはヒナである。

彼女は15歳とフレーゼよりもかなり年上であったが、

アニメや漫画に登場する世界を救うヒーローや、

魔法少女に憧れを今も持っている。

実際、魔法を使う事ができるヒナなのだから

そういう感情は当然だと思うかも知れないが、

実のところ、ジャッジライトリバースの面々である少女たちも

全員が全員、魔法で何かできるとは思っていない。

空を飛ぶことだって、遠方と通信する事だって、

火を灯す事だって、電気走らせる事だって、

光を照らす事だって、道具を使えば

誰でも出来る事である。

むしろ、魔法は安定感と言う点で劣っていると言っても

過言ではなかった。

だが、ヒナは魔法の可能性を信じていた。

何かが出来ると、人類に貢献できると信じていた。

ネガティブな感情で言えば、

人間社会から隔離される存在であるクールン人に

隔離される理由を付けたかったのである。

「魔法には可能性があるから、隔離されてしまう」

そう割り切ったヒナは、今ではポジティブに

魔法の可能性を信じていたのだった。

だから、フレーゼの言い方が気に食わない。


「フレーゼ。

確かに未知のモノは怖いかも知れないけど、

それは未知なだけだわ。

実際に怖いものかはわからないものね。

あなたのお母さんは立派よ。

未知なモノに手を差しのべようとしたのだから。

手を差しのべて、理解し合おうとしたのだから。

クールン人を理解してみなさい。

皆、いい人なんだから!」


説教臭くなってしまったので、少し笑顔を交えて

ヒナが言うと、フレーゼの瞳が丸くなって

驚きの表情になる。


「じゃあヒナちゃん!

フレーゼにクールンの人の事、教えて!

一杯聞きたい!

今夜、一緒に寝よ!」


「おいおい。

ヒナたちは長旅で疲れてるんだぞ?」


タクが割って入る。

タクは軍人であり鍛えられているが

クールン人は一般人と体力的には変わりがない。

だがヒナは、指をフリフリと左右に揺らすと

フレーゼの提案に乗った。


「いいわよ。

人とクールン人の共存は、私たちの命題ですもの!

そのためなら、なんでもするわ。」


「やったぁ!!!」


フレーゼの喜び声に、孤児の引率役であるキャスリン医師が

立ち上がってフレーゼを見た。


「フレーゼ!

またあなた何か人を困らせてないでしょうね!」


「えー!そんな事ないよぅ!!!」


キャスリンは、今は亡きカレンディーナの後を継いで

孤児たちの面倒を見ている女性である。

真面目で、愛想も良く、人柄もいい女性であったが、

何故か孤児の子どもたちにはあまり人気がない。

ティープは

「常識人だからさ。孤児らは、常識の外に置かれた子どもたちだからな」

とキャスリンの相談に乗った事があるが、

苦労人なのは間違いなかった。

そんなキャスリンの対応を見て、ヒナは遠い目をする。


「大人たちより、フレーゼのほうが立派だわ。

彼女は解り合おうとしているもの。

それだけでいいのに・・・・・・。」


独り言のように言った言葉を、タクは黙って聞いていた。

なんとなく、ヒナが言いたいことが理解できたからである。


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