3章 30話 3節
ヒナの疑問にタクは両手を組んだ。
これは所謂、相手を拒絶する類の仕草である。
ここからの話をヒナらにすべきかどうか悩んでいるのが
態度に現れた形だった。
だが、タクは口を開く。
「この数か月、独自で調べていたんだ。
国家規模の強力な組織の存在・・・・・・。
例えばワルクワには派閥があって、
国王ドメトスの勢力の他に、
ルギー公爵とミッツバリー公爵の勢力がある。
この二つは国家規模の組織って言えるかも知れない。
ガイアントレイブで言えば、
女王クシャナダの勢力が1強だけど、
今は力を落としているとは言え、
女王の弟タケイルの勢力も侮れない。
そういう意味では、スノートール帝国だって
ウルス陛下の支配力は万全だけど、
アトロ王は独自の組織を維持している。
3国の他で言えば、エーデン教。
琥珀銀河全体に信者を持ち、各国への影響力は強い。
他にもグローバルな経済活動をしている企業でも
国家と比類するような企業はあるね。
例えば、軍需産業の大手、
ワルクワのメリーベルエレクトロニクス社なんかは
新型FGをスノートールに納品したりして
国家の枠組みを超えてきていたりする。
ただこれは、ワルクワの承認は得ているんだと思うんだ。
無断でやったところで、バレてしまうからね。
最後にレルム・オブ・エイジレス。
琥珀銀河内で完全な自治を認められ、
社会とは隔離された不老者の世界だ。
この中で、国家に干渉されずに物事を進められる組織は二つしかない。
エーデン教とレルム・オブ・エイジレス。
この二つだけは、国家の枠組みから完全に外れている。
自由に動けるとしたら、ここしかない。」
「二択って訳ね。」
ヒナはタクの話を聞いて、自分なりにも考えてみた。
「確かに、神の存在を信望するエーデン教からしてみれば、
神の統治する世界の理から外れたクールン人の魔法の存在は
無視できないだろうとは思う。
レルム・オブ・エイジレスは?
あそこは、我々の世界とはお互い不干渉で成立しているんでしょ?
クールン人の存在を気にするとは思えないけど?」
「でも俺は、レルム・オブ・エイジレスのほうが
怪しいって思っている。
あそこは完全万能AIゴッドマザーマリアが
不老となった人間を管理している。
どうやって管理しているのかは不明なんだけど、
噂レベルの話では、ゴッドマザーマリアは
不老を望む人間たちを、感情から支配して、
個性を奪い、人をただの人形のように操って
不老だけじゃなく、不死をも実現していると言われているんだ。
人の感情の支配が出来るのが本当だとしたら、
ハルカが受けた精神攻撃・・・・・・。
それが出来るのは、ゴッドマザーマリアしかいないと思う。
そして、不老・不死を実現するレルム・オブ・エイジレスにとって
未知の存在であるクールン人は
予測不可能な存在ではある。
レルム・オブ・エイジレスの世界にどのような影響を及ぼすかはわからない。
彼らがクールン人に興味を持つのは動機があるのさ。
ゴッドマザーマリアは、クールン人を
自分たちの支配下におけるのか確認しようとしているんじゃないかな?
というのが俺の予測。
勿論、エーデン教の可能性も捨ててはいないけどね。」
部屋の中を沈黙の時間が再び流れた。
ヒナは自分の頭の中で、タクの言葉を整理する。
肯定できる話ではないが、否定できる話でもない。
一旦、ヒナは話を進める。
「で、タク、あんたはどうするつもり?」
「証拠を押さえたい。
証拠を押さえて、敵がクールン人に干渉しないように
帝国から圧をかけてもらう。
そのためには、ハルカには悪いけど、
囮となって、敵をおびき出してもらわなきゃいけないんだ。
そういう意味でも、敵の目標が分散するのは避けたいんだよ。
君たちには、カンに居てもらうほうが
守りやすいって訳さ。」
閑話休題。
ようやく元の議論に戻ってきた気がする。
ヒナもタクの話を理解した。
だが、理解するのと納得するのは違う。
ヒナは弁舌が立つほうではないが、同じ歳のタク相手なら
気兼ねなく持論を言う事が出来るし、
元々頭の回転自体は早いほうである。
「でも、敵の勢力の力がわからないじゃない。
バイオソルジャーなんか投入してくる敵よ?
次にどんな手段で来るのか?予想出来ないわ。
ハルカを守るにしても、敵の戦力がわからない状態じゃ
守るにも守れないのではなくて?
私たちジャッジライトリバースの5人が居れば、
ハルカを守る事に繋がるんじゃないかしら?
マークサスでも私たちの力は実証できたんだし、
私たちが協力しあうってのはどう?
クールン人の敵なら、私たちの敵であるわけだしね。」
ヒナの提案は、悪い話ではない。
魔法の援護があれば、タクとしても心強いのは間違いなかった。
タクは不安要素を潰す。
「もしかしたら、ルカゼの件よりも優先するかも知れない。
それは承諾できる?」
「当たり前じゃない!
敵が存在してて、襲ってくるのであれば、
ルカゼの件より優先するのは当然でしょ。
捕まって解剖されるとか、冗談じゃないわ!!!」
ヒナの言葉を聞き、タクは椅子から立ち上がると
ヒナの前まで歩いて、右手を差し出した。
「じゃあ、協力し合おう。
先がどうなるか見えない状況だけど、
俺たちは仲間だ。」
右手はヒナの目の前に差し出され、握手を求める仕草なのだとわかる。
ヒナも右手を掲げ、タクの掌をしっかりと握った。
「ただのハルカのボディガードかと思ってたけど、
しっかりしてるじゃない。
こちらこそ、よろしく頼むわ。
私はヒナ。ジャッジライトリバースのリーダーよ。」
「俺はタク二等兵。
君たちクールン人の守護者でありたいと思う。」
「わ・・・・・私はマミです。
ヒナちゃんの友達で、ジャッジライトリバースのメンバーです。」
それまで黙っていたマミが慌てて自己紹介すると、
張り詰めていた室内の緊張感が一気に解かれる。
マミは周囲の空気を柔らかくする素質を持っていた。
「ああ、よろしく。」
タクは年齢に相応しい純粋な笑顔で、
ヒナとマミに視線を返す。
こうして、未成年の者たちの歴史に名を残さない
ささやかな同盟が締結された。
後世の文献では、あまり名を聞かない存在ではあるが、
狭義の意味ではジャッジライトリバースは
ヒナが創立した5人のクールン人の組織の事を指すが、
広義の意味では、ヒナ・カズ・アサ・エナ・マミの5人に加え、
タク・ハルカ・ハルカの親友であるメコの3人を含める。
春風戦争研究者たちの間では重要視される同盟であり、
新生ジャッジライトリバースが誕生した瞬間であった。




