おててとあんよを取り換えましょう
翌日、街道を外れた森の中で、ベンダーは叫んだ。
「なんっじゃこりゃぁ!?」
とにかく片腕を付け替えるまでは手伝えと命じられて、ベンダーは無体を働いているような、少し背徳的な気分になりながら少年のシャツの前をはだけた。そして、セリアの指示に従って肩からシャツを落とし、袖を引き抜く――はずだった。彼が余裕でいられたのはそこまでだ。
首から繋がる体は、確かに人間のものだった。白い肌には継ぎ目ひとつなく、グラッド家で甘やかされ、やや肉がついた体は柔らかでしなやかな若木を思わせる。それだけに、両の肩関節から生えた人形の腕が痛々しい。
「騒いでないで、腕を外してちょうだい。まっすぐ上に持ち上げて、下に引けば外れるから」
言われた通り右腕を持ち上げると、軋んだ音をたてて肩にひっかかっていた部分が浮き上がった。そのまま下に引き抜けば、セリアの言う通り腕は簡単に外れる。逆の手順で新しい腕を装着すると、セリアは内部を通る紐に魔法をかけた。それから肩の関節部を魔法の糸で肉体につないで、少年はぼんやり空を見上げる。
動けるようになるまで二時間近くかかるというので、結局ベンダーが四肢をすべて付け替えてやった。脚の構造は手とは少し違い、股関節の少し下で義足に太ももを差し込む形だった。
魔法が馴染んだ後、セリアは肩を回したり、飛び跳ねてみたり、一通り体を動かしてから満足げに頷いた。
ベンダーはその間、セリアに背を向け、小さな雷獣を召喚して役目を終えた手足を燃やしていた。動きを滑らかにするために油を塗ってあるというそれらはあっという間に燃えあがった。火勢が落ち着いた頃を見計らって水を入れた鍋を温め、干し肉を煮だして食べられる草を淹れただけのスープを作る。
鍋をかき混ぜるセリアはご機嫌だ。新しい手足の調子は上々らしい。
「それにしても、一体どうやったらそんな風になるんだ」
それは、義手と義足についてなのか。はたまた四肢を失くした原因なのか。見当がつきかねて黙るセリアの前に、ベンダーは指を三本立てた手を突き出した。
「ひとつめ、その体の持ち主は誰で、何故お前はセリア妃殿下になったのか。ふたつめ、どうして手足を失ったのか。みっつめ、その腕と足はどうやって普通の人間のように動かしているのか。俺が聞きたいのはこのみっつだ」
セリアはゆっくり目を閉じ、そして開いた。多大な呆れを含んだ桜色の瞳が、ベンダーを捉える。知りたいことはみっつだと彼は言ったが、どう考えてもこれは――。
「よっつじゃない」
意識的にか無意識にか、ひとつめの中にふたつ質問を入れ込んでいる。セリアが指摘すると、ベンダーは小さく舌を出して笑った。
「バレたか」
(……でかい男がそんなことしてもかわいくもなんともないわね)
「ずるい男。まあよろしいわ、答えてあげる。ひとつめ、この体の元の持ち主はセラフィズといったわ。シュレット王国の出身で重度の魔石病だった。十の時に罹患してたそうよ」
魔石病は原因不明の奇病だ。
魔臓が作った魔力を貯めておくことができず腹の中で魔力の塊である魔石が放出される場合と、魔臓自体が石化する場合とがある。患者は加護が強く魔力量が多い子供がほとんどで、十五歳を過ぎて発症することはまずない。
軽症でも根治は難しく、一度発症すると死ぬまで病に苦しめられる。治療法は魔臓の移植のみで、それもよほど軽症の体力のあるうちにしかできない。もちろん、そんなことができるのは一握りの裕福な家庭のみだ。そうでない子供たちは、早い者で発症して数か月、もっても数年のうちに儚くなることが多い、残酷な病。
ベンダーはまるで自分の家族がそうであったかのような、悲壮な顔で続きを促した。
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