ジャクソン家は普通じゃない③
「ごめんねー、あたしかわいいのが大好きでさ。つい理性が飛んじゃうんだよねー」
あはは、と笑うアマリリアは、やっぱりごつい。
どうにかこうにか落ち着いたアマリリアから解放されて、セリアはほっと息を吐く。ふたりは改めてジャクソンに四人掛けの食卓を勧められ、お茶を出された。
そこまではいいのだが、自分たちは今、いったい何を見せられているのだろう?
椅子の上にアマリリアが座り、アマリリアの上にジャクソンが座り。セリアが気を使って用意していた手土産のクッキーを、ジャクソンがアマリリアに食べさせている。とろけるような笑顔のジャクソンは、アマリリアが茶を飲んだのを確認するとあーんと大きく口を開けた。
ジャクソンの口に無造作にクッキーを放り込んで、アマリリアはとっくりとセリアの顔を眺めている。夫婦そろってマイペースもいいところだ。
「ビックリしただけなので、大丈夫です。僕のほうこそ、失礼な反応をしてしまってごめんなさい。ボルトの戦乙女様にお会いできて光栄です」
「ボルトの戦乙女?こ……彼女が?」
これ、と言いかけたのをどうにか飲み込んでベンダーが尋ねると、とろけた顔のままジャクソンが頷く。
「ああ。素晴らしいだろう?戦場で彼女を一目見て雷が落ちたんだ」
「うん、物理的に落としたね」
「それから、切りあった時は体中が痺れた」
「うん、押し負けて剣を落としかけてたよね」
「部下を庇って捕虜になったアマリリアの高潔な姿に恋に落ちたんだ!」
「うん、ならなきゃその場で部下の首かっ切るって脅してくれたよね」
「だから皇帝陛下から結婚の許可が天にも昇る心地だったよ!」
「うん、頭に血が上りすぎて実際倒れてたね」
アマリリアの赤毛をくるくるともてあそびながら、ジャクソンはアマリリアとの出会いを興奮した様子で語ってくれた。それにいちいち訂正というか、突っ込みを入れながら、アマリリアは遠い目をする。
ふたりの話を総合するに、ジャクソンとアマリリアは戦場で敵国の兵同士として出会ったのだろう。そして、目が合うと同時アマリリアは魔法を使って雷を落としたと。
ボルトの戦乙女と言えば、女だてらに男でも振り回される大きく重い戦斧を操ることで有名だ。剣で受ければ、そりゃあ体が痺れるくらいの衝撃はあっただろう。それでもジャクソンの実力ならば、短時間は対等に戦うことができたはずだ。主席騎士の名は伊達じゃない。
その後なにがあったかは知らないが、ジャクソンはアマリリアの部下を人質に、彼女に捕虜になることを強要し、国に帰ってからシュタントに結婚を願い出たらしい。最初は彼女の立場や、長年友好的ではないボルト公国との関係性を憂慮していたシュタントだが、そこら辺は外交官が上手くやってくれたそうだ。
元々、アマリリアひとりを十数人分以上の戦力として数えていただけに、彼女を失うとボルト公国は非常に困ると言ってきたが、あちらに有利な要求をいくつか飲むことで帝国への嫁入りを認めさせ、現在に至る、と。
どう見てものぼせ上ってるのはジャクソンひとりで、アマリリアは至極冷静だ。一体ジャクソンのなにがそんなに良くて結婚したのかと問いかけると、アマリリアからは「断頭台よりましだった」と返ってきた。
「それでうまくいってるのがすごい……」
なんとも数奇な話に、呆気にとられたセリアがぽつりと漏らすと、アマリリアは苦笑し、ベンダーはなんとも言えない顔で茶を啜った。
「昔から、ジャクソンは趣味が特殊だったからなぁ」
強い女を屈服させるのが好きな騎士や傭兵は意外と多い。普段鍛錬ばかりしていると感覚が鈍るのか、か弱い女性を相手では力加減がわからないからと鍛えている女性を選んだり、ただただ自分の強さを誇示したいだけだったりと理由は様々だが、一定数存在するのは事実だ。
かく言うベンダーも、騎士や傭兵並みとは言わなくとも、吹けば飛ぶような貴族のお嬢様よりは外で働く健康的な女性の方が好みだったりする。
それはさておき、ジャクソンの性癖はまた特殊で、彼は屈強な女性を屈服させたいのではなく、かわいがられたいのだ。
大きな胸板と筋肉質な腕で包み込んでほしい。
母親のように慈愛を持って接してほしい。
幼子と同じくらい手をかけて欲しい。
なんならベッドの中でも強気で「お前を抱いてやる」と不敵に笑うくらいの女が最高だと、昔酔って話していたことがあった。夜の事情は知らないが、他の部分だけ見てもアマリリアはジャクソンの好みど真ん中だ。捕まってしまった彼女にはご愁傷様としか言いようがない。
性癖が特殊過ぎて浮気の心配がほぼないのが唯一の救いだろうか。それと、騎士は高給取りだし退任後の年金も豊富なので、生活の心配も少ない。
どちらも、彼の相手を押し付けられた見返りとしてはささやかすぎる気がするが。
「慣れればどうにかね。さすがに最初はどうしようかと思ったよ」
最初からこの調子だったのなら、アマリリアはさぞ困惑したことだろう。想像に難くない状態にベンダーは妻に甘える主席騎士殿を見遣った。けなされようがどうしようが、彼は満足そうだ。
(腑抜けたっつーか、丸くなったっつーか)
「ほら、そろそろどいてちょうだい。ふたりの寝る部屋を整えないと、……あー、そうそう、いつまでもふたりきりになれないでしょ」
ぐずるジャクソンの背をなだめるように叩いて、アマリリアは夫を膝から下ろす。上手く操ってはいるが、苦労が透けて見えるアマリリアの様子に、ベンダーは同情を禁じえなかった。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字などありましたら教えていただけると喜びます。




