3章 31話 5節
惑星カンに降り立ったブレイズ一向は、
それぞれの宿泊施設に案内され、その日は自由時間となった。
クールン人たちに対しては、街の案内をすると
ウルスから聞いていたが、ティープはパノイラフの街の中にある
普通の公園で特に深い意味はなく、ただ一人ベンチに腰掛けた。
部屋の中にいると、気が滅入ってしまうからだった。
まだ外の空気を吸っていたほうが気が晴れたのである。
ベンチで座ると、視線の先はクラウの街を見下ろす形で
一望できる場所であるのがわかった。
なかなかにいいスポットであるが、
ティープの気分は晴れない。
一旦は頭を真っ白にして、何も考えないようにする。
ただ、クラウの街を眺める事だけに集中した。
暫くボォーっと眺めていると、
後ろから彼を呼ぶ声がする。
声の主は誰だかわかったが、ティープは
特に何も考える事なく振り返った。
「ティープ!こんなところで何してんのさ?」
「ハルカこそなんで一人でここに?」
「街中、軍人さんばっかりでさ。
一人で出歩いても大丈夫だって!
それに私は、今スグにここに住むわけじゃないからね。
案内されてもさ。
だから散歩してた。
建物の外を自由に歩けるのは、久しぶりなんだ。」
ハルカの言う通り、パノイラフは
現在、厳戒警備体制がとられており、至る所に
警備の兵たちが武装して立っていた。
今この場所からも、距離は離れているが
5人の兵士が周囲にいるのが確認できる。
しかも、惑星カンはスノートール帝国の帝都として
惑星への出入りなどは、徹底的に管理されている場所である。
ここで、敵に襲撃される可能性は低いであろう。
ここで襲撃されるような事があれば、
敵はそれほどの力を持った組織であるという事である。
皇帝ウルスの暗殺など簡単にやってしまう組織であろう。
そんな組織がこの世界に存在しているとは考えにくい。
つまり、この地は安全だという事であった。
地理案内を備えた通信機も各自に支給されており、
迷う事もなければ、軍に居場所も筒抜けの状態である。
この街を出ないなら。という条件で
ハルカの単独行動は許可されたのである。
もちろん、ハルカは気付いていないが、
兵の尾行も付けられていた。
ハルカに配慮して、かなり後方からの尾行であったが
監視されている状況で警備は万全だった。
そして、K作戦要員であるハルカは、
すぐにカンを離れ宇宙に戻る事は決定しており、
このタイミングで街の案内をされても、
意味がないというのが本音である。
パノイラフが気に入ったとしても、ここに残るという
選択権はハルカにはなかった。
なるほどな。とティープは思ったが、
特に言葉をかけるわけではなかった。
代わりにハルカの質問を受ける。
「ティープこそ、こんなところでどうしたのさ?
眺めがいい場所に思えるけど、
こんなところで黄昏てるなんて、らしくなくない?」
「俺をなんだと思ってるんだ。
感傷に浸るときもある。
本来なら俺は、今頃は前線から去って、
ここカンでFGのパイロット養成学校の教官を
やってるはずだったんだ。
それが今も前線勤務だ。
思う所があってもおかしくないだろ。」
「あ・・・・・・・なんかごめん。」
ハルカは一瞬でティープの言葉を深読みした。
たまに忘れそうになるが、ティープの人生を狂わせたのは
紛れもなく、クールン人が原因である。
直接的にはチサという少女が原因なのだが、
同じクールン人であるハルカにも負い目はあった。
ティープにしては軽率な言葉だったかも知れない。
男はハルカの気持ちを察した。
「いや、すまない。
そんなつもりじゃないんだ。
クールン人だけが原因じゃない。
俺が軍人として前線にいるのは、
ガイアントレイブと戦争をしているからだし、
それはクシャナダ女王のせいだ。
俺が軍人になったのは、
家族を宇宙海賊に殺されたからだし、
どこかで、少しでも違った結果が生まれていたら
今の俺は違っていたって事であって、
今、ここに俺が居るのは、
『たった一つの要因だけの結果』じゃない。
色んなものが積み重なった結果なんだから。
ハルカらを恨んだりはしていないよ。」
殊更、ティープは「たった一つの要因だけ」というワードの
語気を強調した。
ハルカにはピンと来なかったが、ティープの今の気持ちである。
たった一つの要因だけで、人生を決められてたまるか!という
気持ちが籠った結果だった。
それはゲイリに、「世界はまるでタクを中心に動いているかのように思える」
と言われた事への反発だった。
そんな理由だけで!という感情だった。
理由はわからなかったが、いつもと雰囲気が違うティープにハルカも気付く。
「ティープゥ~。」
まるで飼い猫が、主人に甘える時に「にゃー」と鳴くような声で
ハルカはティープの名前を呼んだ。
タクもであるが、ハルカも生まれてこれまで
父親という存在を知らない。
父親どころか、周りにいた男性は研究員ばかりだった。
だから彼女は、甘える事に抵抗はなかったのである。
心配するようなハルカの声に、ティープは微笑みで返す。
「ま、だから気にするな。」
「ねぇねぇ。ティープ。
全部が片付いたらさ。
クールンの皆と一緒に住もうよ!
タクも来るしさ!
私たちだって、軍のエリートが一緒だと心強いし、
ほら、私たち女性ばかりじゃない?
ティープでも、モテモテだと思うけどー?」
ハルカは提案した。
気の利いた提案ではなかったが、ハルカは無邪気に言い放ったものである。
確かにティープは来年で30歳になるが、
クールン第2世代と年齢は近かった。
全員が未婚で、子持ちの女性もいたが、
全員が子持ちという訳でもなかったし、
男性と全く付き合わなかったクールン人も居ない事はない。
出会いの場として考えるなら、アリかナシで言えばアリである。
もちろん、ティープは苦笑で返す。
未だカレンディーナの事を引き摺っており、
新しい恋など青天の霹靂とはこの事であったが、
一回り以上の年下の少女に心配された事のほうが、
彼の感情を締め付けたからである。
「ああ・・・・・・。
ただ、俺は孤児たちの父親代わりだからな。
あいつらも一緒なら、それもいいかも知れないな。」
ティープの言葉には含みがある。
クールン人と一緒に暮らす。
そのクールン人の中にはタクが含まれている。
もちろん、ハルカはその事を知らない。
だから、額面通りにティープの言葉を受け取ると、
「やった!
約束だからね!!」
と満面の笑顔で応えたのだった。




