閑話③
一瞬の間に浮かんでは消える過去の出来事に、マリエンは自分が気でも狂ったのかと思った。
だが、胸を刺し貫く冷たい感触が、彼女を現実に引き戻す。引き抜かれて、また刺し貫かれて。
徐々にマリエンの体温を奪って生ぬるくなる剣がキモチワルイ。傷口から生命が零れ落ちていくのを感じながら、マリエンは光の消えかけた目でシュタントを見た。
仮にも十五年も連れ添った夫は、マリエンには目もくれない。セリアをただ見つめて、呆然としていた。
(ああ、そうだわ……)
かつて、セリア・リーレンが生きていた頃も、シュタントはそうして彼女を見つめていることがあった。
小言を言うセリア・リーレンを煙たそうにしながらも、その目には尊敬と憧れに似た恋情が浮かんでいた。そして、セリア・リーレンもかすかな愛情を滲ませながらも、困った弟を見るようにシュタントを見つめていた。
ふたりの間に割り込もうと思ったのは、何故だっただろうか。
シュタントを誘惑し、セリア・リーレンを悪女に仕立て上げ。ダメ押しにアルフォンスと恋仲だと言う噂をバラまいた。結果、簡単にセリア・リーレンは失脚した。
手に入れた権力にマリエンは酔った。
美しい宝石、ドレス、意のままになる夫と息子。
聖女という地位。正妃という地位。
この世の中に、マリエンの思い通りにならないものなんてなにもないはずだった。
思った以上に上手くいったせいで、マリエンは忘れてしまっていたのだ。
自分こそが、この国で一番の悪女だったということを。
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