089 犬じゃないニャ
昼前。
霜花亭の食堂に、皆が戻ってきていた。
シオンが塔から戻った。
ミラが情報屋ネットワークから、戻った。
エルナが騎士団から戻った。
それぞれ報告を終えて、霜花亭の食堂に集まっていた。
ルークはまだ、椅子に座っていた。
調子の良さが収まらず、足が踊っていた。
リントが横でそれを見て、ため息をついていた。
ユミルはお茶を飲んでいた。
ファーファは机の上で、寝ていた。
※
「**で、皆、報告**」
エルナが口を開いた。
「**騎士団、街の被害、確認済み**」
「**家屋、ほぼ無傷**」
「**ほぼ?**」
「**屋根、一部損傷**」
「**それくらい?**」
「**それくらい**」
エルナが頷いた。
「**王都、家、石造りだからな**」
「**強いな**」
「**直撃、なかった**」
「**……」
「**岩、当たった家、あったけど**」
「**屋根の瓦、飛んだくらい**」
「**家、自体無事**」
ミラが横で頷いた。
「**王都、伊達じゃ、ない**」
「**だな**」
「**外周、岩の破片、散乱してるけど**」
「**片付けと、屋根の修理**」
「**それで終わる**」
リントがそれを聞いて、止まった。
「**死者は**」
「**ゼロ**」
「**……」
「**奇跡的にゼロ**」
ユミルがぱちぱちと、瞬きした。
「**……あの防御、機能しましたか**」
「**完璧、機能した**」
「**家の石、強かったのと**」
「**お前のファイアウォール、岩の勢い削いでた**」
「**直撃、防いだ**」
「**……」
ユミルがお茶を、口に運んだ。
それから、ぽつりと言った。
「**……良かった、です**」
エルナが頷いた。
「**怪我人、いるけど**」
「**回復、可能ですか**」
「**多分、軽傷ばかり**」
「**ユミル、無理、するなよ**」
「**……はい**」
リントが口を挟んだ。
「**今日、無理する必要ない**」
「**……はい**」
「**軽傷者、命繋がってるなら、後でいい**」
「**……はい**」
エルナが頷いた。
「**塔の神官、医師、対応してる**」
「**安心、です**」
ユミルが頷いた。
※
「**シオン、塔は、どう、だった**」
「**……ヴェスタさん、選択伝えました**」
「**選んだ?**」
「**はい**」
シオンがお茶を飲んだ。
それから、ぽつりと言った。
「**……ファイアウォール、外してほしいと**」
「**……つまり**」
「**進行再開、覚悟で**」
「**寿命、削ってでも**」
「**……活動したい、と**」
エルナが唸った。
「**……重い**」
「**でも、本人の選択です**」
「**だな**」
「**ユミルさん**」
「**はい**」
「**ヴェスタさん、覚悟決めています**」
「**……承知、しました**」
「**ファイアウォール外す時、来たら教えてください**」
「**……はい**」
ユミルが頷いた。
それから、ぽつりと言った。
「**……ヴェスタさんに、お会い、したい、です**」
「**……」
「**直接、状態確認したい**」
「**承知しました**」
「**明日、ご一緒しましょう**」
「**お願いします**」
シオンが頷いた。
※
「**ミラ、情報、何か**」
「**ん**」
ミラがお茶を飲んだ。
それから、ぽつりと言った。
「**……王都内、特に大きな動きなし**」
「**マジか**」
「**マジ**」
「**でも、ソール撤退の噂、流れ始めてる**」
「**早いな**」
「**情報屋の世界、早い**」
ミラが肩をすくめた。
「**でも、噂ぼやけてる**」
「**ぼやけてる?**」
「**『王都で何か起きた』レベル**」
「**詳細、まだ出てない**」
「**だな、ありがたい**」
「**シオンの塔と騎士団、口固い**」
「**当面、情報コントロールできそう**」
エルナが頷いた。
※
リントがぽつりと言った。
「**……あいつ、ベラベラ話してたな**」
「**ソール?**」
「**ああ**」
エルナが頷いた。
「**確かに、戦闘中よく喋ってた**」
「**自慢、ばっかり**」
「**何、言ってたっけ**」
ミラがお茶を飲みながら、思い出したように言った。
「**『**俺、十二柱の、一人**』、って、言ってた**」
「**……」
リントが止まった。
「**十二柱**」
「**自分で、言ってた**」
「**……つまり、十二人いるのか**」
ミラが頷いた。
「**そう、なるね**」
「**十二人**」
「**ソールみたいなの、あと十一人**」
「**……」
エルナが唸った。
「**冗談だろ**」
「**冗談なら、いいけど**」
「**……」
シオンが横で、ぽつりと言った。
「**……あの規模の敵、十二人**」
「**……」
「**正直、戦慄します**」
リントが頷いた。
「**だな**」
「**仲間いる、とも言ってた**」
「**『**俺、引いても、仲間、いる**』、って**」
「**……」
エルナがため息をついた。
「**あいつ、本当にベラベラ喋ったな**」
「**性格だろうな**」
「**自分、強いと思ってるから**」
「**喋っても、問題ないと思ってる**」
「**……」
ユミルが横で頷いた。
「**……ソール、分かりやすい敵です**」
「**油断してる、もんな**」
「**負けない、と思ってる**」
「**だから、情報漏らす**」
「**……」
リントが頷いた。
それから、ぽつりと言った。
「**……でも、十二柱本気だったら**」
「**……」
「**俺たち、保つか**」
エルナが止まった。
それから、ぽつりと言った。
「**……分からん**」
「**だな**」
「**ソール一人相手で、あれだ**」
「**ユミルの消耗も、激しかった**」
「**……」
ユミルが頷いた。
「**……皆様のお力で、撃退できました**」
「**でも、次来たら**」
「**……」
「**今度は、二人かもしれない**」
「**三人、かもしれない**」
「**……」
シオンが頭を抱えた。
「**……守るだけでは、ダメですね**」
「**……」
「**こちらから、動かないと**」
リントが頷いた。
「**だな**」
「**守りに回ってると、消耗する**」
「**敵、こちらのペースで来る**」
「**……」
ユミルがぽつりと言った。
「**……はい**」
「**守るだけでは、ダメです**」
ユミルがお茶を飲んだ。
それから、ぽつりと言った。
「**……敵、どこから来てるか**」
「**ん**」
「**それ、塞ぐ必要あります**」
「**塞ぐ?**」
「**侵入経路、です**」
リントがぱちぱちと、瞬きした。
「**……あの遺跡か**」
ユミルが頷いた。
「**……はい**」
「**遺跡の綻び**」
「**それが、侵入経路**」
「**ヴェスティアの遺跡、白蛇の祭壇、両方**」
「**……」
「**他にも、あります**」
「**他にも?**」
「**世界中に、綻び点在しています**」
「**……」
エルナが唸った。
「**マジか**」
「**マジです**」
「**全部、塞がないとダメ?**」
ユミルが頷いた。
「**……塞ぐには**」
「**ん**」
「**私自身が、巡る必要あります**」
「**……」
リントが止まった。
「**お前自身が**」
「**はい**」
「**遺跡、現地行く**」
「**手で、修復する**」
「**……」
「**遠隔では、できません**」
「**そう、か**」
リントが頷いた。
「**じゃあ、巡るしかない**」
「**……はい**」
「**俺も、行く**」
「**ご一緒していただけますか**」
「**当然だ**」
「**……ありがとうございます**」
ユミルが頷いた。
エルナが横で唸った。
「**……長旅になるな**」
「**世界中だもんな**」
「**でも、やるしかない**」
「**だな**」
ミラが頷いた。
「**あたしも、行く**」
「**お前、情報必要だろ**」
「**情報、現地で集める**」
「**……」
「**それに、皆いる方が心強い**」
「**……だな**」
シオンが頷いた。
「**私も、ご一緒します**」
「**シオン、塔いいのか**」
「**……塔、説明します**」
「**世界の危機なら、塔も動くはず**」
「**だな**」
ルークが横で頷いた。
「**俺も**」
「**お前**」
「**家、守るのがお前の役目じゃ**」
「**……今は、兄貴とユミル様を守る時、じゃないか**」
「**……」
リントが止まった。
それから、ぽつりと言った。
「**……ありがたい**」
「**当然**」
ルークが頷いた。
ファーファも横で、目を細めた。
「**ファーファ、当然、行くニャ**」
「**お前、聞いてもない、のに**」
「**主と、主の主、行く、なら、ファーファも、行くニャ**」
「**……だな**」
リントがため息をついた。
それから、笑った。
「**……皆、行くか**」
「**行く**」
「**行く**」
「**行きます**」
「**行く**」
「**行くニャ**」
ユミルがそれを聞いて、ぱちぱちと瞬きした。
それから、ぽつりと言った。
「**……皆様、ありがとうございます**」
「**お前一人、行かせない**」
リントが頷いた。
「**前も、行ったろ**」
「**……はい**」
「**今度も、行く**」
「**……はい**」
ユミルが頷いた。
頷きながら、目の縁が、わずかに湿った。
※
エルナがぽつりと言った。
「**で、もう一つ**」
「**ん**」
「**ソール、最後に転送装置で消えた**」
「**だな**」
「**あれ、何**」
ユミルがぽつりと言った。
「**……アナライズしました**」
「**お前、観察してたのか**」
「**……はい**」
「**戦闘中、敵の能力構造、把握しています**」
「**……」
「**転送装置の仕組み、想像つきました**」
エルナが頷いた。
「**どんな仕組み**」
「**……空間の座標、二点登録**」
「**ふん**」
「**片方の座標に、対象置いて**」
「**もう片方に、転送**」
「**……」
「**スレイプニルという装置、らしいです**」
「**スレイプニル**」
「**ソール、自分で言ってた**」
「**……」
リントが頷いた。
「**あいつ、本当にベラベラ**」
「**おかげで、解析捗ります**」
ユミルがぽつりと笑った。
エルナが頷いた。
「**で、それこっちで使えるか**」
「**……」
ユミルが止まった。
それから、ぽつりと言った。
「**……再現できます**」
「**マジか**」
「**仕組み、把握しました**」
「**じゃあ、移動楽になるな**」
「**……はい**」
「**消耗激しい、けど**」
「**だろうな**」
「**緊急時、限定**」
「**了解**」
ユミルが頷いた。
※
ユミルがぽつりと言った。
「**……それと**」
「**ん**」
「**過去、訪れた遺跡**」
「**ヴェスティア、白蛇の祭壇**」
「**両方**」
「**何か、仕込んでありました**」
リントがぱちぱちと、瞬きした。
「**仕込み**」
「**遠隔操作できる、仕組み**」
「**……」
エルナが止まった。
「**お前、それいつ気づいた**」
「**……当時、気配感じました**」
「**でも、何か分からなかった**」
「**今、分かりました**」
「**……」
リントが頷いた。
「**お前、当時なんかしてた、もんな**」
「**……はい**」
「**それか**」
「**それです**」
リントが頷いた。
「**つまり**」
「**ん**」
「**敵、過去に遺跡いじってた**」
「**綻び、操作できるように**」
「**外から、開閉できるように**」
「**……」
ユミルが頷いた。
「**……それ、塞いでも**」
「**ん**」
「**敵、また開ける可能性あります**」
「**……」
エルナが唸った。
「**じゃあ、塞いでも無駄?**」
「**……完全には、無駄になりません**」
「**塞ぎ方、私が工夫します**」
「**敵の遠隔操作、無効化できる形で**」
「**……」
「**でも、時間かかります**」
「**だろうな**」
「**……」
リントが頷いた。
「**じゃあ、急ぐか**」
「**……はい**」
「**敵、こちらの動き知らないうちに**」
「**遺跡、巡って塞ぐ**」
「**並行して、敵観察**」
「**……」
ユミルが頷いた。
「**……はい**」
エルナが頷いた。
「**やること、いっぱいだな**」
「**だな**」
「**でも、やるしかない**」
「**だな**」
リントが頷いた。
※
ファーファが机の上で、もぞもぞと動いた。
それから、欠伸をした。
「**ニャー**」
ぱちりと、目を開けた。
それから、机の上で伸びをした。
「**主、皆、戻ってきたニャ**」
「**おう**」
「**会議?**」
「**会議**」
「**ニャ**」
ファーファが起き上がった。
それから、机の上で座った。
机の皆を、見渡した。
「**ファーファも、参加、するニャ**」
「**お前、寝てた、だろ**」
「**夢の中で、参加、してたニャ**」
「**してねえ、だろ**」
エルナが笑った。
ファーファがふと、思い出したように、ユミルを見た。
「**主の主**」
「**はい**」
「**昨日、ファーファ人になれたニャ**」
「**……はい**」
「**不思議ニャ**」
「**……はい**」
「**もう一度、なれるニャ?**」
ユミルが止まった。
それから、ぽつりと言った。
「**……なれます**」
「**ニャ?**」
「**ハーネス、制御解除すれば**」
シオンが横で、それを聞いた。
ぱちぱちと、瞬きした。
「**……ハーネス?**」
ファーファが即座に反応した。
「**犬じゃないニャ!**」
シオンがぱちぱちと、瞬きした。
「**……は?**」
「**ファーファ、犬じゃないニャ**」
「**え、いえ、犬とは、思って、いません**」
「**ハーネス、犬の首輪ニャ**」
「**……あー**」
「**ファーファ、首輪嫌ニャ**」
ユミルが横から、口を挟んだ。
「**……ファーファ**」
「**ニャ**」
「**ハーネス、便宜上の呼び方です**」
「**首輪ニャ**」
「**……便宜上**」
「**今、外れてるニャ?**」
「**……一部、外れています**」
「**ニャ**」(しゅん)
リントが横で、それを聞いていた。
「**お前、外れてるのに文句言うのか**」
「**気持ちの問題ニャ**」
「**……」
「**呼び方、嫌ニャ**」
「**お前、贅沢すぎるぞ**」
エルナが笑った。
「**こいつ、本当に自由だな**」
「**自由ニャ**」
「**威厳、どこ行った**」
「**威厳、必要な時出すニャ**」
「**今は?**」
「**今は、寛いでるニャ**」
「**……」
ミラも笑った。
「**こいつ、面白い**」
シオンが横で、頭を抱えていた。
「**……皆さん**」
「**ん**」
「**ハーネスって、何ですか**」
ユミルが止まった。
それから、ぽつりと言った。
「**……出力、制御、装置、です**」
「**出力**」
「**ファーファの力、強すぎるので**」
「**制御しています**」
「**……」
「**普段、抑えています**」
「**抑えないと、どうなるんですか**」
ファーファが横から、口を挟んだ。
「**ファーファ、暴走するニャ**」
「**暴走**」
「**戦闘狂、貪欲、執着ニャ**」
「**……」
「**主の主、優しさで抑えてくれてるニャ**」
「**……ファーファ**」
「**ニャ**」
「**自覚、あるんですね**」
「**当然ニャ**」
「**……」
シオンが頭を抱え直した。
それから、ぽつりと言った。
「**ユミルさん**」
「**はい**」
「**……それは、また後でですか**」
ユミルがぱちぱちと、瞬きした。
それから、笑った。
「**……はい**」
「**承知、しました**」
シオンが頷いた。
頷きながら、心の中でメモを取った。
——「ご説明、後で」、項目、増えてる。
——……。
——でも、待つ。
——いつか、来る。
シオンは口に、出さなかった。
ただ、お茶を飲んだ。
※
エルナがぽつりと言った。
「**で、ファーファ**」
「**ニャ**」
「**人化、もう一度できるんだな**」
「**できるニャ**」
「**便利だな**」
「**便利ニャ**」
「**戦闘になれば、また頼むぞ**」
「**任せるニャ**」
ファーファがぐっと、胸を張った。
「**ファーファ、戦闘得意ニャ**」
「**だな**」
「**ジャーキー、所望ニャ**」
「**お前、それ毎回だな**」
「**ご褒美ニャ**」
「**まだ、戦ってないだろ**」
「**前払いニャ**」
「**……」
リントがため息をついた。
それから、ジャーキーを一切れ、ファーファに渡した。
ファーファがぱくりと、食べた。
「**美味しいニャ**」
「**お前、本当に自由だな**」
「**自由が、ファーファの強さニャ**」
「**……」
エルナが笑った。
「**こいつの口癖、増えてきたな**」
「**ニャ?**」
「**前は、『ジャーキー所望ニャ』だけだった**」
「**今は、色々言うニャ**」
「**お前、進化してる**」
「**進化してるニャ**」
ファーファが目を細めた。
※
リントがぽつりと言った。
「**ユミル**」
「**はい**」
「**昨日のhoge矢、また使えるか**」
「**……使えます**」
「**ただし**」
「**ただし?**」
「**音、かなり煩いです**」
「**……だな**」
エルナが頷いた。
「**確かに、街中響いてた**」
「**奇襲、向きません**」
「**正面戦闘、専用**」
「**了解**」
リントが頷いた。
シオンが横で、それを聞いていた。
「**ユミルさん**」
「**はい**」
「**あのhoge矢、何だったんですか**」
ユミルが止まった。
それから、ぽつりと言った。
「**……分かりません**」
シオンがぱちぱちと、瞬きした。
「**……は?**」
「**私、把握していません**」
「**でも、再現できる**」
「**できます**」
「**……」
シオンが頭を抱えた。
「**ユミルさん、矛盾しています**」
「**……はい**」
「**作れるけど、何か分からない?**」
「**はい**」
「**……」
ユミルがお茶を飲んだ。
それから、ぽつりと言った。
「**……世界のバグ、らしいです**」
「**バグ?**」
「**仕組みの隙間**」
「**仕様、想定されていない現象**」
「**でも、起きる**」
「**理由、不明**」
「**……」
「**でも、再現性あります**」
「**……」
シオンが止まった。
それから、ぽつりと言った。
「**……ユミルさんでも、分からないことが、あるんですね**」
「**……はい**」
「**あります**」
「**世界、私の想定を超えます**」
「**……」
ユミルが笑った。
「**……それもまた、面白いです**」
シオンがぱちぱちと、瞬きした。
それから、ふっと笑った。
「**……ユミルさん、楽しんでますね**」
「**……はい**」
「**世界に、未知がある**」
「**それ、嬉しいです**」
「**……」
シオンが頷いた。
頷きながら、心の中で思った。
——ユミルさん、こういう、時、本当、楽しそうだ。
——……。
——百年、生きてる、人らしい、感覚、なのかな。
——いや、もっと、長い、感覚、かな。
シオンは口に、出さなかった。
ただ、お茶を飲んだ。
※
リントがぽつりと言った。
「**で、ユミル**」
「**はい**」
「**お前、解析したのか**」
「**……はい**」
「**何が、起きてた**」
ユミルがお茶を飲んだ。
それから、ぽつりと言った。
「**……超振動です**」
「**超振動**」
「**矢、空気中で超高速振動しています**」
「**……」
「**振動の周波数、極端に高い**」
「**人の目では、見えない**」
「**でも、起きてる**」
「**……」
リントが止まった。
それから、ぽつりと言った。
「**それで、貫通力上がってるのか**」
「**はい**」
「**振動が、対象の構造削ります**」
「**音、煩いのは**」
「**振動、空気を揺らすためです**」
「**……なるほど**」
リントが頷いた。
ユミルが続けた。
「**ただ**」
「**ん**」
「**この現象**」
「**ん**」
「**世界の仕様として、本来起きません**」
「**……」
「**仕様外**」
「**でも、コマンド入れると起きる**」
「**……」
「**理由、分かりません**」
「**でも、起きる**」
「**起きます**」
「**再現性、あります**」
リントが頷いた。
「**じゃあ、俺自分でコマンド唱えても、出せるのか**」
「**はい**」
「**hoge矢**」
「**……はい**」
「**お前のユミル、抜きで**」
「**抜きで、出せます**」
「**……」
「**コマンドライン、リン様お入れになれば**」
「**俺、自分で撃てるのか**」
「**撃てます**」
リントが止まった。
それから、ぽつりと言った。
「**……便利だな**」
「**はい**」
「**でも、消耗激しいです**」
「**だろうな**」
「**お気をつけ、ください**」
「**了解**」
リントが頷いた。
エルナが横で笑った。
「**お前、独立できるな**」
「**まだ、ユミルいるけどな**」
「**だな**」
「**……」
ユミルがぱちぱちと、瞬きした。
「**……リン様、独立なさいますか**」
「**しない**」
「**……」
「**お前、いないと困る**」
「**……はい**」
ユミルがふっと笑った。
シオンが横で、頭を抱えていた。
「**……皆さん**」
「**ん**」
「**世界のバグ、コマンドで再現**」
「**はい**」
「**それ、何の技術ですか**」
ユミルがぱちぱちと、瞬きした。
それから、ぽつりと言った。
「**……ご説明、後で、します**」
シオンがふっと笑った。
「**……承知、しました**」
シオンが頷いた。
頷きながら、心の中でメモを取った。
——「ご説明、後で」、項目、また、増えた。
——……。
——でも、いい。
——いつか、来る。
シオンは口に、出さなかった。
ただ、お茶を飲んだ。
※
エルナがお茶を飲んだ。
それから、ぽつりと言った。
「**で、誰がMVP**」
「**MVP?**」
「**昨日の戦い**」
「**……」
ミラが笑った。
「**MVP、ファーファだろ**」
「**ニャ?**」
「**お前、街中の猫まとめた**」
「**避難誘導、した**」
「**死人ゼロの、立役者**」
ファーファが目を細めた。
「**ニャー、当然ニャ**」
「**お前、調子乗りすぎ**」
リントが口を挟んだ。
「**MVP、ユミルだろ**」
「**ニャ?**」
「**ファイアウォール、街守った**」
「**ソールの能力、把握してた**」
「**戦術、組んでくれた**」
ユミルがぱちぱちと、瞬きした。
「**……私、防御だけです**」
「**それが、すごいんだよ**」
「**……」
エルナが頷いた。
「**いや、リント君も**」
「**俺?**」
「**お前、矢当てた**」
「**ソール、撤退の原因はお前**」
「**……」
リントが頬を、わずかに赤らめた。
「**お前、そういうの照れるな**」
「**だってお前、急に**」
「**事実だぞ**」
「**……」
ミラが笑った。
「**じゃあ、皆MVPで**」
「**だな**」
「**異議、なし**」
シオンが横で頷いた。
「**……皆さん、皆MVPです**」
「**……」
ファーファが机の上で、目を細めた。
「**ファーファ、MVPニャ**」
「**お前、皆だ**」
「**ファーファ、特にMVPニャ**」
「**お前、欲深い**」
「**邪竜、ニャ**」
「**……」
リントがため息をついた。
ユミルが横で笑った。
ルークが横で笑った。
エルナとミラとシオンも笑った。
※
笑いが収まった後。
エルナがぽつりと、ルークを見た。
「**そういえば、ルーク**」
「**はい**」
「**お前、昨日すごかったな**」
ルークがぱちぱちと、瞬きした。
「**……俺?**」
「**お前**」
「**子供3人、庇ったろ**」
「**……」
ルークが頬を、赤らめた。
「**い、いえ、当然のことを**」
「**自分、岩避けないで、子供優先した**」
「**……」
「**ミラ、見てた**」
ミラが頷いた。
「**見てた、見てた**」
「**ルーク君、すごかった**」
「**……勘弁してください**」
「**いや、本当**」
「**子供、抱えて走って**」
「**自分の肩、岩当たっても止まらなかった**」
「**……」
ルークが頬を、ますます赤らめた。
エルナが頷いた。
「**お前、男前だな**」
「**……」
「**いや、本当に**」
「**……勘弁**」
リントが横で、それを見ていた。
——お前、知らない、間に、男、上げた、な。
——……。
——お前、リファクタリング、関係、なく、男前、だった、な。
——昨日、お前の、頑張り、本物だ。
リントは口に、出さなかった。
ただ、ルークの肩を、軽く叩いた。
ルークがぱちぱちと、瞬きした。
「**……兄貴**」
「**おう**」
「**何**」
「**いや**」
「**……」
「**よく、やった**」
ルークが止まった。
それから、頬を、わずかに赤らめた。
「**……ありがとう、ございます**」
エルナが横で笑った。
「**お前ら兄弟、本当にいいな**」
「**うるさい**」
「**いや、いいいい**」
ミラも笑った。
「**ほっこりする**」
シオンも、笑った。
「**……皆さん、いい家族です**」
ユミルが横で、それを見ていた。
ユミルがぽつりと言った。
「**……家族、いいですね**」
「**……」
「**温かい**」
「**お前も、家族だぞ**」
リントがぽつりと言った。
ユミルがぱちぱちと、瞬きした。
「**……はい**」
「**お前、もう家族**」
「**……ありがとう、ございます**」
ユミルが笑った。
笑いながら、目の縁が、わずかに湿った。
ファーファが机の上で、ぽつりと言った。
「**ファーファも、家族ニャ**」
「**お前も、だ**」
「**ジャーキー、所望ニャ**」
「**お前、それ家族発言、潰すな**」
「**ニャ?**」
「**台無しだろ**」
「**ジャーキー、家族の印ニャ**」
「**お前、こじつけ上手い**」
「**邪竜、ニャ**」
「**……」
リントがため息をついた。
それから、ジャーキーを一切れ、ファーファに渡した。
ファーファがぱくりと、食べた。
「**美味しいニャ**」
霜花亭の食堂が、笑い声で満ちていた。
戦いの翌日の昼が、ゆっくり過ぎていた。
※
——第八十八章、了。




