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凶行の夜に④

前話がやたら短かったのでもう一話……|д゜)

 三人分には多い食事が廃棄に回されるのを、シュタントはなんとも言えない気持ちで見送る。毎食のこととはいえ、実にもったいない。


 しばらく忘れていたが、最近、シュタントはセリア・リーレンのことをよく思い出す。彼女がいたら、このような食事を決して許しはしなかっただろう。


 貴族に舐められない程度の贅沢は必要だが、普段から多くの食事を作らせ、残すなど言語道断。貴族が残すパンひとつでも、ひとりを生かす糧になり得ると彼女は口酸っぱく言っていた。

 清貧をモットーとするセリア・リーレンを尊敬し、妹のように思っていたにも関わらず、貴族らしい生活様式を好むマリエンを好ましく思った理由すらもう覚えていない。


 最近は、意識的に考えないようにしていたのだが、今日、こんなにもセリア・リーレンの顔が頭に浮かぶのはやはり、マリエンが恩赦だと言ったあの悪趣味なショーを止められなかった罪悪感からだろうか。


「陛下?どうかされたの?」


 珍しく、シュタントの様子に興味を示したマリエンが、スプーンを置いて問いかける。夏に近い季節に氷菓子を用意させるなど、セリア・リーレンなら絶対にしなかったのに。


「いや、少し疲れたようだ。悪いが先に休ませてもらうよ」

「そうですか。お大事になさって。明後日には宴があるのですから、お早く回復してくださいね」


 暗に、パーティーまでに治せと言われ、シュタントはため息を飲み込む。鈍く痛む頭を押さえてベッドにもぐりこむと、睡魔はすぐに訪れた。


 ひやり。


 首筋に冷たいものが触れて、シュタントは目を覚ました。


(今は……夜中か?)


 カーテンの隙間から漏れる月光が、まだ夜明けには遠いと教えてくれるが、正確な時間は分からない。どうして、細身の少年にのしかかられ、剣を突き付けられているのかも。


「……君は、天使か」


 自分を迎えに来てくれたのかと、あり得ない妄想を巡らせて、シュタントは微笑んだ。

 そうであったらどんなにかいいだろう。よくよく見れば、少年はセリアと同じ黒髪と虹色に揺らめく瞳を持っている。そのことがますますシュタントに現実感を捨てさせた。


「聖女のところへ案内しろ」


 命じて、少年はシュタントに起きるよう促した。腹から降りた少年は、扱いづらそうに長剣を、立ち上がったシュタントの首に押し付けた。


 はじめ、何故少年が身の丈に合わない武器を持っているのか不思議だったシュタントだが、立ち上がって並んでみると彼の身長がシュタントの胸ほどしかないことに気付いた。シュタントを脅そうにも、短剣では首まで届かないのだ。抵抗する気もないのにと内心ため息をつくが、伝えたところで待遇は変わらないだろう。


 ほの暗い目でシュタントを見つめる少年は、控えていた男にシュタントを拘束するよう命じた。後ろ手に拘束され、男の手で短剣を背中に押し付けられた。寝間着越しの背中に、刃の先端がチクリと刺さる。


 マリエンとシュタントの寝室は、三部屋続きとなっている。ふたりの寝室の間に共用の居間があり、それぞれの部屋に通じる扉がある形だ。

 続き部屋を通って行けば早いのだろうが、それはできない。いつの間にかマリエンが、シュタントの寝室の扉を接着し、開かなくしてしまったのだ。気付いたら、居間の側も扉の前に大きな棚が置かれていた。


 シュタントは一度廊下へ出て、マリエンの部屋に向かう。扉の前には、不寝番の護衛がふたり。


「陛下?このような時間にいかがなされ……」

「待て!様子がおかしい」


 手前に立っていたピンクの髪の騎士が訝し気に声をかけ、それを水色の髪の騎士が止める。緊張した様子で、水色の騎士はシュタントに問いかけた。


「陛下、そのふたりはどなたですか?お客様にしては物騒ですが」


 剣に手をかけ、水色の騎士は警戒心をあらわにする。戸惑った様子のピンクの騎士が、あっと声を上げた。


「坊主、食堂の……」

「その節はどうも、お兄さんたち。おかげで、本物の悪女を引きずり落とす決心がついたよ」


 にっこり。微笑む少年に、ロメオは背筋を震わせた。


「狙いは妃殿下だ!応援を呼べ!」


 衝撃からいち早く立ち直ったハルピンの声に、ロメオは弾かれるように駆け出した。


(一番近い詰所はどこだ?そこまで行けば……)


 早く。早く仲間に助けを求めなければ。ロメオは必死に足を動かした。


お読みいただきありがとうございます。

誤字脱字などありましたら教えていただけると喜びます。

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