↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

凶行の夜に⑤

「少し、話をしましょうか」


 セリアは弾んだ声を上げ、ハルピンを見た。


 それからシュタントを振り返って、無造作に剣をふるう。ヒュッ……と小さな音がして、ハルピンののど元から勢いよく血がほとばしった。

 悲鳴ひとつあげる暇もなかった。

 ハルピンは強張った顔で指先をのどに向けて伸ばし、バランスを大きく崩して床に倒れ込んだ。


「悪女セリアは本当に悪女でしたか?」


 たった今、人を切りつけたとは思えないほど凪いだ声音で、セリアはシュタントに問いかける。もう一度剣を振って血を飛ばし、セリアはじっとシュタントを見た。強い視線にシュタントが戸惑うと、背中の短剣が強く押し付けられる。


「ぜりあざまは、あくじょ、じゃない」


 背後の男が、初めて口を開いた。舌足らずな声に聞き覚えがある気がして、シュタントは眉を寄せる。強要するような声音とともに、短剣の刃先が冷気をまとう気配がした。


「アルフォンス、黙りなさい。さて、シュタント陛下、お答えは?」

「ざじでたまねを、もうしわげございまぜん」


(アルフォンス……そうだ、アルフォンスだ!)


 セリアの侍従で恋人だった男。それなら、今晩の出来事は十五年越しの復讐というわけか。この少年が主導であるように見せかけているのは、罪を逃れるためか、はたまた別の理由か。


「悪女ではなかった。少なくとも、マリエンよりもずっと国と、民の益を考えていたよ」

「それが聞けただけで、来た甲斐がありましたわ。では、参りましょうか」


 セリアはノックもせずに扉を開ける。鍵がかかっているはずの扉はすんなりと開いた。


「無礼者!このような時間に、許可も得ず部屋に入ってくるとは!いっ、今出ていくなら、その首ひとつで許して差し上げてよ!」


 外の騒ぎを聞きつけて起きたのだろう。マリエンが金切声で喚くが、震えは隠しきれない。対して、いっそ不気味なほどにセリアは落ち着き払っていた。先程人をひとり切ったとがとても信じられないほどだ。


「『こんばんは、正妃殿下。おめでたい夜にわたくしになんのご用かしら。ああ、もしかしてすべて失ったみじめな女を嗤いにいらしたの?』」


 不意に、セリアが口にした言葉に、マリエンは化け物でも見るような目を少年に向けた。


「『一緒にいるのは、アルフォンス……いいえ、あなたはフェルナンドね。あまり仲がよろしくないと思っていたのだけれど、正妃の座が決まったとたんに浮気?素晴らしいお妃様ね』」

「い、いやっ、どうして……!?」

「『わたくし、すべてをあなたにお譲りすることになったのよ。それなのに、どうして殺されなければならないのかしら。せめて理由をお聞かせ願える?』」

「なんで知ってるのよ!やめて!その口を閉じなさい!」


 歌うように紡がれる言葉に、マリエンの恐慌は激しくなる。長い髪をかき乱すように耳を塞いで、マリエンは血走った目で何度も首を振った。


 一歩、セリアはマリエンに近付く。かちゃりと剣がたてた音が、妙に大きく響いた。


「ねえ、マリエン。マリエン・マーシェン・ミレーネ。あなたがセリアを殺したのではないわ。そうでしょう?あなたはただ、わたくしの部屋にフェルナンドを連れてきただけ。殺したのはフェルナンドよ」


 セリアの言葉に、希望を得たマリエンの瞳が爛々と輝く。


「そう!そうよ、私はなにもしてない!悪いのはフェルナンドよ!」

「本当にそう思っているの?おめでたいこと。フェルナンドがセリアの魔臓を欲しがっていることを知って、取引を持ち掛けたのはあなたでしょう?」

「セリアの魔臓……?」

「ええ、陛下。セリアが死んだ後、彼女の魔臓はフェルナンドの弟、セラフィズに移植されました」


 ゆっくりマリエンに近付いて、剣を構えたセリアがふとシュタントに顔を向ける。そういえば、フェルナンドは病気の弟を抱えていたはずだ。


「ひっ……ぃやっ、やめて!お願い許して!なんでもするから!おねぐぁ……あ?」


 ざくり。セリアの剣が、マリエンの胸を貫いた。


 陸に打ち上げられた魚のようにはくはくと口を開閉させて、マリエンは見開いた目から涙を流す。一度引き抜いて、彼女の体が倒れ込む前にもう一度。少年はマリエンへ剣を突き立てる。


 言葉もなく絶命したマリエンの背を踏みつけ、セリアは話の片手間に死体をめった刺しにした。


「セリア・リーレンは死にました。でも、セラフィズは生き延びたのですよ。魔石病で成長が止まり、強大な力を持つ魔臓を移植した影響で手足を失い、治療のためにかけた魔法のせいで老いることもなくなりましたが、どれも大したことではありません」


 大したことでないはずがない。無表情でマリエンを冒涜し続けるセリアを、シュタントはただ見つめた。


「ああ、そんな顔をなさらないで。恨んでないとは申しませんが、あなたとご子息には生きていていただかないと。だって、お人形さんがいなければ、人形劇はできないでしょう?」


 ふと、顔を上げたセリアは、彼自身が人形のようにきれいな顔で微笑んだ。


お読みいただきありがとうございます。

誤字脱字などありましたら教えていただけると喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。