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生誕祭の凶行

 マリエンの誕生を祝う祭りは、誕生日の前後七日に渡って行われる。

 

 最初の二日間、帝都に住む全員にパンとワイン、あるいはブドウを絞ったジュースが配られ、民は感謝し、神殿で祈りをささげる。

 三日目にはパレードがあり、この日から最終日までサーカスの興行が許されている。

 四日目は昼の鐘が鳴ると同時、城のパーティーが始まり、饗宴は朝まで続くという。

 五日目、六日目には家のドアにピンクのバラを飾ることが義務付けられ、再び食べ物が配られる。今度はパンとワインだけでなく、城の料理人が作ったスープと肉が一切れつくそうだ。その代わり、マリエンが心安らかに過ごせるよう一度は神殿で祈るよう通達されていた。

 最終日の七日目には、スリやケンカなどの軽犯罪で捕まった者たちに恩赦が与えられる。


 ところが、最終日と聞かされていた恩赦の執行は、祭りの初日に行われた。


 その日、朝からお祈りを済ませたセリアは、神殿の庭に用意された配給所で、パンとワインをもらう列に、アマリリアと一緒に並んだ。


 居住地が帝都でなくても、ギルドに登録している者は祭りの時に帝都にいれば貰えるらしい。配給係に見せる身分証はベンダーのものだ。

 列から離れたところで空を見上げるベンダーを指さし、代わりに並んでほしいと言われたことを伝えると、配給係は笑顔でパンと、小さな瓶詰のワインをくれた。


「ありがとうございます」


 セリアは配給係の中年男に礼を言った。渡されたパンを大事に抱えて、ベンダーに走り寄る。パンはチーズパンだったので、分け前を期待するセリアはさぞ嬉し気な顔をしていることだろう。


 ベンダーは苦笑して、全部食べていいと言ってくれた。初めからそのつもりだったのかもしれない。アマリリアも仕事で出ているジャクソンの分までパンとワインを貰い、合流する。



「屋台が出てるから、広場を見てから戻りましょ」


 アマリリアの提案に、セリアは大きく頷いた。

 広場にはアマリリアの言う通り、多数の屋台が出ており、人々が犇めいていた。アマリリアによれば、この屋台たちはサーカスの興行が始まる三日目には半分以下に減ってしまうそうだ。なので、色々見るなら今日か明日しかないのだと。


 さすがに今日は普通のワンピース姿のアマリリアと、アクセサリーの店を冷やかすセリアは楽しそうだ。


 ふたりの少し後ろを歩きながら、ベンダーはうまそうな匂いを漂わせる屋台を覗く。豚肉と玉ねぎを交互に挿した串焼きをひとつ買って、食べながら歩いていると、不意に広場の中心辺りで声が上がった。


 セリアとアマリリアは顔を見合わせ、幾重にもなった人垣の外から騒ぎの中心を覗き見た。少し遠いが、長身のアマリリアとベンダーは、なんとか見ることができる。

 背の低いセリアは背伸びをしたり飛び跳ねたりしてみるが、なにが起こっているかまではわからない。そのうちベンダーに頭をぎゅむっと押さえらえて、悪あがきもできなくなってしまった。


 広場の中央では、縛られた数人の男女が石畳に座らされ、真後ろには長い木製の台が置かれていた。


 黒い貫頭衣の上から頭巾で顔を隠した首切り役人が、左端の男の首に巨大な斧を押し当てた。男は震えるが、猿轡を噛まされた口からはうめき声がこぼれるだけで、助けを求めるには至らない。他の男女も同じ様子だった。


 苦り切った顔のセルクル主席法務官が男の氏名と罪状を述べ、「恩赦の執行である!」と叫んだ。それを合図に、首切り役人が大きく斧を振りかぶる。


 打ち下ろされた斧は、男の首に深く食い込んだが、骨に当たり一撃で首を落とすことはなかった。男の体がビクッ、ビクッ、と跳ね上がり、首切り役人は彼の背中を踏みつけて二度、三度と斧をふるった。

 やがて男の胴と首は完全に分かたれ、無造作に髪を掴んで持ち上げられた頭が投げ捨てるように台に置かれる。背中にくっきり靴跡を刻んだ体の方は、倒れたまま打ち捨てられた。


 切り口からだらだらと流れ続ける血が、石畳を赤黒く染めていた。


お読みいただきありがとうございます。

誤字脱字などありましたら教えていただけると喜びます。

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