閑話②
「なんですって?」
マリエンの口から飛び出した信じられない言葉に、セルクル主席法務官は顔を強張らせた。マリエンはやや衰えたものの、全盛期の面影が残る頬に愉悦を刻んで小首をかしげる。
「聞こえなかったかしら?」
「妃殿下、そのようなこっ……」
言葉を失うセルクルに代わり、部下がマリエンを嗜めようとする。その口を素早く塞いで、セルクルは緊張したままマリエンへ視線を向けた。マリエンは微笑んだままだが、機嫌を損ねていることを隠しもしない。
「聞・こ・え・な・か・った?いらない耳なら切り落としてしまいましょうか」
「いえ。ですが、私だけの権限では致しかねます。一度持ち帰っても……」
「あら、どうして?わたくしが許可を出しているんだから、他の人の許可なんて必要ないでしょう?」
一度持ち帰って、どうにかマリエンの企みを阻止する手立てを考えようとしたセルクルの耳に、再び信じられない言葉が届く。マリエンの横で空気のように存在を消している皇帝を見遣れば、彼は力なく首を振った。
「マリエンのやりたいようにしていい。セルクル、後でリストを提出するように」
「……かしこまりました」
もう、皇帝はとうに諦めている。
お願いと言いつつ、実質の命令だ。つまり、セルクルごときがどうにかできるものではない。ふつふつと腹の底から沸き上がる怒りを飲み下して、セルクルは頭を下げた。
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