3章 30話 2節
「で!
なんで私の部屋なのよ~!」
少女の悲痛な悲鳴が部屋の中に響く。
タクらが向かったのはハルカの部屋だった。
タクは一応申し訳なさそうな表情で少女に応えた。
「仕方ないだろ。
ヒナたちの部屋は相部屋だし、
俺の部屋に呼ぶわけにもいかないし。」
「当たり前じゃん!」
ハルカはタクが言葉を言い終わらないうちに
怒声を被せた。
あまりにも早い反応だったのだが、
この時は誰もその違和感に気付いていない。
「だ・・・・・・だから個室を持ってる
ハルカの部屋しかなかったんだよ。」
「う”~。」
ふてくされるハルカだったが、そこまで嫌そうではない。
むしろ「仕方ないなー」と言いながら、まんざらでもない
ツンデレの見本のような感じである。
マミがハルカの隣に座ると、機嫌を取るかのように話しかけた。
「ごめんね。ハルカちゃん。」
ニコニコと笑顔で言われた事で、
ハルカはそれ以上文句を言うのを止めた。
本心から嫌がっていたわけではない事がここでもわかる。
部屋の所有者の承諾が得られた所でヒナもマミの隣に座ると
タクに視線を送る。
「で?どういう事なの?」
タクはゆっくりと3人から離れた場所に椅子を引くと
座りながら落ち着いた表情で話しだす。
「マークサスに到着する前、
俺とハルカは一度、敵に襲われている。」
「え?聞いてないけど!?」
「誰にも言ってないからな。
襲われたと言っても、直接襲撃されたとかじゃない。
精神攻撃って言うのかな?
ハルカの精神に攻撃してきたんだ。
脳波を弄る・・・・・・みたいな。」
タクの言葉にヒナは首を傾げる。
「精神攻撃?
それって、魔法って事?」
科学の世界で精神攻撃が実用化されていないわけではない。
頭痛を引き起こしたり、吐き気をもよおしたり
眩暈や平衡感覚を奪う攻撃は実在する。
だが、それらの攻撃は毒のように体内に直接投入する以外では
ピンポイントで対象を狙う事は難しい。
毒ガスを敵だけに浴びせる事が難しいように
兵器として扱うには難しすぎた。
この時代でも実用は困難だったのである。
更に、軍の重要人物たるハルカをピンポイントで狙うというのは
実現不可能だと言わざるを得ない。
だからヒナは魔法の存在を疑った。
魔法だったら、可能かも知れなかったからである。
タクは首を軽く振る。
「いや。
ハルカが言うに、魔法の波長は感じなかったそうだ。
そんな兵器があるとは想像しにくいけど、
マークサスで見たバイオソルジャー、
魔法じゃない精神攻撃兵器。
共通しているんだ。
現代の兵器ではない、
独特のモノを使ってくる敵がいる。
得体の知れない敵が存在しているという事がね。」
「それは、大人たちには伝えてないの?」
「証拠がないからな。
だけど、バイオソルジャーに襲われた事で
伝える必要もなくなったんじゃないかな。
敵が居る事は、父さんたちも把握したと思うし。」
「・・・・・・・。」
部屋に沈黙が走る。
元々険しい顔つきのヒナの瞳が更に鋭さを増したように見えた。
「そうか・・・・・・。
私は、あのバイオソルジャーたちは
ガイアントレイブの差し金かと思っていたけど、
違うって言いたいのね?
第4の勢力があると。」
「ああ。
ガイアントレイブなら、俺たちがマークサスに到着するまで
わざわざ君たちを生かしておく必要がない。
俺たちを誘き寄せるにしても、
魔力の少ないハルカを狙うメリットが彼らにはないんだ。
恐らくだけど、ガイアントレイブは君たちクールン人を
持て余し気味だったんだと思う。
だから、帝国がクールン人を引き受けるってんなら、
どうぞ好きにやってください。って感じだろうね。
だから、あの場面でわざわざ狙ってくるとは考えにくい。
次にワルクワだけど、あそこには
ハルカの妹のルカゼが居る。
ルカゼの機嫌を損ねる訳にはいかないわけで、
ワルクワも犯人じゃないと思う。
ルカゼが姉のハルカを襲うとも思えない。
他にも疑問点はある。
襲撃犯はルカゼではなく
魔力の弱いハルカを狙ってきた。
つまり、クールン人の事を良く分かってない組織の犯行だと
予想できるんだ。
ハルカの身柄を確保して、クールン人の解析を
しようとしたんじゃないかと思う。
いきなり、ルカゼを狙うのは危険が大きいからね。
魔力の低いハルカなら、身柄確保の難易度は格段に下がる。」
この話はハルカも初耳だったようで、
目を見開いて驚きの表情を見せた。
「何?私、解剖されたりしちゃうの?」
「精神攻撃や、ナノマシン・遺伝子工学・細胞増殖を主にした
バイオソルジャーを使ってくる相手だ。
DNAの一つ一つまで調べ上げられるだろうさ。」
ハルカは半分冗談で言ったつもりだったが、
真顔で応えるタクの言葉を聞いて、ぶるっ!と身震いした。
想像しただけで嫌悪感が走る。
思わずタクを直視できず、ハルカは俯いてしまった。
タクはハルカとの会話を切り上げて、ヒナを見る。
「マークサスで、君たちも十分な魔法が使える事が
敵の組織にばれてしまったんだ。
下手したら、ハルカよりも魅力的な実験対象と思われているかもしれない。
帝都カンなら、警備はバッチリだけど、
宇宙に出てしまったら、守れるものも守れない。
俺は、ハルカの事は命をかけても守るつもりだけど、
全員を守れるのは無理だ。」
タクの最後の言葉を聞いて、今度はマミが思わずハルカを見た。
マミは話の内容よりも、目の前の少年が
たった一人の少女に対して、命をかけても守ると言い切った事に
反応したからだった。
相変わらずハルカは下を向いていて表情は見えない。
姫を守るナイトのような宣言をされて、平常心でいられる乙女は
そうは多くないだろう。
たまたま俯いた姿勢のままだったのが功を奏しているが、
ハルカも人に見せられないような表情になっているはずである。
マミは内心「あらあら、あらあらあら・・・・・・」と
小さくなっているハルカを興味津々に眺める。
だが、マミと同年齢のヒナは、そんなことより話の内容のほうが
気になっていた。
「ハルカと私たちが一緒に行動したら、
敵に狙われやすくなる・・・・・・って言いたいのね?
理解はしたわ。
で、何者なのよ?その敵って。
技術力からして、国家規模の敵のように思えるけど?」
敵が何者かわからないようでは、判断のしようがないと言うものである。
ヒナはタクに尋ねた。
話の流れからして、当然の質問だと言えた。




