相席からの情報収集
聖女マリエンの生誕祭が近いせいか、帝都は活気にあふれていた。
普段は見ない外国の商人があちこちで露店を出し、ガラス玉や珍しい工芸品を売っている。気温が高くなるこの時期、腐りやすい生の食料を持ち込むことは難しい。珍しい動物の干し肉や、この辺りにない種類の麦程度が関の山だろう。実際、帝国では見かけないユキオオカミやヒトツメヤギの燻製がお祭り価格で売られていた。買い付けた国で売ったら、ぼったくりだと訴えられかねない値段だ。
だが、張り切って商売をする外国の商人たちと違って、道行く住人達の表情は硬い。「どうして?」と問いかけたセリアに答えてくれたのは、ベンダーではなく食堂で相席になったふたり組だった。
宿を取ろうにも時期が悪く、ベンダーはひとりで知人の家を回って宿を頼んでくると、盛大に腹を鳴らしたセリアを食堂に置いて行ってしまったのだ。仕方なくひとり寂しく食事を摂っていたところに、おかみさんが申し訳なさそうに相席を頼んできた。
ピンクの髪を短く刈り上げた男がハルピン、水色の髪を肩まで伸ばした男がロメオというらしい。ともに二十代半ばくらいで、外に出ることが多いのか日焼けしている。仕事帰りだというふたりは安酒を飲みながらセリアに絡み、適当に相手をしながら、セリアは情報収集する。
「なんだ、坊主、外国から来たのか?」
「うん。一年位前までスバリー森林の辺りでじーちゃんと暮らしてたんだ。今は傭兵の兄ちゃんと旅してる」
「へえ。小さいのにえらいもんだ」
「にしても遠くから来たんだなぁ。そりゃぁ帝都の事情なんざ知らんよな」
「だな。いいか坊主、内緒だぞ」
ハルピンがうんうんと頷き、相方ロメオが目で周りを確認してから声を潜めた。
「年々税が上がってる上、この祭りは帝都の住民の持ち出した。赤ん坊も年寄りも関係なく、ひとり金貨五枚出せって言われてんだ」
「そんなに?」
金貨五枚といえば、ひとりの二月分の生活費よりも多い。ひとり分ならどうにか捻出できても、子供が多い家や働けない年寄りのいる家庭では厳しいだろうに。
「悪女が死ぬ時、聖女様の力を持って行っちまったせいで、今やこの国はボロボロだ。国中を守ってた結界も消えちまって、力が無くなった聖女様じゃあ、帝都を守るだけで精一杯」
「結界があるだけ帝都はましで、一歩外に出りゃ魔物に殺されても文句言えねえって話だしな」
酒をあおりながら愚痴るふたりの話に相槌を打ちながら、セリアは不安そうに体を震わせて見せた。
「僕、怖いところに来ちゃったんですね」
「いや、旅の人からは集金しねぇから大丈夫だ!」
「そうそう。せっかく祭りの時期に来たんだ、楽しんでけよ!」
怖がらせて悪いとセリアの背中をバンバン叩いて、食事を終えたふたり組は帰って行った。入れ替わりに戻ってきたベンダーに食べきれなかった食事を押し付け、セリアは名物だという山羊の乳で煮出した紅茶を頼んだ。
生姜とシナモンと他にもいくつかのスパイスが入っていて、少し癖のある味だが、飲めなくはない。
「宿は見つかった?」
「ああ。騎士団時代の同僚が泊めてくれるそうだ。食ったら行くぞ」
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