3章 30話 6節
カン星系。
先の内戦「スノートール王国王位継承戦争」にて
貴族領であった星系であったが、
その戦略的価値の高さから王太子ウルス陣営に組み込まれ、
本拠地として運用、そのままスノートール帝国の帝都として
制定された惑星カンを持つ星系である。
本来であれば、主星である恒星プラフィックスの名を取り
プラフィックス星系と呼ばれるべきであったが、
広い琥珀銀河の中には、カン星系のように
主要惑星の名を取った星系も0ではなかった。
カン星系は、宇宙河が複数交錯する交通のハブ星系である。
スノートール帝国成立前は、3つの王国が存在していたが、
それぞれの陣営が琥珀銀河へ侵入してきた経路がが違うため、
侵入口付近に首都を設定する事が多かった。
それぞれの首都は、琥珀銀河からみれば辺境に存在していたのである。
琥珀銀河の中心は未開拓地であり、辺境から中心部へと
開発が進められていった名残と言える。
だが、カン星系は琥珀銀河の中心寄りに存在し、
旧スノートール王国領のみならず、ガイアントレイブ王国領にも
神聖ワルクワ王国領にも近い。
この地に帝都を制定したのは、
皇帝ウルスに琥珀銀河の統一の意思があった。
と言われる所以である。
巡洋艦ブレイズの乗組員たちは、惑星カンに到着すると
多くは惑星カン最大の都市であるクラウ行のバスに乗り込んだが、
タクやクールン人の面々は、クラウ近郊に建設された町
パノイラフへと向かった。
パノイラフはパノイラフの丘と呼ばれる標高は高くないが
広大な敷地を持つ丘の上に建設された施設群の事で、
都市というには規模が小さく、町の規模である。
近年はここに住居を構える住人も増えてきているが、
基本的には、皇帝ウルスがパラドラムからの避難民である
パラドラムの子どもたちを受け入れるためだけに作った
施設群であり、住居と学校や病院、図書館や映画館などの
町の規模の割には充実している施設を持っていた。
もちろん、パラドラムの子どもたちだけではなく、
スノートール帝国領内に住む全ての孤児の受け入れ先として
運営されるよう作られた施設群でもあった。
このパノイラフの建設に当たっては、当然の如く
反対意見もある。
帝国領内の全ての孤児をここで引き受けるという事は、
孤児をこの場所に集めるという事である。
それは孤児たちを生まれた故郷から引き離すという事であり、
孤児対策は、各惑星の自治体が主導で行うべき
であるという主張が反対意見の主流であったが、
ウルスの妹であるセリアのお抱え政治家であるラージンは
「孤児たちは、他の一般国民の子どもたちに比べ、
スタートラインが後方にある存在である。
彼らが成人し、他の国民と同じように生きるのは難しく、
孤児らの平均年収は、全国民の中央値の60%という統計も出ている。
だが、彼らが孤児として生まれた事は、
彼らには何の罪もなく、私は社会がフォローアップする必要性を強く認識する。
その為には、孤児のための、孤児が生きやすい都市を建設し、
そこに孤児を集める事が最適解だという認識に至った。
優秀な教育者、教育機関などもパノイラフに集める事が出来る。
確かに生まれた故郷より子どもたちを引き離す事になるかも知れないが、
幼年期の内にパノイラフが受け入れ先として孤児を引き受ける事で、
彼らの故郷は、生まれた場所ではなくパノイラフになるだけの話。
何の問題もないであろう。」
と熱弁し、他の反対派の口を封じた。
確かに、既に学生の身分になった孤児であるならば、
育った街から引き離されるのには抵抗がある。
友人関係なども構築しているだろうし、街にも愛着があるであろう。
だがラージンの構想は、孤児たちが物心つく前から
パノイラフに移送するという計画であり、
ある程度の年齢に達したのちに孤児になった子どもに対しても、
親の転勤などで引っ越す子どもたちも大勢いる現実の中で、
じゃあ、孤児だけ引っ越しはしないと言うのも変な話であると述べた。
また、養子縁組を成立させるにも、
孤児たちを一か所にまとめ管理したほうが都合が良かった。
孤児のために利便性を高めた都市。
それがパノイラフである。
当初はパラドラムの孤児たちも1000人以上が存在していたため、
帝国の威信をかけた大規模な都市開発であったが、
パラドラムの保護者たる象徴であったカレンディーナが亡くなった事で
将来を不安視した子どもたちの養子縁組が加速し、
今はパラドラムの子どもたちも36名しかいない。
戦争により実子を亡くした家庭が孤児たちを率先して受け入れた事も
理由としては大きかった。
パノイラフ自体は、都市として開発が今も進められており、
入居希望者も多い状況であったし、
パラドラム以外からの孤児の受け入れも進んでいたが、
都市の規模に比べ、当初の目的であった孤児の受け入れ数は
少ない状況であったのである。
ウルスら首脳陣は
「孤児の数が少ないことは良い事であり、
それがパノイラフの存在価値を失わせる原因にはならない。」
と気にしていないようであったが、
ウルスが未だに民主議会を復活させていない事も理由としては大きいだろう。
民主議会があれば、パノイラフの費用対効果に対して文句が出るはずである。
そこで、持ち上がったのが、
パノイラフにクールン人を受け入れようという話であった。
パノイラフは帝国政府肝入りの都市開発であったので
兵員の宿舎などの軍の施設も多く併設された。
軍関係者が多い街でもあったのである。
そこで、クールン人の監視も出来るという算段であったのは
言うまでもない。
従って、タクらと共にクールン人一向もパノイラフに向かう事となったのである。




