073 兄と仲間たち
午後。
ルークの紹介を、シオンとミラにする必要があった。
夕方、ミラの酒場で集まることにした。
奥の個室で、五人と一匹とルーク。
ルークが、初めての場所で少し緊張していた。
シオンが先に来ていた。
ルークと初対面。
「初めまして、シオンと申します」
「ルークです。弟が、お世話に」
「いえいえ」
「宮廷魔法塔、お勤めと」
「はい」
「すごい、ですね」
「いえ、ただの見習いです」
「謙虚」
「ルークさんも、お見受けしたところ」
「俺は、ただの田舎の剣士です」
「鍛えていらっしゃる」
「お分かりに」
「体格、佇まい、分かります」
「ありがとうございます」
二人が少し話し始めた。
エルナとリントが横で見ていた。
「リント君」
「ん」
「ルーク君と、シオン、合うね」
「合うな」
「真面目同士」
「真面目同士」
「ユミルちゃんも、そっち系」
「ユミル、合うか」
「合う」
ユミルが横で頷いた。
「シオン様、ルーク様、お話、楽しそうです」
「だな」
「私も、お混ぜいただいて、いい?」
「いいだろ、混ざれ」
「はい」
ユミルがシオンとルークの会話に混ざった。
魔法と剣の訓練の話、礼儀の話、村と王都の話。
三人が楽しそうに話していた。
リントはエルナと、別の話をしていた。
「兄貴、来たから、しばらく王都にいる」
「だろうね」
「で、ブリッドリーへの出発、また延びるか」
「数日、延ばそう」
「うん」
「兄貴、王都、見せてあげなよ」
「だな」
「あんた、案内上手?」
「案内、できる」
「分かった、王都で今、観光できる場所、あたしも教える」
「頼んだ」
「あたし、貴族街、案内できる」
「兄貴、貴族街、興味ないと思う」
「だろうね」
エルナが笑った。
「商業区、市場、神殿、塔」
「うん」
「お城、近く見られる」
「だな」
「あと、酒場、夜の王都」
「兄貴、酒、強くないぞ」
「軽く、紹介だけ」
「分かった」
二人が頷いた。
※
ミラが奥から出てきた。
「お、新しいお客?」
「兄貴」
リントが言った。
「兄貴、ルーク?」
「うん」
「あら」
ミラがルークを見た。
ルークが立ち上がって、頭を下げた。
「ルークと申します」
「ミラよ」
「冒険者のお仲間と、伺っています」
「ええ」
「弟が、お世話に」
「いえいえ」
ミラが少しルークを見ていた。
ルークがその視線に、戸惑った。
「あの……」
「ごめんね、ちょっと観察してた」
「観察、ですか」
「リント君のお兄ちゃん、どんな人かな、って」
「真面目な田舎者、です」
「うん、見れば分かる」
「失礼ですが」
「ん?」
「あなたは、どちらの」
「ファールバウティ家、三女」
「**貴族のお方**」
「没落、貴族」
「失礼、しました」
ルークがもう一度、頭を下げた。
ミラがふっと笑った。
「堅いね」
「お行儀」
「リント君と、対照的」
「弟、口、悪いです」
「だな」
リントが横で息を吐いた。
「ミラ、お前、口悪いの得意じゃん」
「口、悪い専門家」
「だな」
「あんたの兄貴、可愛がるつもりだったけど」
「うん?」
「**ちょっと、堅すぎ**」
「だな」
「あたし、苦手、堅い人」
「兄貴、苦手」
「いや、苦手というか」
ミラが少し迷った顔をした。
「**気が合わない感じ**」
ルークがぽつりと言った。
「すみません」
「謝らなくて、いい」
「いえ、すみません」
「だから、謝るなって」
「すみません」
「**……謝る癖、深いね、あんた**」
「すみません」
「もう、やめて」
ミラが笑った。
ルークもふっと笑った。
「すみません」
「あんた、面白いね、でも」
「ありがとうございます」
「あたしの店、長居してね」
「お言葉に、甘えて」
「ほら、また堅い」
「すみません」
ミラが声を出して笑った。
エルナが横でにやにやしていた。
「ミラ、ルーク君に興味、出てきた?」
「興味、出る出ないじゃない」
「じゃ、何」
「**面白い**」
「面白い」
「リント君と、対照的すぎ」
「だな」
「面白い、観察対象」
「兄貴、観察対象にされた」
リントが、ルークを、見て、言った。
「観察対象?」
「ミラ、こういう堅い人、観察好き」
「困ります」
「諦めろ」
「**諦めろ、って**」
「ミラ、こういう人見ると、噛みつく」
「噛みつかない」
ミラが否定した。
「噛みつくでしょ」
エルナが言った。
「噛みつかない」
「絶対、噛みつく」
「噛みつかないって」
ミラが頷いたふりをして、ルークを見た。
「ルーク君、覚悟しといて」
「覚悟、ですか」
「あたし、観察する」
「お手柔らかにお願いします」
「いいよ、楽しもう」
「楽しい?」
「楽しい」
ミラがふっと笑った。
ルークが戸惑いの笑みを浮かべた。
——兄貴、可哀想だな。
——でも、ミラ、悪意ない。
——兄貴、慣れろ。
リントが少し笑った。
※
ユミルが横でルークを見ていた。
シオンがルークと、また話していた。
ユミルはその様子を観察していた。
「ユミル」
リントが声をかけた。
「はい」
「兄貴、観察してるな」
「観察、しています」
「何、見てる」
「ルーク様、リン様のご家族の要素」
「要素?」
「リン様の目、お兄様にもあります」
「そうか」
「リン様の笑い方、お兄様、似ています」
「そうか」
「お母様、お父様の要素も、感じます」
「うん」
「ご家族、繋がっている感じ、します」
「だな」
「綺麗、ですね」
「綺麗?」
「**家族の繋がり**、綺麗です」
「お前、綺麗って言うんだな」
「綺麗、です」
「うん」
リントが頷いた。
——お前、家族ない、と言ってたな。
——でも、家族の繋がり見て、綺麗って言える。
——お前、その繋がりに参加できないけど。
——参加しようと、しないけど。
——でも、見ている。
——綺麗、と感じている。
——……。
リントは口に出さなかった。
ただ、ユミルの隣に立った。
ユミルは、ルークとシオンの会話を見ていた。
少し、寂しさが横顔にあった。
でも、笑顔もあった。
——複雑な、お前。
——でも、それでいい。
——お前は、お前の形でここにいる。
リントはユミルの肩に、軽く手を置いた。
ユミルが、ぱちぱち、と瞬きした。
「リン様」
「ん」
「肩」
「分かってる」
「珍しい」
「うるさい」
「ありがとう、ございます」
ユミルが小さく笑った。
リントは手を、すぐに外した。
——一瞬で、十分。
——お前を独占しないけど、忘れもしない。
——その距離。
リントは口に出さなかった。
ファーファがユミルの肩で目を細めた。
「**主、ユミル、独占、ニャ**」
「独占、してない」
「**肩、触ったニャ**」
「軽くだ」
「**独占ニャ**」
「お前、見てたんだな」
「**見てたニャ**」
「うるさい」
「**ジャーキー、所望ニャ**」
「**話、ずらすな!**」
リントが叫んだ。
ユミルが声を出して笑った。
エルナが振り向いた。
「ユミルちゃん、笑った?」
「笑いました」
「珍しい」
「珍しい、です」
「いいことだ」
「いいこと、です」
エルナが頷いた。
※
夜。
酒が、進んだ。
シオンが酔って、少し饒舌になった。
ミラがルークを観察しながら、酒を運んでいた。
エルナが皆を回って、酒を注いでいた。
リントとユミルは、少し離れて座っていた。
ファーファはユミルの膝で寝ていた。
ルークが酔って、リントを見た。
「リント」
「ん」
「**お前の、仲間、いいな**」
「だろう」
「皆、面白い」
「面白いな」
「俺、村にいて、こういう繋がり、なかった」
「うん」
「お前、これ見つけたな」
「見つけた」
「**お前、俺の、自慢の、弟だ**」
リントが止まった。
——兄貴、またそれ言うか。
——前にも、言ったな。
——俺、ラウンドローズに出る前。
——兄貴、酔ってない時にも言った。
——今、酒入ってるけど、本心。
「兄貴」
「ん」
「俺もだ」
「お前も?」
「**お前、俺の、自慢の、兄貴**」
ルークが止まった。
それからふっと笑った。
目が潤んでいた。
「お前、初めて言ったな、それ」
「初めて」
「うん」
「言いたかったけど、言えなかった」
「うん」
「今、言える」
「うん」
「兄貴、ありがとう」
「お前」
「ん」
「俺も、ありがとう」
リントとルークが、しばらく見つめ合っていた。
エルナが横で酒を飲みながら、見ていた。
「兄弟、いいね」
「いいよ、兄弟」
ミラが頷いた。
シオンも頷いた。
「家族、大事です」
シオンが言った。
「だな」
「私、家族ないですけど、家族、大事と思います」
「うん」
「皆さんが、私の家族みたいです」
「シオン、酔ったね」
エルナが笑った。
「酔いました」
「素直」
「素直、です」
ユミルも頷いた。
「皆さん、私の仲間です」
「家族、じゃ?」
ルークが訊いた。
「仲間です。仲間、家族、近いけど、違います」
「分かった」
「仲間、私の形」
「うん」
「家族、リン様、ルーク様の形」
「だな」
「両方、大事です」
「両方、大事」
ルークが頷いた。
「**ユミル様、賢い、ですね**」
「ありがとう、ございます」
「弟、頼みます」
「お任せください」
ユミルが深く頭を下げた。
ファーファがユミルの膝で目を開けた。
「**ルーク様、立派ニャ**」
「お前、ルーク、認めたんだな」
リントが訊いた。
「**認めたニャ**」
「珍しいな」
「**主の、ご家族ニャ**」
「うん」
「**我も、家族ニャ?**」
ユミルがファーファの背を撫でた。
「ファーファ、仲間です」
「**仲間ニャ**」
「家族では、ないです」
「**家族、欲しいニャ**」
「ファーファ?」
「**冗談ニャ**」
「冗談?」
「**ジャーキー、所望ニャ**」
「**お前、結局、ジャーキーかよ!**」
リントが叫んだ。
酒場の笑い声が広がった。
ルークが声を出して笑った。
「**リント、お前、いい、仲間、いる、なあ**」
「うん」
「俺も、ここで、修行、決めた」
「決めた?」
「お前らと、いられる王都」
「うん」
「修行、王都でする」
「いいよ」
「**俺、お前らに、追いつく**」
リントが頷いた。
「追いつけ」
「うん」
ルークの王都生活が、こうして本格的に始まった。
仲間たちと、初めての夜。
ルークの目が輝いていた。
その輝きを、リントが横で見ていた。
——兄貴、王都、馴染むだろう。
——皆と、合うだろう。
——よかった。
——……。
リントは口に出さなかった。
ただ、酒をもう一杯飲んだ。
夜が深まっていった。
王都の星空が、酒場の窓から見えた。
その下で、新しい家族の形が増えていた。
※
——第七十二章、了。




