067 ギルドマスターからの提案
数日後の朝。
霜花亭で朝食を取っていると、ギルドからの使者が来た。
「冒険者の、リント様」
「ん」
「**ギルドマスターから、お呼び出しです**」
リントが顔を上げた。
「ギルドマスター、自ら?」
「はい」
「珍しいな」
「**重要案件、と伺っています**」
エルナが横で姿勢を変えた。
「あたしも?」
「はい、エルナ様も」
「ユミルちゃん、ファーファも」
「皆様、と伺っています」
「分かった」
リントが頷いた。
「シオンと、ミラは」
「お二人にも別途、連絡されているかと」
「だな」
「すぐ、行く」
「お待ちしております」
使者が頭を下げて戻った。
リント、ユミル、エルナの三人と一匹は朝食を素早く済ませて、ギルドへ向かった。
※
ギルドの上階。
ギルドマスターの執務室。
普段、入ったことのない部屋。
中に、ギルドマスターとシオン、ミラが既にいた。
ギルドマスター、ヴェルナー・グラウシュタイン。
六十代、屈強な体格、白髪、深い声。
王都ギルドの長を長年務めている。
冒険者出身、伝説的な剣士と噂されていた。
「来たな」
ヴェルナーが言った。
「失礼、します」
リントが頭を下げた。
エルナも頭を下げた。
ユミルも頭を下げた。
「座れ」
三人が椅子に座った。
ファーファはユミルの肩で、緊張した顔をしていた。
シオンとミラは既に座っていた。
ヴェルナーが机の上で両手を組んだ。
「単刀直入に言う」
「はい」
「お前たちが追っているもの、私も知っている」
リントが息を止めた。
エルナも姿勢を変えた。
「ご存知、ですか」
「知っている」
「いつから」
「最初から」
「最初」
「ヘルベルトの件、お前たちに回した、私だ」
「うん」
「ミナ、私の判断で、お前たちに回した」
「指名、だったんですか」
「指名」
「なぜ」
「お前たちが適任、と判断した」
ヴェルナーがリントを見た。
そして、ユミルを見た。
「**ユミル殿の、力**」
ユミルが姿勢を変えた。
「私、ですか」
「お前の力、登録時、ギルドの水晶が沈黙した」
「はい」
「あれ、私が聞いている」
「うん」
「お前、普通でない」
「はい」
「敵に対抗できる可能性が、ある」
「……」
「お前たちのチーム、敵に対抗できる唯一の可能性」
エルナが息を吐いた。
「ヴェルナーさん、敵の、正体、ご存知?」
「**部分的に**」
「教えて、ください」
「教える」
ヴェルナーが頷いた。
「白蛇の信徒、だけではない」
「複数、組織、と」
「複数」
「白蛇は、その最前線」
「うん」
「他にも、組織ある」
「ヴァナール側、に?」
「ヴァナール側、ヘリオン側、ロスト諸国側、複数」
「広い」
「広い」
「**目的、共通**」
「共通」
「現王権、打倒」
リントが眉を寄せた。
「王権、打倒」
「複数の組織が、共通の目的で連携している」
「うん」
「指導者、いるか」
「いる、らしい」
「らしい」
「私も特定できていない」
「うん」
「指導者、複数の組織を束ねている」
「うん」
「**強力な、何か**」
ユミルが横で頷いた。
「気配、感じ、ます」
「うん?」
「以前から」
「言ってませんでした」
「言うほどの確証、ない、ので」
「だな」
「でも、気配、ある」
ヴェルナーがユミルを見た。
「ユミル殿、お前の感知、信じる」
「ありがとう、ございます」
「敵、強力、と覚悟しろ」
「はい」
「で、本題」
ヴェルナーが続けた。
「お前たちに長期依頼を、出す」
「長期」
「王都近郊、各地を回ってもらう」
「各地?」
「王都の周辺、複数の町、村」
「うん」
「**異変、調べてもらう**」
「異変」
「神官、商人、貴族、村人」
「うん」
「異変が王都だけ、と思うか」
リントが息を呑んだ。
「他の町、村にもある、と」
「報告が上がってきている」
「具体的に」
「ブリッドリー」
「うん」
「ヴェスティア」
「うん」
「カルデア、近郊」
「全部、王都までの街道」
「街道、敵の通り道」
エルナが息を吐いた。
「あたしら、来た道」
「お前たちが来た道で、敵の痕跡が増えている」
「だな」
「依頼内容」
ヴェルナーが続けた。
「王都を、拠点に、各地を、回る」
「うん」
「異変、調査」
「うん」
「敵の、全貌、掴む」
「うん」
「期間、未定」
「未定」
「半年、一年、続く可能性」
「うん」
「報酬」
「うん」
「破格」
ヴェルナーが額の書類を机に置いた。
リントが額を見た。
息を吐いた。
「これは……」
「破格、と、言った」
「うん」
「五人、長期、生活費、十分」
「だろうな」
「装備、宿、移動、全部込み」
「うん」
「ギルド、後ろ盾になる」
「うん」
「お前たち、ギルドの専属扱い」
「専属」
「他の依頼、断っていい」
「うん」
「全力で、これを追え」
「……」
リントが四人を見た。
エルナが頷いた。
「やる」
ミラが頷いた。
「やる」
シオンが頷いた。
「やります」
ユミルが頷いた。
「お受けします」
リントも頷いた。
「やります」
ヴェルナーが頷いた。
「決断、早い」
「うん」
「お前たち、覚悟できているな」
「できています」
「で、注意」
ヴェルナーが姿勢を正した。
「敵、強力」
「うん」
「死ぬ可能性、ある」
「うん」
「全員、生きて戻ってくる、と約束しろ」
「……」
「**生きて、戻れ**」
ヴェルナーが深い声で言った。
リントが深く頭を下げた。
「**生きて、戻ります**」
エルナも頭を下げた。
「**生きて、戻ります**」
ミラも頭を下げた。
「**生きて、戻ります**」
シオンも頭を下げた。
「**生きて、戻ります**」
ユミルも頭を下げた。
「**皆さん、生きて、戻します**」
ヴェルナーがふっと笑った。
「ユミル殿、責任、感じすぎるな」
「責任、感じています」
「皆、覚悟している」
「はい」
「皆で戻れ」
「はい」
ファーファがユミルの肩で頷いた。
「**我も、生きて、戻るニャ**」
「お前、入れるな」
リントが言った。
「**仲間ニャ**」
「だから、入んな」
「**ジャーキー、所望ニャ**」
「**真面目な場面で、それ、出すな!**」
リントが叫んだ。
ヴェルナーが声を出して笑った。
「これは、面白い、仲間だな」
「すみません」
「いや、頼もしい」
「頼もしい、ですか」
「**緊張した状況で、笑える、仲間。これが、最強だ**」
ヴェルナーが頷いた。
「お前たち、強い」
「うん」
「期待、している」
「はい」
「では、出立、いつから」
「準備、整い次第」
「三日、ください」
リントが言った。
「分かった」
「装備、補充」
「うん」
「拠点、霜花亭、継続、で、いい、ですか」
「いい」
「では、三日後、出立」
「決まりだ」
ヴェルナーが書類を机から取り、リントに渡した。
リントがそれを受け取った。
長期依頼書。
正式な、ギルドの判子。
これで五人と一匹は、王都を拠点とする長期戦に入る。
第四部の、最後の入り口だった。
※
ギルドを出て、五人と一匹は無言で歩いた。
しばらくして、ミラが言った。
「**長くなるね**」
「だな」
「半年、一年」
「うん」
「あたしの店、どうしよう」
「店?」
「閉める、わけにいかない」
「だろうな」
「信頼できる人間に、任せるしか」
「いるのか」
「いる」
「誰だ」
「あたしの、姉」
「修道院の?」
「いや、上の姉」
「上は、嫁いだんじゃ」
「夫が最近、亡くなった」
「ああ」
「実家に戻ってきてる」
「うん」
「店、任せられる」
「だな」
「あたしの方は、姉に相談する」
「分かった」
シオンが頷いた。
「私の方も、塔に長期休職を申請します」
「許可、出るか」
「ヴェルナー様の推薦状あれば、出ます」
「だな」
「塔の研究、別の人に引き継ぎます」
「うん」
エルナが息を吐いた。
「あたし、家に報告する」
「うん」
「母さん、また口論、覚悟」
「だろうな」
「でも、行く」
「うん」
「あたしが決めた道」
「だな」
リントが頷いた。
「俺は、村に手紙書く」
「うん」
「父さん、母さん、兄貴」
「うん」
「長期、王都が拠点、と伝える」
「うん」
「心配、するだろうな」
「だろうね」
「でも、伝える」
「うん」
ユミルが横で頷いた。
「私、皆さんと、一緒、です」
「だな」
「拠点が霜花亭、ありがたい、です」
「うん」
「霜花亭の女将に、長くお世話になります」
「だな」
「挨拶、しないと」
「だな」
ファーファがユミルの肩で目を細めた。
「**我、ジャーキー、ストック、必要ニャ**」
「**お前、それ、最大の心配事かよ**」
リントが叫んだ。
エルナが声を出して笑った。
「ファーファ、安定」
「**安定ニャ**」
「**安定、頼もしい**」
「**頼もしいニャ**」
「お前、調子、良くなってきたな」
「**主、教育の、賜物ニャ**」
「お前、誰の、教育」
「**主の主ニャ**」
「だろうな」
ユミルが小さく笑った。
王都の通りを五人と一匹が歩いた。
これから、各自それぞれの覚悟を固める時間。
そして、三日後、長期戦に入る。
王都の空は晴れていた。
雲一つない、青空。
その下で、五人と一匹の新しい段階が始まろうとしていた。
※
——第六十六章、了。




